魔法書
■魔法書
「何と書いてあるのだ?アリス」
流石の雫にも、書いてある文字が判別できない。古いラテン語らしきことは分かったのだが。
「大昔の有名な魔法書の名前が書いてあるのよ。超有名な」
その言葉で雫も気がついた。
「まさか」
アリスは頷いた。
「『ソロモンの鍵』と書かれるのよ」
アリスは自分が少し冷や汗をかいているのに気がついた。
はぁ。ラテン語なんて貴族の頃に教養をひけらかす時くらいしか役に立たないと思ってたのに、こんな時に役立つなんてね。
心に忍び寄る恐れを振り払うように、冗談めいた事をアリスは思った。
ソロモンの鍵。
古代イスラエルの王の名前を付けられた魔法書。
「偽物だとは思うけど、高密度の霊脈が絡んでるとなると、洒落にならないわね」
まったくファンタジーだわ、とアリスは肩を竦めた。
言った後で、ふと思った。
ファンタジーによく出る竜って、この間、別の惑星にいたっけ、ほぼ魔法に近い能力を持つ異星人、正確にはAIだけど、そういう六もいるし、あれ、雫って東洋の魔法使い、って言っても良い存在。
などと考えていると、はぁ、と心の中でため息をついた。とか思ってる私はファンタジーなら魔女そのものじゃ無いの。
とほほ。
ごく短い時間に、アリスはこれらを思考すると、素早く心の中の棚に仕舞い込んだ。
そして雫を見ると、思案顔をしている。そして雫が口を開くのを見た。
「仮に、この『ソロモンの鍵』が複製、もしくは、偽物だとしても、何かの機能としては動作した。だからこそ、香の父君はこれを取りに戻った」
「雫さん」
六が雫に話しかけた。
「『本』の中身で、読み取れる箇所がありました。再現します」
六が再現して全員に見せている「本」、その「本」が開かれ、あるページが全員の目に止まる。
そこには日本語が書かれていた。
「原理は理解できないが、この『本』を手にしていて閃いた方法を試してみた。うまく行った。息子を治療できるかも知れない。私にはこの『本』の力が必要だ」
別のページが開かれた。
同じく日本語で書かれている。
「死んだ息子を蘇らせたい」
アリスはその上に書かれているラテン語の文章を翻訳して言った。
「この本を読むものの内に秘めたる、道理では叶わぬ切なる願いを書け」
アリスは本当に自分が冷や汗を流しているのを感じた。
それは雫も同じだった。
「まさか、反魂の術を行おうとしていたとは。しかも、途中までは上手くいっていたと」
そう、書かれていたようだ。
「でも、おかしいわね。もし、息子が蘇って、治療が必要だとしたら、その息子はあの隠し部屋のベッドの人物でしょう。火事になったら『本』を取りに戻るんじゃなくて、息子を助け出そうとするんじゃ無い、そうしなくて『本』を取りに戻るって、おかしい」
アリスが自分の疑問を口にしながら考えを整理していた。
「そうだ。アリス。それに見合う答えは」
雫がそう言うと、全員の視線が雫に集まった。
「あの隠し部屋には息子は居なかった。と言う事になる」
「でもそれじゃ、『本』に書かれてることと矛盾する」
そこでアリスは黙る。そして次の瞬間、「あ!」と声を出した。
「多分そうだ、アリス」
アリスは頷くと行った。
「混線した時の線の隠し部屋の部屋で治療を行なっていたのね。そして」
ビッという感じで『本』を指差すと、アリスはキリッとした口調で言った。
「その混線した時の線に行く『鍵』がその『本』だったのよ!」
「ソロモンの鍵」が混線した時の線の隠し部屋に行く「鍵」と、何、面白いコト言ってるんだ、などとは、誰も突っ込まなかった。そういう冗談を言う雰囲気ではなかったからだ。
じゃ早速、と言う感じで、アリスが好奇心丸出しで身を乗り出すと、それを制して雫が言った。
「待てアリス。いきなり実証実験は危険だ。それに、まだ調査する必要がある」
アリスは、はいはい分かってるわよ、と言う顔をした。
「で、何を調べるの?」
「香の父君は、どんな治療を行なっていたか、その方法だ」
イキナリ難問キタ、アリスはそう思った。
■不死の治療
「雫たちが、調べに行ってる間にあの病院の事を調べたけど、特におかしな点はなかったわ。ただ」
全員の視線がアリスに注がれる。
「どうも、患者の何人かから献血をしていたみたいなのよ。まあ、手術用の輸血、と言う事じゃ無いかと初めは思ったんだけど、患者から取るのは少し妙だし、手術で使った血液の量と納品されている血液の量と在庫を比べると、輸血分だけ余分になるのよ」
雫の閉じた扇を持った右手は大腿に置かれている。その右手を少し握った。少しの静寂が場を包む。雫は右手の力を抜いた。
「これから話す事は仮説の上、どうして香の父君が出来たのかまったく謎なのだが」
と雫は前置きした。
「『本』の文章から、おそらく、息子は蘇ったが完全な生者ではなかった。そして、その『本』を持っている最中に、父君はある方法を思いついてそれを実行した所、息子の容体は回復した、か、回復の兆しが見えた」
全員が頷く。
「そして、今のアリスの献血の話だ」
そうか!
アリス、アオイ、アカネ、そして光の四人の顔に理解の色が浮かんだ。
「息子に輸血したのね!」
アリスの言葉に雫が頷いた。
「おそらくただの輸血でなない。血液を介しての気脈の移動だ」
アリスはぞくり、とした。
「あのね、雫。その輸血をした患者なんだけど、輸血の後、容体が悪くなった人がそれなりにいたようなのよ。カルテのデータを照合して分かった事だけど」
雫がアリスの方を見る。
「あ、大丈夫。容体が悪くなっただけで、誰も死んだり、病気や怪我が悪化したりはしなかったみたいよ」
アリスは慌てて言った。雫は死を嫌う。それを思って急いで言い添えたのだった。
大丈夫、というように雫はアリスに頷いてみせた。
「普通の献血では気脈の移動は起こらない。もし行おうとすれば、それには巫術が必要だが」
「香ちゃんのお父さんは男性。巫術は出来ない」
雫の説明をアリスが続けた。
「普通ならな。だが」
そう言うと雫は視線を、「本」に向けた。
「この『本』の霊脈が、それを手助けしたとすれば、別。と考えるのが妥当だろう」
雫は苦いものを噛んだような顔をした。
「『本』に書いたものの願いを叶える術を行う巫術。途方もなく高度で、複雑極まりない」
アリスは思い出していた。
「自動的に動作する巫術は危険だ。思いも寄らない副作用が起こることがある」
そう雫が言っていたのを。
だから、苦虫を噛み潰したような顔をしているのね。そうアリスは思った。
「あ、あのう。雫さん」
恐る恐る、という感じで光が言った。
「香ちゃんのお父さんとブレる感じで女の人が見えました。混線した時の隠し部屋で。もしかして、あの人は」
雫の目が光を見つめる。そして頷いた。光の考えを肯定するように。
「香ちゃんのお母さん、なんですね」
雫は光の言葉を肯定するように頷いた。
「他の時の線では、輸血を行なったのは母親、という事になるだろう。母親が生きていた時の線」
雫はここで何かに気づいたように左の眉根を上げた。それに気づいたアリスが言う。
「何に気がついたの、雫?」
「起点は、もしかしたらこの時の線では無く、香の母君の生きていた時の線かも知れぬ」
「え、香ちゃんの母親が巫術を行ったって事? 違うな。子供が出来ると巫術は使えなくなる」
アリスは考え込む。
「そうだ。だがアリス、その考えに近いものを私は思った」
アリスは雫に視線を戻す。
「起点は、香がこの『本』を手にした時の線、そして、その願いによって、母親が献血をした」
アリスの顔に驚きが広がる。
「この時の線の香も弟の事を心に刻んでいる。そして、ベッドの人物を青樹は香だと思った」
アリスも気がついた。
「香ちゃんの双子の姉妹。そしてその子は早くに死んでしまい、『本』の願いで蘇った」
アリスの脳裏に巫術師の素質についての話が思い出された。
生き残った双子の片方。
「その時の線では、香ちゃんは巫女だったんですね」
光の言葉に、雫は静かに頷いた。
「そして、『本』に願いを書いた。呼応して、死んだ子供の復活を願う親、その親が居る時の線が、『本』の力でまとめあげられた」
雫の言葉に、光の顔は不安に彩られた。
「この時の線の香ちゃんに何か起こったり、するんでしょうか」
光の問いに、暫し魔を置いて雫は応えた。
「おそらく、何も起こらない、と思う。光達は混線した時の隠し部屋に入ったが、香にはその後、特に何も起こっていない」
そこで一旦、雫は言葉を区切った。
「ただ、その過去に介入すると、影響が出ないとも言えぬ」
やはり、時の間から覗くのも、その過去に行くのも、良くない事を引き起こす、という考えは当たっていた。
「しかし、この『本』の謎は解かねばならぬだろう」
雫の視線は、本に注がれた。
「これ程の巫術、巫女の香が成した筈は無い。もっと大きな存在が、何らかの目的を持ってこの本を作り放った、と考えるのが妥当」
結び目の巫女。
光の脳裏にその言葉が浮かんだ。
双子の妹を蘇らせたいと願った時の線の香ちゃん。その子の行いが、いくつもの時の線を結び、怪異とでもいう出来事を引き起こした。
「時を結ぶ原因を作った本、お姉ちゃんを眠らせる原因になった本」
光は呟いていた。
「あたし、時の結び目は解けなくても、本の理を知りたいと思います」
光の心の奥底になる言葉が、自然と口から零れた。
「そうね。世界に対する脅威としては、潜在的ではあるものの、この本は第一級だわ」
光の言葉にアリスが賛成した。
アリスが雫を見ると、雫は思案している。
「私が先ほど述べた事は、推論の域を出ない。この事件の厄介なところは、問題の『時』を直接観察できない事だ。今は安定しているのだから、手を出すのが良いかを早急に決めるのは避けたい」
慎重ね。アリスは思った。
雫でさえ、手に余る巫術の技。それを作ったもの、目的、確かに捉え所が無いわ。下手に弄ってどんな影響が出るか、なんて考えたら長考したくなるわよね。
「お前達、どうしてここに入ってきた」
思案に沈む雫の脳裏に、不意にその言葉が蘇った。
混線した時の隠し部屋に入った光、青樹、香の三人に、部屋にいた人物が放った言葉だ。
「もしかしたら、まだ、事は終わってないのかも知れぬ」
雫は口をひき結んだ。
「光、混線した時の部屋で出会った人物は『お前達、どうしてここに入ってきた』と言ったのだな」
雫は光に問うた。
「はい、雫さん。確かに」
「妙だと思わぬか?」
「え」
光は己の心の内側を覗き込むように視線を下に向けた。
「あ!」
何かが弾けて、気がついた。そして自分の上げた声に光は驚いた。
雫はその考えを肯定するように、光に頷いて見せた。
「そうだ。もしその人物が香の父君、母君であれば、お前達、では無く、香、と呼んだ筈」
アリスは背筋に弱いが嫌な感じの電気が流れるような痺れを感じた。
「え〜っと、それってつまり」
わざと巫山戯て言うが、言葉は震えていた。
雫の声が舞舞台に響いた。
「張本人だ、おそらく。しかも」
光も頷いた。
「ブレてはいても、香ちゃんのお父さんらしい人も混ざっていました。だから、お前達、はおかしいんです。という事は」
雫が言う。
「その人物が言う、お前達とは、その時の光達の事では無く、別の時の誰かの事だ」
もう、その場にいる全員が理解した。
「いずれ、私たちの誰かが、あの混線した時の部屋に行くのだ」
雫の言葉が終わった後の静寂は、場の空気を張り詰めさせた。
■雫の占い
「その場に行く鍵はその本」
扇で本を示す。
「ソロモンの鍵」
雫は扇を開いて床に置くと、柏手を打つ。
扇は自然と立ち上がり、くるくると回る。そしてパタリ、と倒れた。
「行くのは」
固唾を飲み込む音が聞こえる程の静寂の後、雫は言った。
「光、六と仄」
雫は灯を見た。
「そして灯」
灯は真っ直ぐに雫を見ると、しっかりと首肯した。
「承知いたしました」
玄雨神社舞舞台前の境内に、光、六、灯の三人が並んだ。
舞舞台から、雫が声をかける。
「策は、このようになる」
雫は静かに言った。
「隠し部屋に行き、その人物が立っていた位置から見える場所で、その本『ソロモンの鍵』に三人の気脈を流す。おそらくそれで本が起動し、混線した時の部屋の隠し部屋に移動する。正確には、混線した時の部屋と少しずれた時の線だろう」
「そうか。同じ時の線だったら、過去の光ちゃん達が三人の姿を見てるものね」
アリスが腑に落ちた様子で言う。
雫はアリスに向かって首肯すると「ただ」と言い添えた。
「実際にどこに出るかは、確定している訳ではない。本の起動の前に、アリアドネの糸を結び帰りの道標とするよう」
三人は頷いた。
「それと、移動先での『空の穴』は緊急事態以外、禁止だ。『時渡り』は帰る時以外は、使わぬよう」
「移動はワープで行います」
六が答えた。
本は灯が持っている。灯、六、光の順に並び、手を繋ぐと、三人の姿は消えた。
それを見届けると、雫は舞舞台下手袖に戻った。
そして言った。
「こちらでも怪異が起こるかも知れぬ」
雫の言葉に残った全員、アリス、アオイ、アカネの三人がギクリとした。
「混線した時の部屋に居たのは、言わば張本人の『影』」
真顔になり、目を細めたアリスは理解した。
「雫の策を読んで、本体がこちらに来る可能性がある訳ね」
流石だ。アリス。というように雫はアリスに頷いた。
「そこで、こちらの隠し球が」
そう言うと雫はアカネを見た。
アカネは急に自分に視線が集まり、思わずキョトンとしてしまう。
「おそらく相手は巫術を使う。しかも私よりも高度な巫術。力比べになるとこちらは不利だ。そこで、竜の女神の」
アカネは、あ!と言う顔をした。理解したのだ。
「電磁波!」
「そうだ。気脈、霊脈、そして同時に電磁波を使えば、虚をつくことができるかも知れぬ」
アリスは気がついた。雫があまり乗り気でない、と言うか、心が踊っていない事に。
「雫、何か心配事?」
「見ぬかれたか」
「雫の事だったら何だってお見通しよ。で、何?」
雫はアリスの矛盾するセリフには突っ込まず、静かに言った。
「此度の一件。本当は謎を解くのが良いか心が定まらなかった。本来なら、時の守神の予言が外れた段階で考え始めていたのだが、気乗りしなかった」
時の守神、つまり、仄の「光と灯は混ざり合い、一つになる」と言う予言。
「如何に時を渡れようと、天変地異に争えようと、逆らえぬ運命がある事は知っている」
それでも、雫が動いたのは。
「光ちゃんが弟の青樹くん、そして友だちの香りちゃんの事を案じているからね」
うん、と言うように、雫は頷く。
「それが最後の一押しになった」
そして、雫は空を見上げると言った。
「如何なる怪異の本体であれ、私は話し合いたいと願っている」
■混線した時の隠し部屋へ
灯、六、光の三人は、隠し部屋前の廊下に姿を現した。
「扉を開けないとね」
光が言った。
「お姉ちゃん、外側から壊れた扉の駆動部、風で動かせない?」
光は、自分は気脈式電算術でセキュリティーを解除して、灯に駆動部を動かしてもらう、という事を考えたのだ。
「それよりも、良い方法があります」
六が言葉を投げかけた。
「ワープで入るのは、なんとなく不味い気がするんです」
光は六の考えを先回りして言ったが、自信なさそうだった。
六は微笑むと言った。
「ええ。ワープで入ると以前と手順が変わって、本の起動後の移動先に変動が出る可能性があります。扉を開ける方法ですが、スキャンしたデータから、火災で数カ所配線が断線しているのと、電力供給が無いため、と分かりました」
光は、あ、という顔をした。
そして少し凹んだ。
お客様、コンセントを一度抜いて、もう一度さしてください。
そういう、パソコンが起動しない時のカスタマーサポートが言う、コンセントが抜けているかも知れないけど、顧客のプライドを傷つけない言い方が何故か思い出された。
電気、来てなかったんだ〜。
光は心の中で頭を抱えてしゃがみ込んだ。
火事があったんだもの。そうだよね。なんで気づかなかったかなぁ、あたし。凹むなぁ。
そんな光の心の動きにお構いなく、六は言う。
「断線箇所は、一時的に私のナノマシンで接続して、電力は私の動力を変換して代用します」
光の肩を背伸びした灯がぽん、と叩いた。
「光、六が扉を再起動したら、後は」
「うん、お姉ちゃん。あたしが扉を開く」
灯は頷くと、優しく光に言った。
「機械の事は、六が一番詳しいのは当然」
光は小さく頷いた。
そうだよね。異星のAIのロボットみたいなものなんだから。機械に強くて当然。
そう思って、光は凹んだ気持ちを紛れさせた。
「起動します」
六が言うと、光は扉の凹みの箇所に手を置いて、心の中で囁いた。
開いて。
光の記憶の通り、隠し扉が開き、中の部屋が顕になった。
中は真っ暗だ。
光と灯は視野を、霊脈を見る方法に切り替えた。
六は、可視光線以外の情報で見ているようだった。
三人は注意深く、隠し部屋の中に入った。
やはりそこは、光の記憶通りの部屋だった。
扉が閉じていたためか、火災による破損はあまり無い。光は、焦げ臭い匂いを嗅いだ気がした。が、気のせいだと思い直した。火災から10年以上経っている。いくら扉が閉じていて、密閉されているとはいえ、気づく程臭気が残っている筈は無い。
あの人物はベッドの奥に居た。
光は記憶を蘇らせて、人物の位置を思い出した。
「ベッドの向こう側に」
そう言って言葉に困った。
なんて言えば良いんだろう。
灯が言った。
「虹色の怪人で、良いんじゃない?」
虹色の気脈を放つ怪しい人影。確かに。
灯の言葉に光は納得した。
「そのベッドの向こうに虹色の怪人が居たの。だから、私たちもベッドの向こう側のこの辺に」
光は指差して、虹色の怪人の位置を示し、その後、自分達の移動先の位置を示した。
灯と六は頷くと、先に歩く光の後をついて行く。
その場所に着く。
光は小さく舞うと、アリアドネの糸を作り出し、片方の端を隠し扉の外へ、もう片方を巫女装束の袴を縛る紐に結んだ。
灯はそれを見届けると、本を三人の真ん中になるように持ち上げ、告げた。
「始めましょう」
三人は顔を見合わせた。
光と六は本に手をかざすと、灯に頷いて合図を送った。
三人の気脈が本、「ソロモンの鍵」に注がれる。
しかし、変化は無い。
何も起こらない?
と、光が思い始めた途端。
低い地響きのような振動が始まり、それが収まったと同時に部屋が一瞬眩く輝いた。
そして。
目の間に、虹色の怪人が居た。
時の線を移ったのだ。
虹色の怪人は、言う。
「お前達、どうしてここに入ってきた」
光はその時気がついた。部屋全体が揺らめいているのに。自分達のいる場所が、あの隠し部屋とは似ているが異なっている場所だという事に。