第十六話 本音と次の目的
旅をしたいか。
俺はセツナの目を真っ直ぐと見ながら、問う。
「・・・」
セツナは俯き、黙り込んでしまう。
(・・・セツナの本音を聞くならば今しかないだろう)
では、その本音を聞いてどうするのか?
普通であれば、発破をかけた責任として旅へと連れ出すであろう。
が、彼女は戦えない。
では、俺はそんな彼女を守りきれる程強いのか?と問われれば、俺は直ぐ様否、と答えるであろう。
が、それはそれとしてだ。
(俺はまだ、柊と旅をしたいんだ)
ほぼほぼ確信しているとはいえ、目の前の彼女と過去の想い人を同一視してしまうという無礼。
だがその無礼な俺の気持ちが今、俺に彼女を救え。鳥籠から放てと後ろから何度も何度も声をかけてくるのだ。
未だ下を向いて何も答えない。
いや、答えたくても感情が邪魔するのだろうか答えれないセツナ。
「これはな、俺の友人の話だ」
俺は彼女の心を解すために一つ昔話をする事にした。
「そいつは方向音痴らしくてな?直ぐに道に迷うからと言って両親に自転車・・・まあ皆持ってる様な移動用の魔道具だ。を買って貰えなかったらしい」
セツナは何の話をしているのだろうか?という風に再度こちらへとその双眸を向ける。
「まあそんな彼女だが、ある日道に迷ったらしくてな。そこを件の魔道具に乗った俺が拾った。それが俺と彼女の出会いだ」
まあ最初の例に出した自転車とバイクは別物だが、伝わればいいだろう。
そう思い俺はそのまま説明を続けた。
「・・・彼女、柊は旅が好きでな、けれど方向音痴が原因で遠出は出来なかったみたいだ。だから、そこで俺は彼女を遠くまで連れ出す事にした」
「・・・!」
目を見開くセツナ、彼女の心の中では俺はどう見えているのだろうか。
「その後は色んな所へ行ったさ。彼女とで目的地を決めて、そこへ向かう事を何度も繰り返した。・・・今思えば俺は、あの時既に彼女を好きだったんだろうな」
未だに自覚をしきれていなかった事を口に出し、照れくさくなって思わず笑ってしまう。
「だからセツナは何も心配しなくていい。俺が必ず強くなって守ってやる、だから連れ出されろ」
思わず早口になってしまう。
流石に恥ずかしくて彼女の顔を見れずに、言い切ったあと俺は先程の本へと逸らしてしまう。
「・・・なんですかそれ、セアくん。そんな風に言われたら、イリサちゃんに迷惑がかかるとしても一緒に旅、したくなるに決まってるじゃないですか・・・!」
彼女の表情は見えない。が、その一言一言には本音がしっかりと詰まっているように感じた。
「でだ。セツナはどうしたい?着いてくるのか?」
再度問う。彼女の方を見てみると、その瞳は潤みながらも次に放たれるであろう答えを訴えかけてきていた。
「・・・着いて行きたいです、というより絶対着いて行きます。私をここまでその気にさせたんです、責任取ってくださいね、セアくん?」
「ああ、もちろんだ。セツナの事は俺が守ろう」
「・・・!はい!」
こうして、俺は彼女を旅へと連れ出す事にした。
(セツナが横にいる上では刃物は使えないな。・・・魔法、か)
新たな目標を前にした俺は、多少の不安と共に来る大きな未来への期待につい頬を緩ませてしまっていた。
さて、間近の問題だが。
まずは今俺とセツナの目の前に座る彼女、イリサをどうやって説得するかだ。
彼女は今までずっと記憶を殆ど失ってしまったセツナの面倒を隣で見てきた上に、何よりセツナが大好きなのだ。
実際、イリサは難しそうな顔をしてこちらを見てきている。
「・・・セア、お姉ちゃんに何を吹き込んだのよ」
「ああ。旅に出たいのなら俺が守ってやるってな」
そう言うと、イリサははあ、と溜息をついた。
対する彼女の姉、セツナはニコニコとしているが。
「お姉ちゃんが刃物ダメなのは覚えてるの?どうやって守る気?」
「それなんだが。攻撃用の魔法の使い方を覚えようと思う」
そう言って思い出すのは母、クラリスタ。
あの穏やかに微笑む母さんは、過去に国を魔物達から守るために魔道士を率いて先頭に立っていたらしい。
父さんと結婚してからは前線を退いたものの、その実力は最高レベル。
魔法を教えて貰うのに彼女程のいい手は他に無いだろう。
「魔法ね。人によって適正が変わるらしいけれど、セアは大丈夫なの?」
「ああ、それも問題無い。幼い頃に調べてもらったからな」
そう言って思い出すのは、幼い頃に世界の常識について勉強をしていた時。
魔法の存在と適正について教えて貰っていた時、興味本位で自分の魔法適正を母親に聞いたのだ。
聞かれた彼女はうーん、と顎に手を当て、次の瞬間フワッと目の前に魔力の塊を出した。
触れてみなさい、との事なので触れるとその魔力は消される。
そして返ってきた答えは魔法の適正アリ、だが火と水以外は壊滅的というものだった。
「ふーん、そ。ならいいんだけど。という事は、暫くパーティ業はお預け?」
「・・・そうなるな、すまない。明日、依頼されたセイラク草を渡した後に俺の家へと向かおうと思う。
そこでなんだが、二人には数日とはいえお世話になったからな。今度は俺の家に来てみないか?」
そうして俺は。今世どころか前世でも縁のなかった、実家への女性の連れ込みという快挙を果たすことになったのだった。
翌朝、ギルドの受付にて。
「こ、こちら依頼品が四百六枚分、状態が良かったので四百十枚分として換算した報酬になります〜」
想定を遥かに上回る依頼品の数に、声のうわずりを隠しきれないローザ。
アイテムボックスからドサッ、とカウンターに出した際は普段は崩れない笑顔も引き攣っていた。
「そして、お二人に朗報です〜。これまでの依頼達成数を加味して、お二人のギルドランクがFへと昇格致しました〜」
そう言ってパチパチと拍手を鳴らすローザ。
「ああ、確かに報酬は頂いた。で、ローザさん。相談なんだが、魔法を学びに行くから暫くギルドには顔は出せなくなりそうだ」
「魔法、ですか〜?どこかアテが・・・。ああ、そう言えばセアくんはあの方の子、でしたね〜。なら心配ありません、お気をつけて〜」
「あの方?」
「なんでもない。行くぞ、イリサ」
そう言ってローザさんの間延びした見送りの声を背にして、ギルドの前で待機していて貰ったセツナと合流する。
「あっ、おかえり、二人ともー!」
そう言ってトタトタと駆けてくるセツナ。
「良かった、お姉ちゃんちゃんと待っててくれたのね・・・」
「イリサちゃん、失礼だよ!私そんな赤ちゃんみたいな事しないよ!?」
それはどうだろう、少なくとも前世の柊はしていた。
清水寺で見失った時は心底肝を冷やしたものだ。
「まあそれは置いておいてだ。ここからだと歩いて三日はかかる、食料も買っておかなければならないな」
そう言って俺は、報酬金を分けたものを取り出す。
四百十枚分、合計四十一万。それを三人で分けた為、一人頭大体十三万を少し超えたくらいだ。
「あわわ・・・私こんな大金持った事無いです・・・」
「・・・凄い量ね。というか私、こんなに分け前は要らないって言ったのに・・・」
「気にするな、美味い飯もご馳走になったしな。十分に貢献してたさ」
そう言い二人に報酬をしっかりと渡す。
やはり分け前は平等でなければ。
目をグルグルとさせているセツナに、二人のものはセツナのアイテムボックスに入れるように指示をする。
はっ!として直ぐ様アイテムボックスへと仕舞ったセツナを見て、俺とイリサは苦笑いをうかべる。
(さて、魔法か。面白くなりそうだな)
そう思いつつ、俺達はマーケットへと足を進めた。




