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第一話 旅の始まりは異世界で

 いつも通りの昼下がり。

 今日は大学の授業は午前中しか無かったため、早めに帰路に着いた。


 帰り際に買ったカレーパンを口にしながら物思いにふける。


 自称進学校を卒業してそこそこの大学に入学、趣味はツーリング。

 部活動やサークルには手を出しておらず、普段はバイトをして旅費を稼いでいる。

 ルックスは友人から言わせればそこそこ整っているらしいが、それを打ち消すほどの服装のセンスが無いらしい。

 ・・・かっこいいと思うんだけどな、この迷彩柄。


 初めて俺が一人旅をしたのは、高校卒業後すぐのこと。

 自称進学校という事で謎に校則が厳しく、在学中は運転をさせて貰えなかった。

 その反動だろうか。卒業後すぐに免許を取った俺は、毎日のように愛車を乗り回した。


 北へ、南へ。東へ、西へ一一。

 行きたいな。と少しでも思えば俺は、そこへとかっ飛ばした。

 伊勢神宮やレインボーブリッジ。華厳の滝やはたまた知床まで・・・


 そんな中、一つの出会いがあった。

 俺がいつも通り、気まぐれで旅先へと向かう途中。

 道端で右往左往としている女の子が居たのだ。


 同年代くらいの子だが、こんな山道で迷子だろうか。

 一応声をかけておこうか?いや、でもナンパと勘違いされるのも・・・。と、バイクを脇に止めて考えていると。



「あっ、あの、すみません!」



 あちらから声をかけてきた。素直にありがたい。

 先程からの疑問を彼女へと投げかける。



「おう、どうしたんだ。迷子か?」



「うっ・・・そう言われると恥ずかしいのですが・・・」



 そう言いフイと視線を外す彼女。

 頭に乗せたキャスケット帽のつばと一緒に、肩より少し下まで伸ばした艶やかな髪が揺れる。

 今時流行りの山ガールというものだろうか。



「で、何処に送れば良いんだ。山の麓だとしてもここからだと三方面もあるぞ」



 送るのもやぶさかでは無い、という風に停めてあるバイクの座席を指差す。



「いいんですか?では、お言葉に甘えます!」



 そう言って大きな胸を揺らす彼女。

 これが、俺の中の旅のイメージを塗り替えた最初の出会いである。


 道中話を聞くと、どうも今春から同じ大学に通いだした女の子のようで。つまり同級生、という事だ。

 そんな偶然拾った同級生一一柊雪菜(ひいらぎせつな)を乗せ、山道を下る。


 柊は散歩が趣味らしく。こうやって気付けば迷子、と言ったこともたまにあるらしい。



「へえ、ここまで歩いてきたのか?」



「そうです、色んな所を見て回るのが楽しくて・・・。気がついたら迷子になっちゃってました」



 てへっとはにかむ柊。

 バイクに乗っているのでキャスケット帽は外して貰って、代わりに俺のヘルメットを付けている。

 


「いつもは迷子になった時どうしてるんだ?」



「いつも迷子になってる訳じゃありませんよ!?普段はですね、お父さんに連絡をして仕事帰りに迎えに来てもらっているのですが・・・あいにく充電が」



「それは危なかったな」



 その後たわいも無い話で盛り上がり。バイクは大学の近くの公園に停めて、ここは行ったか、あそこはどうだったとお互いの体験を話し合った。






 楽しい時はあっという間に過ぎ、気がつけば夕方。



「今日は楽しかったよ、久遠くん。素敵な出会いだったよ」



「ああ、こちらこそだ。これだから旅はやめられない」



「また今度バイクに乗せてくれないかな?少し行ってみたい場所があるんだ」



「もちろんだ。ヘルメットは用意しておけよ?」



 その日ずっとバイクで二人乗りをしていた俺達は、また遊ぶ事を約束する。


 一一俺達はその後。二人で予定を合わせては様々な所へと旅をした。


 有名なお寺や街道にも行き、時には行先を決めずに向かう、なんて事もした。


 そして今日も。午後から待ち合わせのはずだった。

 待ち合わせ場所へと向かう途中。人通りの少ない路地に、人が立っていた。

 服装こそは警察だが、顔を見られる事を嫌うかのようにマスクをしている。


 バイクで素通りしようとすると、声をかけられる。



「止まれ。降りて免許証を見せろ」



 そう言われ渋々とバイクを停車。

 カバンの中から財布を取りだし、免許を見つけた所で。


 一一ドスッ。


 鈍い音と共に、背中から衝撃が来る。

 直後、焼けるような痛みと異物感に襲われてその場に倒れ込んでしまう。



「お前がっ、お前のせいで!」



 動けない俺を蹴り転がし、その警官一一いや、警官のコスプレをした男は馬乗りになる。


 そのまま両手に握った、先程俺の背中を刺したと思われる包丁を何度も何度も俺へと振り下ろす。



「ぐがっ・・・!」



 何度も刺されたせいで、もう身体のどこにも力が入らず。抵抗する事が出来なかった。



「お前のせいでっ、雪菜ちゃんは僕の事を見てくれなくなったんだっ!死ねっ、死ねよっっっっ!!!!」



(こいつ今雪菜って言ったか?チッ、クソみてえな口で柊の名前を呼ぶんじゃねえよ・・・!)


 包丁が振り下ろされる度に、俺の中身がグチャグチャとかき混ぜられていく感覚が起こる。


 直後、耳に入る悲鳴。


 男は顔を青くして逃げ出し、代わりに視界には見慣れた顔が映る。


(ああ、柊か。すまないな、これからは俺のバイクに乗せてやることは出来そうにない)


 泣きながら携帯を耳に当て、何かを話している。おそらく警察へと通報しているのだろう。それか、救急車か。


(どちらにせよ、俺はもう確実に助からないな。

 ・・・最後に見れたのが柊の顔で良かった。コイツには辛い思いをさせちまうが)


 視界いっぱいに映る彼女の顔は、初めて見る泣き顔で。

 やっぱりコイツには泣き顔よりも笑っている時の顔の方が似合うな、等と思いながら。


 一一俺の意識は急速に薄れていき、プツッ。と途切れた。


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