第二十六話 救出、完了・・・?
謎の魔道具によって閉じ込められていたのであろう冒険者、ジレンとマチルダ。
その二人の後頚部には、件の禍々しい結晶。
ーー魔水晶が植え付けられていた。
身体が思い通りに動かないのか、二人は表情を歪めながら叫んでいた。
「ジレン、マチルダ!!」
「なっ、お前なんでこんな所にいやがる!早く逃げろ、じゃねえと俺達が殺しちまう!!」
「貴方、うるさい。早くソイツを処理して」
フェアツィヒトがそう指示を出すと。
二人の冒険者は、使い慣れた武器である盾と弓を各々構える。
(自分の意思があるまま操られているのか!?)
そんな残酷な事を眉一つ動かさずに行う狂人の少女に戦慄する。
「早く逃げろォ!俺達は身体の主導権をこの水晶のせいで奪われてるんだ!!」
「それは厳しい相談だな。グラナットと約束したからな、お前達を見つけた上で逃げる訳にはいかない」
涙を流しながら俺へと迫る大盾の冒険者をいなしながら、答える。
(さて、やっぱりあの水晶をどうにかするしかないのか?・・・果たして割っていいものなのか)
件の魔水晶について考察するも、情報が少なすぎてやはり何も分からない。
(となると。ジレン達の動きをどうにか止めてアイテムボックスで・・・っ、危な!)
彼の大盾に気を取られていると、彼の後ろから矢が飛来する。
俺はそれを間一髪で回避。
ーー俺の身体に偶に光の膜が張られるのはセツナが支援をしてくれているのだろう。
(ジレンの動きを止めるにしても。ヘタに手荒だと後遺症を残してしまう、それは避けたい)
となるとだ。
「先ずは動きを遅くさせてもらうぞ。ーー『水の檻』」
魔法を唱えると、ジレンの身体に水が意志を持っているかの如くまとわりつく。
この魔法は対象へと水をまとわりつかせ、その動きを水中レベルで緩慢にするという物だ。
(それこそ大盾みたいなサイズの武器を持っていたらほぼ動けないだろうな)
目論見通り、ジレンが実質無力化された所で。
(ここからこの水の中の熱エネルギーを、火魔法で極力ゼロに)
「『熱奪取』」
「うおっ!凍った!?」
首だけを出して身体を氷に閉じ込められるジレン。
定期的に俺めがけ飛んでくる矢を避けつつ、その首の裏へと回り。
(アイテムボックスに仕舞えるようだな)
件の魔水晶をアイテムボックスを利用してジレンから取り外す。
「がぁっ!いってぇ!!」
「・・・ジレン、魔水晶は取り外した。身体は操られないか?」
そう問うと彼は目を見開く。
どうやら正解のようだ、アイテムボックスに仕舞ってしまえば操られる事は無くなる。
そう分かった俺は、凍らせた水の檻を消去して彼の拘束を解く。
「アイテムボックス?・・・本当に面倒」
「即バレか」
傍観に徹していたフェアツィヒトがその小さな口を開く。
反応からするに、アイテムボックスへの収納が天敵の様だ。
「仕方ない。この子も使う」
「っ!おいおい、マジか」
マチルダの所へと向かおうとした俺とジレン。
が、その間の土が先程と同じ様にボコボコッと盛り上がり、魔水晶付きの魔物が生えてくる
「グルオオオオオォォォォォッ!!!!」
ソレは、とてつもなく巨大なーー巨大な、樹木。
だが、その大きな根を触手の様にうねらせるその姿は魔物のソレであった。
「おい、マチルダを助けたら直ぐに退避するぞ!二人も良いな!?」
「ええ、了解よ!」
「うん!大丈夫だよ!」
俺は後ろで支援をしてくれていたセツナと、彼女をゾンビから護っていたイリサへと声をかける。
二人が了承したのを皮切りに、俺は火の弾丸を目の前の大木の魔物へと連続で撃つ。
「グルオオォッ!!」
「チッ、木の根が邪魔すぎる!!」
弾丸は木の根に遮られ、本体までは届かない。
盾にされた木の根は弾け飛び燃えるが、鎮火する度に再生してしまう様だ。
「危ねぇ!」
俺の横でジレンが盾を構えると、ガキンッと矢が弾かれる。
どうやら、操られているマチルダが別の場所へと移動したようだ。
「すまない、助かった。マチルダは・・・あそこか」
「どうするの、セア?」
イリサはフェアツィヒトに俺の名前が聞こえない程の音量で耳打ちをする。
(ぶっちゃけ、俺達の目標はこの魔物では無くマチルダの救出だ。・・・とすればだ)
俺も魔物が暴れる際に発生する轟音に混じって、ギリギリの音量で皆へ指示を出す。
「マチルダの所へはアイテムボックスが使える俺が行こう。でた、ジレンとイリサにはセツナの守護を。セツナには光魔法で俺の援護をお願いしたいんだが、出来るか?」
「はい、任せて下さい!」
セツナの返事に続いてイリサとジレンも頷く。
全員の動きが決まった所で、俺は単独で飛び出す。
(・・・よし、魔物の意識もこっちへ向いているみたいだ。頼んだぞ、セツナ)
俺へと伸びてくる木の根。
が、ソレは俺へと届く前に光の矢で弾かれる。
流石に火の弾丸程の威力は無いようで、弾くのに精一杯の様だがそれで十分。
俺まで伸びる木の根の数は、一人でも捌ける程の量まで減らされる。
「よし、射程範囲だ」
先程ジレンを拘束した魔法の射程にマチルダが入ったので、俺は同じ要領で彼女を凍らせて動きを止める。
「あ・・・。良かった、助かった・・・!」
「おい、氷を溶かしたら直ぐにジレン達の所まで戻るぞ」
「分かったわ。この恩は一生忘れない」
アイテムボックスへと魔水晶を仕舞い、マチルダを拘束していた氷を溶かす。
彼女が動けるのを確認した俺は、同じ要領で三人の元へと戻ろうとする、が。
「行かせない。貴方は残すと面倒」
「うおっ!?チッ、邪魔だな」
木の魔物の洞に座るフェアツィヒトが、俺を帰さないと言わんばかりに闇魔法の物と思わしき黒い球体を飛ばしてくる。
(クソ、単純に敵の手数が多い。いくらセツナの援護があるとはいえ、コレは捌き切るのが難しい。ーー仕方ないか)
一つの決断をした俺は、マチルダとセツナへ指示を出す。
「お前はジレン達の元へ逃げろ。俺はアイツらの攻撃を引きつける」
「はっ?何言って・・・」
「良いから行け!オイ、三人とも聞こえるか!俺が攻撃を引きつけるからコイツの援護をしてやってくれ!!」
遠くからでもセツナ達が驚愕の表情をしているのが分かる。
確かに傍から見れば自殺行為にも程がある。
だが、俺は一人で逃げているならまだしも、マチルダを庇いながらこの中を無傷で進むのは難しい。
ーー結論として。
「お前は三人と合流したら早く逃げるように伝えろ。俺も後で必ず合流する」
「ちょっ、そんなことあの二人が許す訳ないでしょ!私とジレンも置いてくなんてこと・・・!」
「だろうな。だから、もし二人が反対するのならーー俺を信じろ、とだけ伝えてくれ」
俺はマチルダの心配気な双眸を真正面から受けるも、返答に窮することは無かった。
意思が固いのを察した彼女は、苦々しい顔をしながらも了承する。
「よし、行け!」
「・・・っ、無事に帰ってきたらジレン達と飲むわよ!」
ああ、とだけ呟き。
視線の先、木の洞に座るゴスロリ少女に意識を向ける。
「貴方、逃げないの?」
「ああ。お前の主な狙いは俺だろ?だったら最後まで引きつけるさ」
「ふうん・・・。なら、死んで」
「クソが、いきなりかよっ!」
直後俺に迫る木の根と闇魔法。
俺はステータスで最も高い敏捷を駆使し、回避に徹しながら皆と違う方向へと足を向ける。
(マチルダは・・・。三人の元へ辿り着いたみたいだな、ちゃんと逃げてくれるといいが)
蠢く木の根が鳴らす轟音を背に、俺は逃走を開始するのであった。




