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第十五話 救出依頼、完了

 周りに蜘蛛達が完全に居ないのを確認し、オッサンが吊り下げられている木の根元まで来る。


 そこそこの高さにあるそれは、風に揺られる度にブラブラと揺れていた。



「さて、どうやって助けるか。このままアイテムボックスに糸を入れたら落下する事になるぞ」



「木、切り倒してみたら?」



「おい、そんな事したら結局俺が怪我するぞお嬢ちゃん!?」



 三日間飲まず食わずでただでさえガラガラの声でツッコミをするオッサン。

 

(割と元気なようで何よりだ。レヴィも安心するだろうな)


 そう思いつつ、俺は木を切り倒しにかかる。

 ギョッとするオッサン。


 ガッ、ガッと持っていた短剣を斧代わりに使い、細めの幹の物から切り倒していくと、糸の根元が少しずつ解けてオッサンの位置が下がってくる。



「ちょっ、何して・・・お?おお、頭良いんだな坊主」



「おし、ちょっと糸を無くすから受け身取れるようにしててくれ」



 地面の近くまで来たので、一言オッサンへと声をかける。

 頷いたと同時に糸をアイテムボックスへ。



「大丈夫だったか、オッサン」



「オッサンって言うな!・・・だが助かった。礼を言うぞ、坊主、お嬢ちゃん。俺はガラン、城下町で防具店を開いている」



 上手いこと着地を決めたオッサンは礼を言い、自己紹介をしてきたのでこちらもと自己紹介を返す。



「ああ、俺はセアであっちの子がイリサだ。まだ冒険者になったばかりの若輩だ」



「なに、冒険者になったばかりだと?それであの対応力は賞賛に値するぞ」



 よく見ればそう言うオッサンは軽い怪我をしているようだ、きっと魔物に抵抗した時のものだろう。

 このまま帰らせたらレヴィが心配するか、と思ったのでアイテムボックスからセツナお手製の回復薬を取り出し、渡す。



「?ああ、回復薬か・・・。申し訳ねえ、恩に着る。このまま帰ったら娘に心配されちまう所だった」



「娘さんってレヴィちゃんでしょ?もうすっごい心配してたわよ?」



「何、なぜ娘の名前を知っているんだ?・・・まさか」



「ああ、防具屋に行った時に偶然に会ってな。助けを求められたからにはな」



 それを聞き、・・・そうか。と呟くガラン。

 きっと、件の脅してきている冒険者を警戒しているのだろう。



「・・・事情は聞いた。大丈夫だ、直接依頼を受けたからギルドは通していないしまずバレない。なんなら帰ったらギルドマスターに掛け合おう」



「何、本当か!?すまん、なんて礼を言えば良いのか・・・」



 安心させるように言うと、ガランは頭を思い切り下げてくる。



「別に良いわよ、そんなの。でも、レヴィちゃんにもう心配かけないであげてね?すっごい心配してたんだから!」



「ああ、もうしないさ。本当にありがとうな、二人とも。このお礼は必ずするぞ!

 ところで、よく俺の場所が分かったな。どうやって来たんだ?」



「ああ、それならウォータースライムに・・・」



 と、周囲を見回して三十分ほど前に放したスライムを探すと。


(・・・マジか)


 俺がアイテムボックスへと仕舞えていなかった、残ってしまった蜘蛛の巣に引っかかってふるふると震えていた。


 ここまで連れてきて貰った恩もあるので、俺はアイテムボックスへと糸を仕舞って、スライムをそっと湖に浮かべる。


 ぷかぁ、と浮かんだ彼?はそのままゆらゆらと流れて行った。



「・・・なんだか可愛いのね、スライムって」



「ウォータースライムが特殊なだけだろ。だって酸とか飛ばしてくるし」



「あいつも俺の命の恩人?なのか・・・?」



 湖の中で未だゆらゆらとしているスライムを見て、俺達はそう呟くのだった。






 その後、飲み水と軽い果物をオッサンへと渡しながら街の防具屋へと向かう俺達。

 夜だからか看板が閉じられているその店の扉をギィ、と開けると。



「すみません、今日はもう店じまいを・・・って、おとーさん!?」



「ああ、お父さんだぞ!ただいま、レヴィ」



 そう言って駆け寄ってきた娘を抱きしめるガラン。



「おとーさん、心配したんだよ?」



「・・・ああ。ごめんな、悪かった」



 もうお互い会えないかと思っていたのだろう、その瞳は二人とも潤んでいる。


(折角の再会に水を差すのもな。帰るか)


 そう思った俺は、イリサと目配せをしてそっと店の扉を閉じた。






 その後ギルドに顔を出して例の冒険者についてギルドマスターに報告。

 そのまま俺達はイリサ達の家へと直帰した。



「お姉ちゃん、ただいまー!」



 そう言ってさっさと家に入るイリサを追うようにして俺もお邪魔させてもらう。



「ただいま。戻ったぞ、セツナ」



「おー!おかえり、イリサちゃん、セアくん!」



 そう言って迎え入れるセツナは本を読んでいた様だ。

 手に持った本には薬草学について書かれている。



「その本、どうしたんだ?」



「ああ、これです?この本、色々なポーションを作るための知識が書いてあるんですが・・・。二人の役に立ちたくって久しぶりに奥から引っ張り出しちゃいました!」



 そうはにかみながら本棚を指さすセツナ。

 つられて本棚を見てしまう。


(・・・しかし、こうみると中々の数の本だな)


 薬草学以外にも、剣術指南の本や数学の本、魔法についての本まである。


(魔法か。まだ練習した事ないんだよな、使える実感がわかなくて)


 そう思いつつ、他にも物色していると本棚の横の机に置かれた本に目が留まる。


 これは?と表紙を見ると、世界の五神についての本だということが分かる。


(確か、それぞれ修羅、防護、魔法、生命、感情を司っているんだったか)


 母親から聞いた内容を思い出しながら、栞の挟んであるページを開くと、そこには。


 一一記憶の戻し方。


 そう、見出し部分に書かれていた。



「あっ、見られちゃいました?・・・えへへ、やっぱりイリサちゃん以外の事も思い出したくって」



 そう言って寂しそうに笑顔を浮かべるセツナ。


(・・・クソ。セツナだって悩んでんじゃねえか)


 何も悩んでいるのは俺だけでは無かった。

 いや、もちろんイリサだって心配していた。

 が、何よりもだ。


(・・・何もしてやれてない俺自身に腹が立つ)


 心の中が不甲斐(ふがい)なさで埋め尽くされる。


 気を紛らわすかのように俺は栞の挟まれていたページへと目を向ける。



 一一記憶の戻し方。

 この世界の全ての生物が忘れてしまった過去は、感情の白神であるテラメア様が大切に保管なさっている。

 もし、この本を読んでいる貴方が自分の過去、例えば子供の頃の思い出や()()()()()()()()を思い出したいのであれば。

 ・・・この世界、ガラティアにある六大陸。その中のうち、テラメア様が居られるとされるアルヴィナ大陸へと行くといい。

 その大陸にはテラメア様の御神体が祀られる祠がある。

 きっと、テラメア様は貴方に試練を与えるだろう。

 しかし、貴方が諦めなければ記憶は取り戻す事が出来るだろう一一



(・・・アルヴィナ大陸の白神、テラメアか。そこへ行けば、セツナの記憶も)



「・・・なあ、セツナ。一つ聞いていいか?」



「私ですか?セアくん、どうしたんです?」



 ふう、と一息ついてから質問を続ける。



「セツナ。お前は、記憶を取り戻したいか?」



 我ながらデリカシーの無い質問だと思う。

 が、ここで止める訳にはいかない。



「・・・そうですね。はいかいいえで答えるのならもちろん、はいです」



 俺にそう問われたのが意外だったのか。

 セツナは困惑しながらも、そう答える。



「ああ、分かった。じゃあ次の質問だが。・・・セツナ、お前は、俺達と。一一旅を、したいか?」



 そう、俺はセツナに問うた。

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