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第二十四話 道化師、登場

 異様な光景。

 林の中、響く魔物達の咆哮。



「チッ、なんだコイツら!フォレストウルフとトラップスパイダーだと?徒党を組んでいるってのはコレのことか・・・!」



「ああもう!お姉ちゃんが居るから剣を鞘から抜けないのに!面倒臭いわね!!」



「ごめんね、イリサちゃん・・・!」



(ああクソ、とにかく数が多いな!それにーー)


 俺達が戦っている魔物、フォレストウルフとトラップスパイダー。

 どちらも過去に何度か相対したことがあるのだが。


(コイツら、目だったり脚だったり。変な所から魔水晶らしきものが生えてやがる)


 魔物達は皆、身体のどこかしらに件の水晶体が取り付いていたのだ。



「これでっ!終わりよっ!」



 ドゴォッ!と鞘を付けたままの剣を振るうイリサ。

 彼女は最後の一体のトラップスパイダーを吹き飛ばし、戦闘不能にする。



「これで一段落か?」



「そうみたいね。ホントなんなのよコイツら、統率もクソも無かったわ。数だけよ」



「お疲れ様、二人とも!怪我なかったかな?」



「問題無い。戦闘が始まって直ぐにセツナがプロテクションをかけてくれたからな、無傷だ」



 そう言って俺は自らの身体を見る。


 光魔法、プロテクション。

 セツナが俺達にかけたこれは、軽い切り傷や擦り傷などから身を護るバリアの様な物だ。

 彼女(いわ)く、強い衝撃を喰らうと意外と(もろ)いらしいが、それを踏まえてもとても助かる性能である。



「えへへ。セアくん達に護られてばっかりじゃ居られませんから!私も一緒に頑張りますね!」



「・・・頼りにさせてもらう。さあ、グラナットが残した次の印を探すぞ」



「はーい!」



 相変わらず底抜けに明るい返事を背に、道標となる印を探す。


(次の印は・・・アレか)


 グラナットを道に運んでから既に一時間ほど経っている。

 ジレン達は大丈夫だろうか、もしかするともう手遅れなのではと良くない考えが脳を(むしば)む。


 そんな時だった。



「っ!あっちから声が聞こえなかったか、二人とも?」



「そうね、私にも聞こえたわ。何か悲鳴のような声が微かにだけれど」



「早く行かなきゃ、です!」



 何も言わずとも三人で駆け始める。

 けもの道を少しばかり逸れた先、声の聞こえた方へと向かうとそこには。



「っ・・・!?」



「おやおやァ?コレはコレは。こんな辺鄙(へんぴ)な所にお客様とは珍しいですねェ!歓迎致しましょう、ワタシのサーカスへ!!」


 

 俺達が来るのが分かっていたのだろうか。

 そこには奇抜な格好をした道化師ーー所謂(いわゆる)ピエロ、の様な男がこちらを歓迎する様に立っていた。


(マズイな、コレは完全に先手を取られた。イリサとセツナも居るからヘタに動けないぞ)


 唐突に敵らしき相手が現れたことで、二人も瞬きせず目の前のピエロを警戒している。


 俺達の反応が余りにも薄かったからだろうか、道化師は唯一仮面で隠れていないその口をへの字に曲げて首を傾げる。



「おっとォ、どうなされましたか皆さァん?余りにも空気がシラケる様であれば。僭越(せんえつ)ながらこのワタシ!ーー『八冊の教典』が一人、ロノウェがァ!素敵なステキなショーをご覧いれましょうッ!!」



 気がつけば俺達と道化師ーーロノウェの間には一つのカラーバルーンがフワフワと漂っていた。


(マズイっ!不意打ちか!?)


 近づいてくるそのバルーンを撃ち抜かんと、俺は動く。



「『火の弾丸(ファイアバレット)』!・・・って、うおぉっ!?」



 なんの抵抗も無く撃ち抜かれるバルーン。

 それは割れると同時に、パァン!!と小粋なクラッカーの音が鳴り、どこからともなく演目用と思われるスモークが炊かれ始める。



「さてさてェ、皆々様方?今宵はワタシ、ロノウェによるショーを見に来てくださりィ!誠に、マコトにありがとうございます?」



 ショーの始まりと言わんばかりの口上を述べるロノウェ。

 その顔は半分以上マスクに隠れて見えないが、しかし。


(・・・なるほど、確かに狂ってる)



「では、一番最初の演目はこちらァ!ジャグ!リン!グゥ!ですよおおおォォォ!!」



 醜悪な笑みを口元に浮かべながら、何処からか三本の鎌を取り出す。


 ーーそして。



「お客様方々はァ!さて、降り注ぐ鎌を避ける事が出来るのでしょうかァ?」



「チッ、観客参加型かよ!セツナ!」



「っ・・・!うん、『光の加護(プロテクション)』!」



 俺達全員に薄らと光の膜が張る。



「プロテクションか、ありがたい!けどそうじゃない、守ってやるから目ェ伏せてろ!」



 なんせ目の前のピエロが振りかぶっているのは鎌、刃物だ。

 セツナがしっかりと認識してしまう前に伏せさせておかなければ、動かなければいけないタイミングで動けなくなる。


(まずあの鎌を片付けなければセツナがろくに動けないな。どうするか)


 そう考える間に、ロノウェは鮮やかなジャグリングを決めながら迫って来た。


 俺とイリサは、セツナとロノウェの間に立ち、そのジャグリングと共に振り下ろされる鎌を(さば)き始める。



「ほらァ!ほらほらホラァ!・・・おやァ?案外やりますねェ、お客様ァ?」



「生憎、此処(ここ)を通す訳にはいかなくてな」



「どうしても通りたいなら私達をどうにかしなさい!」



 ヒュン、ヒュンッと捌く度に耳元で刃が風を切る音。

 内心ヒヤヒヤとしながらも、反撃の機会を(うかが)う。



「なるほどォ!ではではァーー、こういうのはどうでしょうかァ?」



 そう言って鎌の軌道を急に反転させるロノウェ。

 が、その反転させる間の一瞬の隙を俺達は見逃さなかった。


(反撃を挟み込むならココしかない!)


 イリサもそう思ったのだろう、セツナが目を伏せているのをいい事に、鞘から居合いの要領で剣を抜き、一閃。


 その閃く刃に続いて俺も反撃を開始する。

 イメージするのは水の刃。

 より強く発射する水を圧縮して、より細く、速く放つ。



「っ!『水の刃(ウォーターエッジ)』!」



 詠唱すると同時に、鎌を持ったピエロの手へと発射される水の刃。


 その刃は綺麗に彼の腕へと吸い込まれ。



「おや?おやおやおやおやァ?」



 ポトリ、と手首から落ちた自らの右手を不思議そうに眺めるロノウェ。

 しかし、その顔は未だ醜悪な笑みを浮かべている。



「コレではジャグリングが出来ませんねェーー。ではではァ、少し予定が早まりましたがァ!次の演目にィ、移らせていただきますねェ!!」



 二、三と続けて放った水の刃は、口上を述べながら易々と躱される。


(流石に初見じゃないと当たらないか)


 カタカタとコミカルに、ピエロらしい不規則な動きを挟むために、動きが読めない。

 このまま距離を保っても魔法を当てるのはそれこそ広範囲を巻き込むもので無いとダメだろう。


(ーー手はあるが。ダメだな、ジレン達を巻き込むかもしれない)


 以前の訓練にて覚えたとある魔法。

 広範囲に影響を及ぼすソレは、何処にいるか分からないジレン達を巻き込む可能性があるので使えない。


 どう動くべきか、と思考を巡らせている時だった。



「さァ、第二の演目はァーー?おや、おやおやァ!どうやらゲストがお越しのようですねェ!!」



「・・・ロノウェ。目的と行動がズレてるって(あるじ)が怒ってる」



 ゴスロリ、と言うべきだろうか。

 小柄な可愛らしい少女がいつの間にやら、道化師の傍に立っていた。

 

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