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第二十八話 アイテムボックスの強み

 ーーさて、マチルダを逃がしたは良いが。

 俺は絶賛戦闘中である。


(セツナの援護が無いだけでここまでキツいとはな)


 一発一発こそ軽いが、相手の手数が圧倒的に多い。


 この相対している巨大な魔物は、無数の木の根を操り叩きつけてくる。

 唯一の救いはそこまで賢い訳では無く、手数が多いだけで動きは単調だという所だろうか。


(となると、やっぱり一番鬱陶(うっとう)しいのは。ーーアイツか)


 俺は木の洞に相変わらず無表情で腰掛ける少女、フェアツィヒトを見やる。


 魔物の攻撃に差し込むように、嫌なタイミングで放ってくる闇魔法が地味に辛い。


 となると先にヤツから片付けたいが、木の洞に居るために近付こうにも木の根が邪魔をしてくるために近付けない。



「・・・逃げないで。面倒臭い」



「逃げなきゃ潰されるだろ!『火の弾丸』!!」



 木の根を跳躍して躱した先に闇魔法が飛んでくるので、火魔法で爆ぜさせる。


(ギリギリ防げてるって感じだからな、攻撃に転じれねぇ)


 額から流れる汗を(ぬぐ)う暇もなく、次に来る攻撃へと備える。



「やっぱり面倒。ーー()()、動かないで」



「なっ!!?」



 彼女が伏せられていたはずの俺の名前を呼び、命令をした瞬間。

 俺の身体は、凍りついたように硬直してしまった。


(ーーどうして俺の名前をっ!?)



「・・・さっきまで居た三人が話している時に、一度だけ聞こえたの。だから、貴方はおしまい」



「ぐっ、があ、あっ!!」



 ギリ、ギリと巨木の魔物が俺をその木の根で締め上げてくる。

 その力は途轍(とてつ)も無く、肺から空気が全部抜けてしまいそうな程だ。



「・・・っ!?」



「・・・どうやらトレントが本気を出すみたいよ?」



 表情を変えずに言うフェアツィヒト。

 が、俺の意識はそちらよりも。


(ーーコイツ、魔力を溜めてやがるっ!マズイ!!)


 複数ある木の洞の一つ。

 木の根によってその目の前に掲げられた俺は、嫌でも中の魔力の奔流(ほんりゅう)を感じさせられた。


 暴風の様に荒れ狂うソレは、その全てを俺に放たんと指向性が持たせられる。


 コオォォォーー、と鳴る音に第六感が警鐘を鳴らしまくっている。


 ーーさん。


(クソっ、どうする。何か取れる手は無いか?)


 ーーにぃ。


(アイテムボックスに待機状態で仕舞った魔法を撃つ?いや、この魔物を止められる程の魔法なんて仕舞って無い)


 ーーいち。


(せめて高威力の魔法さえ仕舞っていればーー。っ!その手があったか!!)


 危険だが賭けに出るしか無い。


 そう結論付けた瞬間、魔物の洞から鳴っていた音がピタリと止む。


 ーーぜろ。


 直後、目の前から放たれるのは収束された魔力の奔流。

 俺を殺さんと一直線に向かってくるソレに対して。


(全部っ、俺が喰らってやる!この向かってくる魔力の奔流を全て、仕舞う!!)


 アイテムボックスへと仕舞うには身体の何処かが触れている必要がある。

 ーーだから俺は。



「がっ、が、あああああああぁっ!!!!」



(熱い、あつい、あついアツイアツイアツイアツイ!!)


 自らの身体を犠牲にし、その全てを取り込まんとした。


(アツイーーが!こんな所で死んでたまるかよ!!)


 頭へと浮かぶのは、パーティの二人の顔。

 そして、交わした約束。


(ああ、旅に連れて行くって言ったもんなあっ!我ながら修羅の道を選んだもんだ!!)


 止まらない轟音に終わらない激痛。

 時間にすれば三秒程なのだが、極限まで集中していた俺には無限もの時間に感じられた。


 魔物が永遠に来るかと思わせられた攻撃を終える。


(クソ痛ぇ!!耳も全然働かないしなんなら皮膚の感覚がほぼ無いぞ!?)


 痛みで何とかギリギリ保った意識を、再度目の前の魔物へと集中させる。


 俺が生きているとは思っていないのか、フェアツィヒトの指示を待っているようだ。


 完全に晒している隙に俺はニヤける。


(仕掛けるなら、ココだ)


 使うのは火と水の複合魔法。

 大量の水を一瞬で気化させる事によって起こるソレは、前世では水蒸気爆発と呼ばれる物で。

 ーー威力は水素爆発程では無いが、地形を抉るのには十分な程だ。


 俺は、魔物の真上へと練り上げた魔力を放つ。

 酸素の代わりに魔力を燃料とする火魔法は、その魔力をもとに温度を際限なく上げていく。


 流石に気付いたのか、巨木の魔物は身体をざわめかせて俺をそのまま地面へと叩きつけようとする。


(チッ、バレたか。だがもう遅い!)


 小さな太陽の如く、空中で異様な熱エネルギーを放つそこに俺は水魔法で作った大きめの球を飛ばす。


 普通であれば水に触れると火は消える、が。

 その火へと届く前に水球は全て蒸発しーー。


 莫大な衝撃波と共に、その爆音が俺ごと魔物を呑み込む。



「・・・本当に面倒」



「ハッ、面倒で結構。あばよ」



 俺を締め付けていた木の根は衝撃波で千切れ、吹き飛ばされる。

 意識が途切れる寸前に耳に入ったのは外道の呟き。

 それに皮肉で返した俺は、そのまま意識を失ったーー。






 身体が冷たい、何やら水で濡れているようだ。

 水面下から浮上するように意識が目覚めてくる。


 ーー直後、激痛。



「があっ!痛えっ!!」



 一瞬で意識を完全に覚醒させるほどの痛みが上半身を襲った。

 なんだ、と目を開けると。



「・・・ふるふる」



「・・・」



 俺の胸の上で、件の魔水晶を頭から生やしたウォータースライムが震えていた。


(・・・とりあえず回復だ)


 アイテムボックスからセツナ製の回復薬を取り出し、身体のあらゆる箇所に浴びせる。


 とても()みるが、さっきの魔力砲の直撃に比べると遥かにマシだ。


(まさか爆発の衝撃で丁度この湖に飛ばされたのか?だからか、思いのほか傷が少ないのは)


 まあ、そもそもがボロボロであったが。

 湖を見ると、上流へと繋がる川が見られたことから恐らく俺は流されてきたのだろう。


(まさかコイツがここに運んできたのか?嘘だろ?)


 そうだよ!と言わんばかりにふるふると震えるスライム。


 一先(ひとま)ず角のように生えているその魔水晶をアイテムボックスへと仕舞う。



「・・・お前、前に俺が連れて来たスライムか」



 もちろんスライムなので返事は無い。

 

 どうしたものかと、とりあえず鑑定する。




・ステータス

 名前 : なし

 種族 : ウォータースライム


 レベル : なし

 HP : 2/3

 MP : 3/3

 筋力 : 1

 防御 : 3

 魔力 : 3

 対魔力 : 3

 敏捷 : 1


 スキル 水発射

     衝撃無効




(なんだコレ。見た事ないレベルで弱いんだが)


 何故かHPが減っていたので、容器の底に残ったポーションをかけてみる。


(鑑定っと。ああ、ちゃんと回復してるわ。・・・そういえば、俺のHPは?)


 少し心配になったので自分のステータスを見てみると。





・ステータス

 名前 : セア・ティルティフォン

 天職【旅人】


 レベル : 42

 HP : 22/57

 MP : 42/225

 筋力 : 225

 防御 : 57

 魔力 : 225

 対魔力 : 225

 敏捷 : 435


 天職スキル 鑑定

       アイテムボックス

       生活魔術

       適応

 スキル 剣術(レベル6)

     体術(レベル4)

     速読

     スキル統合

     探検家の心得(隠密、罠感知、悪路歩行、運搬)

     火魔法(レベル4)

     水魔法(レベル3)

     魔力操作

     魔力吸収




「知らないスキルがいくつか増えてるな。スキル統合はそのままだとして・・・魔力吸収?」



 スキルをさらに鑑定してみると、どうやら魔力を帯びた攻撃を喰らう際にMPを少し回復するみたいだった。


(なるほどな。だから水蒸気爆発を起こすときに火魔法にアレだけ魔力を使えたわけだ)


 思い出すのはその直前に喰らった魔力砲。

 回復した上でこのHPの減り方を見るに、俺はかなりの死に体だったのだろう。


(コイツがここまで運んで、起こしてくれなきゃ危うく死んでたかもな)


 感謝しながらツンツンとすると、ふるふるとその身体を震わせる。


(・・・で、だ。魔物を倒したにしてもあの少女は倒したとは思えない。何せ直撃してないからな、となるとまだ近くに・・・?)


 アレからどれくらいの時間が経ったのだろう?

 俺は水蒸気爆発の際に自分の使える限りの魔力を使った。

 MPが十五秒ずつ回復する、というのを利用して逆算すると。


(あれから十分以上経ってる、という事はもう近くに?)


 ーー嫌な予感というのは、当たるものらしい。



「・・・やっと見つけた。本当に面倒」



「・・・面倒なのはお互い様だな」



 嫌な予感というのは当たるもの、らしい。

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