第十一話 収穫は上々、報酬はイリサの手料理
夕暮れ時。
皆帰宅をしているのだろうか、ガッコンガッコンと外からは馬車の音が聞こえる。
天井に浮かぶ淡く光る生活魔法はテーブルを照らしている。
「終わ・・・ったあ〜・・・!」
そこには、テーブルの上にこれでもかと積まれた葉、葉、葉。
俺は、その仕分け終わった葉をアイテムボックスへと仕舞う。
帰って来たのは丁度太陽が真上に来る時間帯。
腹ごしらえにとアイテムボックスへと放り込んでいたサンドイッチを頬張った後、俺とセツナは鑑定の作業へと移った。
積まれた葉を束にして手に取り鑑定。
「テノヒラ草の束」と出たらセツナのアイテムボックスへ入れ、「テノヒラ草とセイラク草の束」と出ればその中でもう一度仕分ける。
そうすることによって、一枚一枚を鑑定するよりも大幅に時間を短縮させたのだ。
それでも約五時間、三十秒毎に2だけ回復するMPを頼りに、ずっと鑑定をしていた俺達はもう椅子から立ち上がることすら出来ない。
セツナに至っては魂が口から出そうになっている。
「二人ともお疲れ様。ご飯出来てるわよ?」
そう美味しそうな匂いと共にやってくるイリサ。
珍しくエプロン姿だ。
「ご飯・・・?イリサちゃんのご飯食べれるの・・・?」
ふらふらと匂いにつられて動き出すセツナ。
その足取りは今にも倒れそうだ。
俺も腹が減ったので、どうせならとありがたく頂く事にする。
案内されてダイニング代わりの小部屋へ向かうと、そこには三人分の料理が綺麗に並べられていた。
「これが堅パンね、このニンジンとジャガイモのスープに浸して食べて。こっちが塩ゆでしたキャベツの肉巻き、味付けは薄いけれどワイルドボアのお肉を使っているから美味しいわよ?」
「わあい、イリサちゃんの料理だあ・・・。美味しそう、いただきます・・・」
「ああ、ありがたく貰うとする。いただきます」
そう言い、俺はメインディッシュの肉へといきなりフォークを伸ばす。
ワイルドボアの肉はしっかりと血抜き処理をされており、臭みが全く無くなっている。
ソースなどはかかっていないが、キャベツと濃い塩の味付けが絶妙なバランスを保ってとても美味しい。
スープの方もどうやって味付けをしたのだろうか。
コンソメではないが、香ばしい香りと共にほろほろと崩れるジャガイモ。
疲れた身体へと染み入るその味は、料理人の腕の高さを訴えていた。
「・・・めちゃくちゃうまいな。これ、イリサが作ったのか?」
「ふふん、どうよ!あたしだってこれくらい出来るんだからね!」
そう言って姉ほど無い胸を張るイリサ。
ぶっちゃけ、料理の腕で言えばティルティフォン家で食べていた物に勝るも劣らない。
しかも、有り合わせの材料でこのレベルなら、イリサの方が料理の腕は数段上だろう。
「凄いでしょう、私のイリサちゃんは!すっごくお料理上手なんですよ!」
そう言って、えっへんと豊満な胸を揺らすセツナ。
思わず目を背ける。
「で、仕分けたのは良いが。期日まであと二日あるぞ、明日はどうする?」
セツナの表情が笑顔のまま固まった。
どうやら、旅は好きでも先程までの作業が相当堪えたらしい。
「・・・旅するだけじゃダメですか?」
そう泣きそうになりながら懇願するセツナ。
「・・・まあ、アイテムボックスのお陰と言うべきか否か。異常な数の依頼品は集まったからな。ギルドマスター次第だが、報酬的には充分だろ」
「そうなの?仕分けの時は私、買出しに行ってたから知らないけど。どのくらい?」
「ざっと依頼品が約四百枚。ついでにテノヒラ草の大きいのが約二千六百枚だ。やったな、回復薬作り放題だぞ」
山の様に積まれた光景を思い出して俺とセツナは遠い目をする。
正直俺ももうやりたくない。
前世に存在する所謂ライン業で働く人達を初めて尊敬した、地獄の様な五時間だった。
「うーん、なら、提案と言うかお願いなんだけど・・・」
そう顎に人差し指を当てるイリサ。
「お姉ちゃんもこう言ってるし、たまにはお外に出してあげたいんだけど私一人じゃ護衛は怖いから。セア、大丈夫だったら一緒に明日お散歩しない?」
「いいのか?あんなにセツナの事心配してたのに」
「私一人だったらそうね。でも、セアが居るなら護ってくれるでしょ?」
期待を向けられる。
確かにフォレストウルフ等が相手ならどうとでもなるが。
「えっ、いいの、イリサちゃん!?」
目を輝かせるセツナ。
到底断れる雰囲気では無い、そもそも断るつもりも無かったが。
「セアが来てくれるならね。どう、大丈夫そ?」
「さして問題ないぞ。じゃあ、明日も朝から出発だな」
「わーい!ありがとうございます、セアくん!」
相当嬉しかったのか、そう言って抱き着いてくるセツナ。
ぽよん、と胸が当たる感触に気が持っていかれそうになった時。
「・・・ヘンタイ」
そう呟くイリサのジト目を浴び、俺は思考を明日の予定へと逃走させるのだった。
翌日、これまた早朝。
俺は普段使っている宿屋ではない、見慣れない部屋で目が覚める。
(ああ、そういえば昨日は泊まっていけと言われたんだったか・・・)
昨夜、ご飯を食べた後帰ろうとした時。
明日もどうせこの家に集合するのだから泊まっていけ、とイリサに言われたので、お言葉に甘えた次第だった。
(・・・トイレがしたいな。何処にあるかイリサにでも聞くか)
そう寝起きの働かない頭で物音のしているリビングへと向かう。
ガチャリ。
「おい、イリサ。済まないがトイレを・・・」
昨日薬草の仕分けをした部屋のドアを開け、そこに居るであろう少女の名前を呼ぶが、そこには。
「・・・?、っ・・・!!?」
着替えの途中だったのだろう。
そこには寝巻きを脱いで、下着を身につけただけの姿の少女。
少女一一もといイリサは。
一瞬でそのあどけない表情を赤く染めあげ、近くにあった鈍器、厚さ約十センチの図鑑らしきものを掴む。
「えっ、ちょ」
一一俺が待て、という間もなく。
飛来してきた本の角に頭を撃ち抜かれた俺は、彼女の下着姿と引き換えに意識を失うのだった。




