第十九話 魔力を感じてみよう
こうして俺は母さんから魔法を学ぶことになったのだが。
起床後に朝食を摂るためにダイニングへと向かっていると。
「ふああ・・・、おはよ、セア」
「・・・すやー・・・」
「ああ、おはようイリサ、セツナ。・・・セツナはそれ、起きてるのか?」
「むにゃ・・・。起きてるよ、セアくん・・・。すやー・・・」
俺と同じく寝起きであろうイリサとセツナが並んで歩いて来た。
イリサは髪をまとめてポニーテールにして整えているが、朝に極端に弱いセツナは寝癖が着いたままだ。
「もーほら、お姉ちゃん。そんなふらふらしてたらセアに置いていかれるわよ?」
「んー・・・まって、セアくん。おんぶ・・・」
そう言っておんぶをねだるセツナにイリサはため息をつく。
「お姉ちゃんってば・・・。ほんっと朝弱いんだから」
「まあ仕方ないな。このまま転げて怪我をされても困る。ほら、セツナ」
少し屈んで背中を向けると、むにゃ、と言いながらセツナが俺の肩へと手を回してしがみつく。
「んー・・・。セアくんの背中だ・・・すぴー」
「嘘でしょ、お姉ちゃん寝ちゃった・・・!?この状況で・・・?」
俺もまさか寝るとは思っていなかったが背負ってしまったので仕方ない。
俺達はこのままダイニングへと向かう。
ガチャリ、と扉を開けるとそこには既に母、クラリスタとセシリーを含むメイド数名が立っていた。
「・・・あらあら」
「・・・セツナの事は気にしないでくれ、と言いたい所だが。どうやって席に着くんだコレ」
「ほら、着いたわよお姉ちゃん!起きて!」
「んむー・・・。あれ、ここどこ・・・?」
苦笑するクラリスタを前に、イリサはセツナの身体を揺する。
なんとか目を覚ましたセツナを背中から降ろし、席へ着くように促すと、長い黒髪を揺らしながらふらふらと歩いていった。
俺とイリサも席に着くとする。
「「「いただきます」」」
「ふふ、息ぴったりね、三人とも」
「そうでございますね、クラリスタ様」
そう言って微笑むクラリスタとセシリー。
こうして、朝食の時間は過ぎていった。
一一無事に全員が朝食を食べ終わった後。
食器の片付けをメイド達へとお願いした俺達は、直ぐに魔法の講習を受けることになった。
場所は屋敷内の書庫、俺が幼い頃に勉強をしていた所だ。
「うわあ・・・。やっぱりティルティフォン家ともなると家の中にすらこんな図書館みたいな所があるのね・・・」
「ですね、凄いです!」
そう言ってキョロキョロと周りを眺める二人。
見慣れない景色なのだろう、その様は初めて遊園地に来た子供の様だった。
「では、始めましょうか。お二人も授業を受けるのですか?」
「どうするんだ、二人とも?」
俺と母さんは二人へと尋ねる。
「そうですね、セアくんと一緒にならお勉強、してみたいです!」
セツナは上機嫌に言う。
顔に浮かべる笑顔には、昨日の緊張は何処へやら、一切の硬さが無かった。
対するイリサはと言うと。
「そうね・・・。出来ることなら、私はメイドさん達のお手伝いをしてみたいかしら?色々と学べそうなのよね」
メイド達の仕事に興味があるらしく、思案顔で遠くで箒を掃いているメイドの方を見ていた。
「なるほどな。母さん、セツナは一緒に勉強するとして。イリサはセシリーにお願いしても大丈夫か?」
「そうね、特に問題は無いと思いますよ?後はセシリーの意思次第ですが・・・。彼女ならば請け負ってくれるでしょう」
「そうだな。おーい、セシリー!」
「お呼びでしょうか、セア様?」
呼んだ瞬間扉を開けて入ってくるセシリー。
きっと邪魔にならないように待機していたのだろう。
「ちょっとばかり頼まれ事をお願いしたくてな。イリサにメイドの仕事を色々と教えてあげて欲しいんだが・・・」
そう告げると、セシリーの目が光る。
「なるほど!つまり、イリサ様は私の後輩になるという事ですね!」
「えっ、いや、ここで働くつもりは無いんですけど・・・」
「セシリー。イリサは単純にメイドの仕事を教えて欲しいだけだ。ここで働くつもりは無いし働かせるつもりも無いぞ」
「・・・なるほど、そういうことですか。どちらにせよ、セア様の頼みならば断るはずがありません。謹んでお受け致します」
恭しく一礼するセシリー。
「という訳だ。イリサはセシリーに着いていくといい」
「・・・ありがとね、セア」
「えへへ、頑張ってねイリサちゃん」
話し合いがひと段落着いたので、俺とセツナは教師役である母さん、クラリスタ。
イリサは彼女の教師役となるセシリーへと目を向ける。
教師役の二人は俺達のやる気ある眼差しを見て、クスリと笑い。
「ええ、では久しぶりの授業を始めましょうか。ちゃんと着いてくるのよ?」
初の授業は、こうして幕を開けた。
座学。
それは興味の無い内容であれば非常に退屈に感じるであろうものだが。
魔法、といった未知のロマン溢れるものに対しては、とてつもなくやる気が出るものらしい。
現に俺は今、楽しくて仕方がない。
「それで、セア。魔法の原理と基礎は教えた訳だけれど。魔力の使い方は分かるの?」
「いや、全く分からない。スキルを使うのとは違うのか?」
「クラリスタさん、私もです!スキルは使ったことありますけど、魔法なんて初めてです!」
「はあ、この子達は・・・。いいかしら?魔力と言うのは、丹田。つまり、おへその下付近に溜まっていくの」
丹田、つまり臍の下約三寸の位置にあると言われる場所。
前世では確か、気が溜まる場所だとか言われていたはずだ。
・・・俺もどこかの野菜人の様に金ピカになるのだろうか、既に金髪ではあるが。
「丹田の魔力を感じるまでは普通かなりの時間が居るのだけれど・・・。今回は私が教師でよかったわね。ほら、分かるでしょう?」
そう言って母さんは俺とセツナの下腹部に触れ、魔力を直接流し込み操作する。
俺の中で魔力と思われるものが動いているのが分かる、とても不思議な感じだ。
俺達が魔力を認知したのを見て、彼女は手を離して魔力の操作をやめる。
「なるほど、これが魔力なのか」
「そうよ。所謂ステータスで表されるMPね」
「おー。凄い不思議な感じです」
そう言って先程まで触れられていた所を不思議そうにつんつんとするセツナ。
そんな彼女を後目に、教師は教鞭を振るい続ける。
「分かったかしら?その次は、その魔力を身体中の血管を巡らせて、好きな箇所で放出するの。ほら、こういう感じよ」
属性で色付けをし、可視化した魔力を両手に一つずつ浮かべるクラリスタ。
おお、と思わず声がこぼれる。
(そういえば昔、父さんを脅す際はコレをよく出してたな)
思い出されるのは剣術の鍛錬の時の光景。
俺を容赦無く気絶させた父さんがよく説教をされていたのを思い出す。
(・・・剣術か。剣は使えなくなるが何か役に立ったりしないか?)
そう思い立った俺は、先程学んだ魔力を手元まで操作しようと試みる。が、上手くいかない。
横ではセツナがぐぬぬぬと頑張っているが、操作は出来なさそうだった。
「そうね。二人とも、魔力は血管を通してそのまま手に出そうとするんじゃなくて、一回心臓を経由してご覧なさい」
なるほど、確かに。と感じてしまった。
血はどうしても心臓へと向かうが、心臓から放たれるものとなれば話は別だ。
心臓から血管を通して放たれる魔力は身体のどこへでも向かう事が出来る。
(という事は・・・。こうか!)
イメージの定まった俺は、右手へと魔力を丹田から心臓を経由して送る。
すると、魔力がしっかりと掌まで向かうのが感じられる。
隣で一緒に練習していたセツナも同じようで、おー!と声を上げている。
「ふふ、二人とも出来たみたいね。最初にしては上出来よ」
そう言って微笑む教師役、クラリスタは、次の内容へと話を進めるのであった。




