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第二十七話 逃走劇、セツナ視点

「『光の矢(ライトアロー)』!『光の矢』!!」



 私、セツナはセアくんに言われた通り、彼を狙って伸びる木の根を光魔法で撃ち落としていました。



「お姉ちゃん、そんなに魔法を乱射したらMPが!」



「大丈夫だよ、この魔法はMPの消費が少ないんだ」



 そう言いながらもアイテムボックスから魔力補充用のポーションを手に取ります。

 ーー何せ、敵の手数の方が圧倒的に多いのです。

 


「チッ、魔物の攻撃の衝撃波がこっちまで来やがる!二人共、怪我はねぇか!?」



「ええ!私もお姉ちゃんも傷一つ無いわ!」



「そうか、なら良い。お前達に傷一つ付けようものなら俺がセアの野郎にどやされちまう」



 セアくんの指示を受けて私達をその大盾で庇うジレンさん。

 聞けば、初対面でセアくんに喧嘩を売ったらしいです、この人。

 ーーそんな人とも親交を深め、信頼出来る仲間にまでなるセアくんはやっぱり流石です。



「『光の矢』、『光の矢』っ!ううっ・・・」



 MPの使い過ぎで意識が飛びそうになっても、セアくんを護る為ならばとポーションで無理矢理回復させて攻撃を続けます。


 ーーあの人は、私を連れ出してくれた人だから。


 不思議と初対面の時から安らぐ雰囲気があったんです。

 こう、何か懐かしいような。


(最初、イリサちゃんが連れて来た時には悪い虫かな?とも思ったけど、そんな事全く無かったです)


 今もマチルダさんを助ける為に必死に足を動かしています。


(私もセアくんの力になりたいん、です!)


 マチルダさんを拘束したセアくんへと近付く木の根を、全て撃ち落とします。


 最初こそ慣れない攻撃でかなり外しましたが、力になりたい、という思いがあるからかみるみると命中率が上がります。



「お姉ちゃん!そんなに撃ってたらお姉ちゃんが死んじゃうわよ!!」



「大丈夫、二人が戻って来るまでの辛抱だよ。・・・って、あれ?」



「オイオイ、 あの女もセアに攻撃しだしたぞ!アイツが危ねぇ!!」



 ジレンさんが叫びます。

 私もセアくんを護らんと、MPの使い過ぎによる吐き気を堪えつつ光の矢を放ちます。


 ーーそんな時でした。



「ーーオイ、三人とも聞こえるか!俺が攻撃を引きつけるからコイツの援護をしてやってくれ!!」



 セアくんは、そんな事を言い出したのです。


(・・・えっ?セアくん、それって囮になるってことです?)



「嘘でしょ!?あいつ、なんでそんな勝手なこと・・・」



「チッ、マジかよ・・・」



 驚愕したのは私だけでなく、イリサちゃんとジレンさんも同じ気持ちの様です。


 セアくんの方を見るとマチルダさんも何やら言っていますが、彼の表情を見るに決意は固そうです。



「・・・うん。言う通りにしよっか」



 私を護る二人は狼狽(ろうばい)しています。

 それでいいの?とイリサちゃんが目で伝えてきますが、私はセアくんを信じているのです。


(・・・何せ、私を旅に連れて行くって約束してくれたんです。こんな所でサヨナラなんてしないですよね?)


 私の気持ちが伝わったのか、イリサちゃんは溜息をつきます。



「全く・・・。ちゃんと帰って来なかったら承知しないんだから」



「・・・お前らが良いなら俺はアイツに従うまでだ」



「二人共、ごめんなさい。彼は必ず帰って来るんです、だから私達は出来ることをしましょう!」



 そう言い、私は此方へと駆けてくるマチルダさんへと伸びる木の根を光の矢で弾きます。


 ーーセアくんは、巨大な魔物の陰に隠れてしまってその姿は見えないです。



「ジレン、皆!あいつ、私を逃がすために・・・!」



「ああ、分かってる。マチルダ、俺達はアイツのために出来ることをするだけだ。・・・ったく、無茶しやがってよ」



「大丈夫です、マチルダさん。彼は約束は護るんです」



 ーーセツナのことは俺が護ろう。


 私を旅へと連れ出すと約束したあの日、彼が約束してくれたことです。

 現にセアくんの指示のおかげで傷一つ付いていません。



「・・・一応あいつから。俺を信じろ、だって」



「っ!馬鹿なんだから・・・。お姉ちゃん、早く逃げるわよ!」



「ーーうん」



 セアくんの伝言にイリサちゃんも背中を押されたみたいです。


 ーーこうして私達は、セアくんが作ってくれた隙を見てその場を逃れる事に成功しました。



「なら私とジレンさんが先陣を切るわ。マチルダさんは殿をお願い、お姉ちゃんは真ん中で支援をお願いね!」



 セアくんの代わりとして彼の如く振る舞うイリサちゃん。


(ああ、セアくんってやっぱり凄いです)


 臨時のリーダーとして私達を引っ張る妹を見て、成長を実感してしまいます。

 どれもこれも彼のおかげです、と感じながら私達は下山を開始します。







「ああもうなんなのよコイツら、邪魔よ!」



「クソが。マチルダっ!!」



「ええ、任せて!」



 道中、先程の魔物をそのまま小さくしたかのような木の魔物達に襲われます。


 イリサちゃんが私へと迫る細い木の根を(さや)で弾き、ジレンさんが魔物の動きを大盾で抑えてマチルダさんが矢を放つ。

 ーーもちろん私も援護を。



「『光の矢』!・・・大丈夫ですか?回復しますね」



「ああ、助かる。しかしなんだコイツら?こんな木の魔物なんて今までこの山に居なかったぞ」



 魔物を戦闘不能にした私達は、情報を交換し合いながら下山を再開します。


 木の魔物、その名前をトレント。

 動かなくなった後に鑑定をするとそう表示されました。

 そして、その説明には。



・トレント

  木が魔物の素となる魔素を吸収し、変化した魔物。

  普段は木に擬態し、獲物が横を通るとその根を伸ばして仕留め、養分とする。



 と、書かれていました。

 

 一先ず分かったのは、木へと魔素を吸収させる何かしらの要因があったということです。


(そういえば、以前にセアくんが見つけた怪しい人は木の根元に魔水晶を埋めていたような気がします?)


 うーん、と首を傾げているとイリサちゃんが心配そうに覗き込んできます。



「お姉ちゃん、どうしたの?」



「うーん。イリサちゃん、この木の魔物なんだけど・・・」



 鑑定結果と、以前見た怪しい人影との関連性を話すと。



「ああ、間違いないと思うぞ。・・・なんせ、魔物どころか俺達にすらあの水晶を埋め込む奴らだ」



「あ。聞こえてましたです?」



「・・・ええ、バッチリとね。大丈夫よ、私もジレンもあなたのステータスを漏らすなんてことはしないわ」



 ジレンさんとマチルダさんも私の考えに同意を示しました。



「ーーそういえば、セアがグラナットさんを道端まで運んでいたわよ?魔物よけのお香は焚いたんだけど」



「何、アイツ寝てんのか!?ならすまないがそっちを先に目指しても大丈夫か?」



「全然大丈夫ですよ?むしろセアくんだったら拾っていけって言うかもです」



「・・・ありがとうな、恩に着るぜ」



 もう少しで道へと出る、そんな時でした。


 ーーグオオオォォォッ!!!!


 山の麓まで聞こえるような魔物の咆哮に、私達はバッと先程まで居た方向へ振り向きます。

 直後、地面が揺れるかの様な轟音。



「・・・っ、セアが!!」



「おい馬鹿!戻ってどうする気だ!?」



「だっ、だってセアが死んじゃったら!!」



 イリサちゃんは涙を流しながら叫びます。

 ーーかくいう私も心配で胸が詰まる思いですが。


(・・・大丈夫です。セアくんは約束してくれましたから、信じて私は私に出来ることをーー)


 そう思った時です。



「・・・ふむ、セア君が居ないようですが」



「ギルドマスター。先程の爆音の方へと至急向かうべきかと」



 そこには、ギルドマスターのフラメルさんともう一人。


(ーー女の人?あれ、この人って)


 スーツに身を包んだ女性、その姿は薄らとですが覚えています。


 長い紺色の髪を束ねずにそのまま下ろして。

 スラッとした足と、それとは逆にはち切れんばかりの胸が内側からスーツを押し上げています。


 そんな彼女は、女でも惚れ惚れするようなその整った顔で私達を見て。



「すまない、遅れたようだ。・・・おや?そのペンダントは私の店で買われたものだね。ーーセア君というのはあの時の男の子か」



「えっ?あの、えーと・・・」



「ああ、私の名前はシルヴィア・オーガスト。城下町でしがない魔道具屋をしている者だ、気軽にシルヴィとでも呼んでくれ」



 その女性ーーシルヴィは、私達を安心させる様にそう言いました。

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