第九話 魔王
魔王城の天辺には禍々しい雲がかかり、おどろおどろしい空気が流れている。
入り口の扉は王子の身長の何倍もあった。
「……インターホンは?」
「王子、少し退いていてください」
道化師は魔物の装飾が施されたドアノッカーで扉を4回ノックした。ゴン、ゴンと重い音が辺りに響き渡る。
扉はゴゴゴと重い音を立てながら、ゆっくりと開いていった。二人は恐る恐る魔王城へ入る。
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巨大な三段のシャンデリアが照らす、吹き抜けの大広間。
天井まで届きそうな大きな玉座に、ちょこんと座っている小動物。
──ケモロリだ。
黒と水色のツートンカラーの体毛に大きな耳、頭には黒のツインテールが結えてあった。背中には小さいコウモリのような羽が生えている。
(可愛い……)
「わらわは魔王、エターナル・フォーエバー・エーヴィヒカイト・エテルニタ・デス・トート・モルテ! 貴様がナーロッパ国のエチ王子か。」
(ボクはエチ王子だったのか……)
「忌々しいナーロッパ王の封印の恩、──100億倍返しにしてやるぞ」
玉座からふわっと空中に浮き上がり、右手を突き出した。
その瞬間、凄まじい衝撃波が二人を襲う。
「うわあッ!」
「レベル7? 笑わせるな! そんな低レベルでわらわに敵うとでも思うたのか?」
突き出した手を左に移動させると、また衝撃波が二人を襲う。立っているのすら困難だ。
「──火炎!」
道化師が魔法で支援する。衝撃波を緩和する事が出来た。
「ほう……そっちのよう分からん格好の奴は、少しやるようじゃな」
「道化服はよう分からん格好ではありません、仕事着です」
「何じゃ! わらわが分からんと言った物は分からんのじゃ!」
どうでもいい漫才で魔王に隙が生まれたのを王子は見逃さなかった。
「でええい!」
「ひゃわ!」
王子の剣先はツインテールの毛を数本、掠った。
魔王の表情はみるみる恐ろしい物へと変化……したが、可愛かった。
「おのれ……よくもわらわの自慢のツインテールを……。立場というのを理解させんといかんようじゃな!」
魔王は紫色のオーラを纏い、両手で複雑な動きをして道化師の足元に魔法陣を作った。
避ける間も与えず、魔法陣からは凄まじい電流が流れた。
「ゔああああッ!」
道化師は悲痛な叫び声を上げ、何度も痙攣を繰り返す。
「道化師ーッ!」
「どうじゃ? これが魔王の力じゃ。王子、わらわに逆らうとそなたもこうなるぞ! 良く見ておけ」
「や、やめろ! 道化師が……」
「あああああ!」
それでも解放はされずに、数十秒が過ぎた。
「やめろやめろ、やめろーッ!」
そして、魔王は握り拳を作った。拳は紫色のオーラを纏い、振り上げる。
「──100億倍、返しじゃ!」
そう言うと振り上げた拳を道化師の腹にめり込ませた。
「ごぼぉっ!」
魔王は拳を道化師の体越しに壁へぐりぐりと押し付け、内臓が潰れる音がした。
道化師の口からはぼたぼたと血が流れ落ちた。
「え ゛く……え ゛っ、おやおや……ごぼっ」
道化師は弱々しく笑うと、沢山血を吐いて動かなくなった。
初めて道化師のそんな姿を見る王子は、怒りで体がカッと熱くなった。
「お前えええ!」
剣をでたらめに振り回す。が、魔王の拳が王子の腹に直撃し、ドボンと水の音がした。
「がッ……」
「遅いな」
痛みで地面にうずくまっていると、今度は頭を力一杯踏み付けられる。
「ざーこ♡」
(くそ、くそ、くそ……!)
「自分より小さい生き物に屈服する気分はどうじゃ? 悔しいか? ん? 悔しいか?」
「ああ、そなたの様な美しい人間を虐められてわらわは嬉しいぞ! なあ?」
ぎりぎりと頭を踏み潰され、強烈な痛みが頭を走る。
道化師は瀕死状態、王子はレベル7。魔王はレベル100。敵うわけがない。
(どうしたら、いいんだ……)
王子は最大のピンチに見舞われた。




