月の十二使徒 ―自作単語集を使用して実際に小説を書いてみる 二つ名編―
自作エッセイ(という名の単語集)の熟語を実際に使用して小説を書きました。
ネタ元は後書きに記載。
ノコリビのルウは、幼なじみのウルと共に『月の十二使徒』と呼ばれる凄腕の十二人を探していた。
『月の十二使徒』が現れたのは去年の大晦日、ルウとウルが暮らしていた残ノ国の王都であった。夜空に輝く月、そして星々の残滓で暮らしていた残ノ国にとって、突如現れた十二の月は眩しすぎた。国はあっという間に立ち行かぬようになり、今ではノコリビトと呼ばれる元国民が数少なく諸国を彷徨いている。
ルウたちもそのノコリビトの一人として旅をしていたが、住む場所を探すなかで『月の十二使徒』と戦うという事態があった。敵はなんとか退けたものの、『月の十二使徒』の目的を知った二人はかの十二人を倒すため、残ノ国の残り火として最後まで戦うことを決めたのだった。
「夢見月のヤヨイの言葉、覚えてる?」
「『序列がすべてではない。頂点こそが我らが祖』だったか?」
ルウは頷いた。
つい先月撃破した『月の十二使徒』の三人目、夢見月のヤヨイと名乗った女性は不思議な人物だった。
彼女は残ノ国の民族衣装を身にまとい、伝説で謳われる魔法の力を操った。
見たこともない球体から魔法の力が迸り、ルウはその隙間をかいくぐる必要があった。
こちらも残ノ国に残されていた星の力を源にして戦う機器を手に立ち向かったが、彼女の言葉の真意は分からぬままであった。
「ねえ、アックス。序列って何だっけ?」
『ピピピー。検索結果を表示。序列【ジョ-レツ】①順序を追って並ぶこと。②順序。次第。またのご利用をお待ちしております。ピッ!』
「うーん、やっぱりよく分からないね。頂点っていうのは、『月の十二使徒』の一番偉い人のことだと思うんだけど」
「もしくは一番強い人か。我らの祖ねえ……月の使徒にも母がいるってこと?」
『ピピッ、我らが祖の検索結果が見つかりません。条件を変更してください。ピッ!』
アックスは残ノ国で使われていた機械の一つで、星の力を元にして動く。
正式名称は、辞書内蔵児童学習用星油源機器Ax。
胸には開閉式のキーボードが仕込まれており、顔に当たる部分にはモニターがある。
モニターには検索した言葉や意味が出たり、ときおり無意味に顔文字が出たりする。
元々はウルの家で使っていたのだが、『月の十二使徒』の出現と共に原動力を失い動かなくなっていた。
そんなアックスが今起動しているのは、ルウたちの活躍によって『月の十二使徒』の力が弱まったせいだ。
十二あった月も三つが陰りを見せ、再びアックスが星の残滓を取り入れられるようになったのだろう。
ルウの扱う攻撃型星油源機器Rodことロッドも、月の使徒を倒すたびに強さを増している。
本来の力が戻ってきている証拠だった。
「このまま『月の十二使徒』を倒し続ければ、いつか残ノ国は元通りになるのかな」
「どうなんだろう。僕たちみたいに月の使徒を倒している人の噂も聞かないし、やっぱり大国は初めから残ノ国を見捨てるつもりだったんだよ」
「やめて! ノコリビトのほとんどは大国にいるって話じゃない。もはや残ノ国をうろついているのは、私たちと……月の使徒だけなのよ」
『ピピピピピ! 登録されていない人体の反応を確認。不審者を発見しました。殲滅モードに移行しますか? ピー』
ふいの警告音。
アックスによってもたらされた新たな情報に、ルウとウルは仲たがいをやめた。
そうだった。こんなところで争っている場合じゃない。
ここは残ノ国があった場所。そして今は、月の使徒が徘徊する魔の領域だ。
「誰だ!」
ウルの鋭い誰何の声。敵がどこから出てきてもいいように、視線がぐるりと一周する。
それをあざ笑うかのように不審者は空から降ってきた。
昼間だというのに眩い光、『月の十二使徒』の出現だ。
「月の使徒!? アックス、下がって!」
『ピッ! スリープモードに移行します……』
「空を、飛んでる……! これが神に仕える人間だって言うのか!?」
「その驚嘆、実に心地よい。そうとも。我ら月の十二使徒は神の使者。貴様らのように地上で生きる人間とは違うのだよ」
宙に浮いていた男は、ゆっくりと地上に降り立った。
ウルは両手を前に出し、ルウはロッドを持って警戒する。
今まで見た月の使徒とはずいぶん違ったが――まず問答無用で襲い掛かってこないところとか、それでも警戒するに越したことはなかった。
何故ならば、そいつには余裕があった。
自分なら必ずこの小童どもを倒せるという自信があった。
ルウの中の何かが、こいつは強敵だと告げていた。
「ヤヨイを倒したそうだな。自らの祖すら屠るその心意気。我らは実に驚嘆した」
「また『祖』? いい加減にして」
「まさかあの女が残ノ国を建立したとでも言う気か!?」
「ヤヨイが? あの新入りはそんな大層なことはしていない。ヤヨイはおまえたちが伝説と呼ぶ古代の残ノ国の生き残りだ。残ノ国で生まれた者もまた、神の意志に同意した。残ノ国を滅ぼすことは、もはや当然の事実として受け入れられていたのだよ」
思いがけずヤヨイと残ノ国の過去を知ったルウたちは戸惑う。
しかし、伝説に思いを馳せることは、目の前の存在が許さなかった。
「今までは、そうだったとでも言いたげね」
「そうだ。我らは永遠にそうあるつもりだった。だが、おまえたちという異分子が現れたせいで神の意志を疑う者が出てきている」
「そんなの、どうだっていいわ。この国から出て行ってくれば」
ルウが啖呵を切ったが、男は嫣然と笑うだけだった。
分からず屋の子どもに接するような態度が癪に障る。
「まだ名を名乗っていなかったな。我は暮新月のムツキ。これ以上の狼藉は神への叛意とみなす。それでもよいなら我と戦うがよい。さあ、どうする?」
ウルは思わずルウに振り返った。
ルウの瞳はいつも通り澄んでいて、それでいて星の光のように瞬いていた。
それが答えか。ウルは再び両手を前に突き出して叫んだ。
「誰が相手だろうと構うもんか! 僕は、僕の故郷を燃やした奴を許さない!」
「そうね。私を止める家族はもういない。暮新月のムツキ、覚悟しなさい!」
それが合図だった。星の光と月の光が真っ向からぶつかり合う。
ウルはルウを守ることだけに意識を回し、無の表情になる。
ルウはウルを盾に、月の使徒の攻撃をかわしながらロッドを振るう。
【激しい戦闘の様子をご想像ください】
ルウは必死の思いでロッドを投げた。
いっそ破れかぶれの攻撃だった。
これで倒れないのであれば、それは自分たちが死ぬ番なのだと思った。
結末を見ていたのはウルだけだった。
彼はムツキの攻撃のほとんどを無効化しながら、ルウの手から離れたロッドが飛んでいくのを半ば呆然と見ていた。何故武器を手放したのだと、信じられない思いで。
ロッドは美しい放射線を描きながら、細かな火花を散らしていた。
ロッドの安全機能が働いたのだ、と頭の中の知識が言った。
どういうことなのかしっかり理解する間もなく、ロッドは激しく光り大きな音を立てた。
「なんだ子どもだましでは我は――」
「アックス、殲滅モード起動!」
『ピピッ! 殲滅モードを開始します。周囲の皆さんはアックスから離れ、安全を確保してください。……ピッ! ジャースティス……トルネードォオオオオ!』
最後に、正義は勝つ! という若い男の声が聞こえ、辺りは静かになった。
何秒待っても、ムツキの攻撃は再開されない。
アックスの無事を確認しついでにムツキがいた場所に行くと、そこには地面に固定されたロッドとムツキ、それから自慢気な顔文字を浮かべたアックスがいた。
「倒したの? ……アックスが」
「倒したんだよ、アックスが!」
喜びに沸く二人だったが、二人以外の物音が聞こえ、ハッと向き直る。
ロッドによって貫かれ、地面と合体したムツキはほど遠くないうちに息絶えるだろう。
しかし、今は確かに息がある。
さらに今も消えぬムツキの余裕っぷりは、嫌な予感がさせられた。
「ふ、我も敗れたか。どうせ神楽月を初めに倒した連中だ、勝てる訳がないとは思っていたが……どこまでも予想のつかぬ子どもたちだ。だがしかし、覚えておくがいい」
「……なに?」
「おまえたちはいずれ月の頂きに辿り着くだろう。そこで待っているのは、予想もしない者だ。ヤヨイとは違う本物の祖に逆い、神に盾突く勇気、実に驚嘆する。だが、私の序列は後ろから数えた方が早いぐらいだ。そのことを心して行くがいい、ノコリビの子どもたちよ」
そう言い残すとムツキは息を引き取った。
神の使者でも死ぬことはある、それを知ったルウはムツキを土の下に埋めた。
空で暮らす月の民には酷い仕打ちかもしれないが、ルウなりに彼の死を悼んだのだ。
一方、ロッドとアックスを回収したウルはすぐにでもここを立つつもりで準備を進めていた。
これで、四人目。
ロッドとアックスの機能もだいぶ戻ってきている。
この調子で行けば、ルウとウルが成人になるまでには月の使徒を一掃できるだろう。
だがその先は? どうやったら残ノ国は戻ってくる?
無くなった家は? 亡くなったルウの家族は? 燃えたウルの家族は?
戦闘は終わったばかりだというのに、ウルの瞳には星が燃えていた。
URL:https://ncode.syosetu.com/n1545eo/
エッセイ:単語じてん―和風な名前から、二つ名、スキル名まで―
ネタ元:『月』および『番外編:二字熟語以外24 月』
お題:「陰暦○月の異称」を使用して和風ファンタジーを書く
2021.01.09 一部展開を変更。後半が消えていたので思い出して修正。
活動報告にあとがき的な裏話あり。
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/273207/blogkey/2723063/