第二話 スライム
人外物の漫画を漁るも、角やケモミミがちょこっとついた物ばかり。
さらには最終回で人間の美少女になるケモノ。
(どこを見ても人間、人間、人間……もううんざりだ)
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それがどうだろう。目の前に広がる光景は……本物のスライム!
水のように透け輝く体。ぷるんとした丸いフォルムがいくつも、草原を跳ねている。
(いや、人外娘……にしてはちょっと原型に近過ぎるか。でも触ったら気持ち良さそうだな……)
(まあいい。初めての剣の練習に丁度いい)
転生したのはナーロッパ国の王子様。剣術くらいは習っているだろう。
「で……道化師、スライムのレベルは?」
なぜかちゃっかり旅について来た道化師に尋ねる王子。
「ここら辺のスライムはレベル1のようです」
(レベル1?ザコすぎるな)
シャンと音を立てて腰に下げた剣を抜く。
敵意に気付いたスライム達は王子の前へと集まって行き、一体の大きなスライムとなった。
「さて、お手並み拝見と行きますか……!」
「えっと……、えい!」
転生前はお土産屋のおもちゃの剣しか触った事がないため、どう振ればいいのかさっぱり分からない。とりあえず、棒で叩くようにしてスライムに剣を振った。
スライムは思ったより柔らかく、プリンにスプーンを入れるようにして二つに分かれた。
「やった! 初めて魔物的な奴を倒した!」
王子がはしゃいでいると、道化師は深くため息をつき、首を横に振った。
「やれやれやれ……王子。スライムをよく見てください」
振り返ると、そこにいたのは二匹の中くらいのスライム。
(スライムが……分裂した!?)
スライムは再び一つになると、王子に迫った。
ぬるりとした冷たい感触。スライムに脚を取られたのだ。
「わっ、やめろ、はなせッ!」
スライムから逃れるためにもがくも、逆効果で体がどんどん飲み込まれて行く。腰から下がぬめぬめとした感触でひんやりと冷え、自由に動けない。
「道化師! 道化師助けて! やばい!」
「スライムに剣が効く訳ないじゃないですかぁ、王子ってばユーモアたっぷりですね」
道化師はニヤニヤしているだけで特になにもしない。
「うわっ、うわー!」
ついに首から下まで飲み込まれてしまった。体はスライムの体重でずっしり重く、海に浸かったかのように体が冷えた。
(このままじゃまずい!口まで塞がれたら窒息する……! 何ニヤニヤしてるんだあの道化師は!)
しかし道化師は一切助けてくれず、ただ眺めているだけだった。
「ん ゛ん! ん ゛んんーッ!」
ついに口元までスライムに飲み込まれていく。鼻も塞がれて息が出来ず、どうする事もできない。王子の美しい顔はどこへやら、髪はスライムの体液でひどく乱れ、絶望した険しい顔で目に涙を浮かべた。
しばらくもがいていたが、うっすらと気が遠くなり、抵抗する力が弱っていく。
完全にスライムに飲み込まれた王子は、水槽の中の金魚のようだった。
(何で……レベル1のスライムなんかに……。こんな事なら、会社の方がマシ……いや、そんな事ないか……)
──王子、死亡。
スキル“不死”発動。蘇生。
道化師が近付いて来る。
「いいですねぇ、その顔。とても王子様には見えませんよ。さて、そろそろリョナ経験値が貯まった頃合いですかね……」
そう言うと道化師は右手を突き出し、次の言葉を発した。
「雷電!」
一気に空が曇り、けたたましい音が鳴り響いたと思った瞬間、目にも止まらない速さで雷がスライムに落ちた。
当然だが、王子にも当たっている。
「お ゛ああああ!?」
スライムは水のように弾け飛び、王子が出てくる。……感電しているが。
「王子ともあろうお方がまあ、こんなザマで……国から離れた所で良かったですねぇ」
「お、お前、ボクまで雷でしびれ……」
ビクビクと痙攣しながら地面を這う姿は実に無様であった。
「おや! これは失敬」
(こ、こんなはずじゃ……。ん?まてよ……)
「道化師、ボクのレベルっていくつか分かるか……?」
もしかして、と思い道化師に尋ねる。
「今の戦いでレベル2になりましたね」
「まじか……」
二人の旅は長引きそうだった。




