表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/39

第十二話 魔道具屋さん、防具屋さん

「ほんっと、馬鹿なんじゃないの!?このヘンタイっ!!」



 耳の先まで赤くしてそう叫ぶのは、先程俺に凶器を投げつけ気絶させたイリサ。


 俺はと言うと、今絶賛正座中である。


 あの事件の後。騒ぎを聞き付けて目を覚ましたセツナに俺は回復薬を飲まされて復活。

 が、復活した直後にイリサは俺を正座させ、それから約十分。言い訳すら許してくれない。


 助けてくれ、とセツナを見つめる。



「まあまあ、イリサちゃん。セアくんも悪気は無かったと思うよ?」



 あはは、と憤慨するイリサをとりなすセツナ。

 大好きな姉が間に立ったからか少しは落ち着いてくれたようだ。



「・・・次は無いわよ」



「悪かった・・・」



 それだけ言うと、プイっとそっぽを向いて朝食の準備をする。


 暫くして用意されたのは昨日の余り物のスープと野菜のスムージー。

 朝ということでそこまでのボリュームは無いが、これまた美味しかった。



「ご馳走様でした。・・・で、今日はどこへ行く気だ?」



 栄養を取り終わった所で。

 食器を洗いつつ、セツナへと希望を尋ねる。

 東の森は昨日行ったから、西の森か南の平原だろうか。

 北の山は危ないから一旦スルーだろうな。



「うーん、三人で城下町を見て回りたいですかね?まだ見た事ない所が沢山あるんですよ」



「なるほど。街の探索か、悪くないな。イリサはそれで大丈夫か?」



「全然大丈夫だけど・・・。お姉ちゃん、私かセアのどっちかと一緒に行動してね?」



 方向感覚は一切信頼されていない様だ。


(・・・よく考えたら、俺も城下町の店とか殆ど見た事ないんだよな)


 丁度良い機会だ、どうせなら武器や防具も買い替えておきたい。



「はーい!」



 昨日の疲れが嘘のように元気なセツナ。

 相当お出かけが嬉しいのか、犬であれば尻尾を思い切り振っていそうな勢いである。



「どこか行きたい店でもあるのか?」



「うーん、どうでしょう。強いて言えば、二人の行きたい所に着いて行ってみたいです?」



 どうして疑問形なのだろうか。

 まあ分かった、と言わんばかりに頷いておく。



「あ、それならちょっと魔道具屋に行っても良い?コンロ用の魔鉱石がもう無いのよね」



 魔道具屋、そのワードに少しばかり興味をそそられる。


 一一魔道具。


 それは、魔力を溜め込むことの出来る石、所謂魔鉱石と呼ばれる物を燃料タンクとして動かす道具で。

 例えば先程出てきたコンロ、正式には魔導コンロだったか。や、他にもランプ、アイロン等がある。



「おー!面白そう、行ってみたい!」



「ああ、俺もそこで良いと思うぞ。その後の行先はまた後で決めよう」



 午前中の予定を決めた俺達は、各々準備を進める。

 と言ってももう着替えているので歯を磨くくらいだが。


 三人で並んで歯を磨いた後、街へと出発する。



「ねーねー、イリサちゃん!あっちに面白そうなの売ってるよ!」



「あっ、こらお姉ちゃん!勝手に走って行かないの!!」



(姉妹と言うよりも親子か・・・?)


 二人の仲の良い姿を見て、通りすがりのお婆さんや散歩中のおじさんも微笑ましそうにする。


 そんな風に歩くこと二十分。

 少しばかり入り組んだ場所へと入って行くと、魔道具屋がそこにあった。


 チリンチリン。

 

 ドアを開けると軽快な音が鳴り響く。



「おや、いらっしゃいませ。魔道具屋「灯火の鈴」へようこそ、何かご入用ですか?」



 そう言い俺達を迎えるのはスーツ姿のお姉さん。

 シックな感じの店内にあった服装で、思わずこちらの背筋も伸びてしまう。



「えっと、魔導コンロ用の規格の魔鉱石が幾つか欲しいんだけど・・・」



「魔鉱石ですね、かしこまりました。暫くお待ち下さい」



 イリサがスーツのお姉さんと話している間、俺とセツナは店内の魔道具を物色する。

 


「ランプにヒーター。・・・これは冷蔵庫か?色々とあるもんだな」



「見て下さいセアくん!こんなのもありますよ!」



 そういい見せてくるのはネックレス。ペンダント部分が何やら他の物とは違う色の魔鉱石で出来ている。


 少し気になった俺は鑑定をしてみる。



希人(まれびと)のペンダント(黒)

  :防護の黒神、ゼイケルの加護が込められたペンダント。装着した対象の防御、対魔力を少し上げる。



(なるほど、こういったステータスを上げるアクセサリーもあるのか)



「魔鉱石ってこんなに綺麗になるんですね、知らなかったです」



「かなり丁寧に削られているみたいだからな。中々高そうだ・・・。うおっ、28000メルもしやがる」



「ふえっ」



 その値段を聞いたセツナは怯えながらペンダントを元の位置へと戻す。

 震えた手で無事に返してきたセツナは逃げるようにイリサの元へと走り去って行った。


(・・・ペンダント、か)


 俺は少しばかりも逡巡(しゅんじゅん)せず、ペンダントを二つ、会計の方へと持って行く。


(まあ、旅は道連れなんとやら、だ。たまにはこういうのも良いかもな)


 会計を済ませた俺は、先に外へと出て二人を待っている。

 暫く待っていると、イリサ達もで会計を済ませて扉から出てくる。



「セア、何買ったの?」



「まあ、ちょっとしたものだ」



「ふーん?」



 渡すのは帰ってからでもいいかと決めた俺は、次の目的地を提案する。



「なあ、武器屋へ立ち寄ってもいいか?即席パーティを組んでからは結構魔物を狩るからな。そろそろ新調しようかと思うんだが」



「うん、良いと思うわよ。あっ、でも・・・」



 そう言ってセツナの方を見るイリサ。

 セツナは心做(こころな)しか怯えていて、ぷるぷると弱々しく震えていた。


(・・・ああ、刃物が駄目なんだったか)


 理由を思い出した俺は、やってしまったなと心の中で独りごちる。



「すまない、配慮が足りなかったな。武器屋はやめておくか」



「・・・ごめんなさい、セアくん。刃物だけはどうしても無理なんです」



「何、武器屋なんて一人でも行けるさ。なら防具屋か?」



 武器が駄目なら防具を買い換えよう。

 その提案は誰も断ることなく、俺達はその足で防具屋へと向かった。






 防具屋へ着いた頃には昼を過ぎていたので、アイテムボックスから今朝方イリサに作っておいて貰ったサンドイッチを取り出す。


 アイテムボックスの中では時間経過は無いため、いつ食べても作りたての物というのはありがたい。


 サンドイッチをするすると食べ終え、店へと入る。


 扉を開けると、ギィィと魔道具屋とはまるで違う無骨な音がする。



「あっ、いらっしゃいませ」



 声がするが店員は見当たらない。

 何処だろうか、とキョロキョロと見回すがそれらしき人影は無い。



「・・・ここです」



 そう声のする方はレジカウンター。

 側まで近寄ると、小さな女の子がカウンターから頭を覗かせていた。


(こんな小さな子が店番?)


 と普通の疑問を抱く。

 俺達が驚いているのを察したのか。

 女の子は、ぽつりぽつりと話を始めた。



「本当はね、おとーさんのお店なんだ。でも、三日前に一人で山へ行ったきり帰って来なくなっちゃったの」



 そう辛そうに話す女の子。


 年齢で言えばまだ幼女と言っても差し支えないだろうその子は、帰って来ない父の代わりに見よう見まねで店番をやっているようだった。



「この辺の山といえば北の山か?お父さんはそんな所へ何しに行ったんだ?」



「・・・多分、防具の素材を取りに行ったんだと思う」



 単純な疑問を抱く。

 もし防具の素材が欲しいのであれば冒険者に依頼をすれば良いはず、そのためのギルドなのだから。



「お父さんは戦えるの?冒険者ギルドに頼んだりしなかったのかしら?」



 イリサが俺の疑問を代弁すると、すんなり答えは返ってきた。



「お父さん、冒険者をあんまり信じて無いから・・・。

 この前、悪い冒険者に騙されて大切な宝物を盗まれちゃったんだ。

 だから、一人で勝手に山に入っちゃったんだと思う」



「何それ、冒険者の風上にも置けないじゃない!ギルドには言ったの?」



「ううん、ギルドに言ったら店ごと潰すぞって脅された。

 だから、おとーさんの助けを呼びたくても呼べないの・・・。うう」



 なるほど、やはり何処の世界にもそういう屑はいるものなんだな。

 とうとう泣き出してしまった女の子を前にそう思っていると、セツナが女の子の側へと近寄る。



「君、お名前は?」



「・・・レヴィ」



「そっか、レヴィちゃん。この出会いも何かの縁だしね、助けるよ。こう見えてお姉ちゃん達強いんだよ?」



 そう言ってはい、とアイテムボックスからサンドイッチを渡すセツナ。

 レヴィと名乗る女の子はそれを受け取ると、おずおずと上目遣いで俺達を見やる。



「ほんと?でも、私お小遣いなんてちょっとしか無いから・・・」



「・・・そんなの後払いでいいわよ!お父さんが無事に帰ってきたら受け取るから気にしなくていいの!ね、セアも良いでしょ?」



 そんな事聞かれるまでもない。



「ああ、勿論だ。旅先での縁は大切にしたいからな。

 ・・・それに、パーティメンバーに勝手に居なくなられたら困る」



 そう言って唐突に舞い込んだ救出依頼。


 ギルドを通さないので実績には反映されないが、旅先に困っている人、それも小さな女の子がいたのだ。

 それを何もせず見捨てる訳にはいかない。



「よーし、そうと決まれば早速行くよ!レヴィちゃん、お父さんは何を採りに行ったのかな?」



 セツナがレヴィへと話しかけるのを皮切りに、俺とイリサも動きを始めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ