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お出かけ

「ふんふんふふーん!お出かけ、お出かけ~!」


 村の中を二人並んで歩く、アナは上機嫌だ。

 彼女はどこかで拾ってきたのか手ごろな枝をその手に握り、それを振り回しながら歩いている。

 しかしその横を歩くクルスはというと、初めて見る村の様子が気になるようで、きょろきょろと周りを見回すのに忙しく、それどころではないといった様子だった。


「思ってたより森の中なんだな・・・こんな所に人が暮らしているなんて、信じられないな・・・」

「?」


 周りを見渡せば、簡易な建物が幾つか続いたその先にはもう森が広がっている。

 そんな場所に人が住んでいることが、とてもではないが信じられないとクルスは思わず呟いていた。

 そんな彼の事を、アナは不思議そうな表情で見上げていた。


「わん!」


 そんな彼らの足元で、黒い塊が飛び跳ねている。

 それはアナの後ろをトコトコとついて来ていた黒い狼、レオだろう。

 彼は嬉しそうに一声吠えると、近くに生えていた木の根元へと駆けていく。


「がふっがふっ」

「っ!?レオ、めっ!!」


 彼はどうやらその根元に落ちていた木の実を食べたかったようで、そこに駆け寄っては一心不乱にそれへと食らいついている。

 しかしそんな彼の姿を目にしたアナは、慌ててそれからレオを引き離すと、精一杯厳しい表情で彼を叱りつけていた。


「アナ?一体どうしたんだい?それぐらい別に・・・」

「駄目なの!これ、カプリコの実!食べると、うー!!ってなるの!」


 レオの行為はお行儀が悪かったかもしれないが、そこまで叱りつけるほどのものとは思えない。

 それを不思議に思い取り成そうとするクルスに、アナはレオから奪い取った赤くその天辺に細く尖った葉の付けた木の実を示して見せている。

 そうして唸り声を上げながら、何やら手足を暴れさせた彼女はどうやら、その木の実な何らかの毒性を持っていると言いたいようだった。


「あら、アナちゃんじゃない?どうしたの、そんな声上げて?あら、そちらの方は・・・?」

「あ、えっとですね・・・僕はこの子に拾われた―――」


 その手足を振り回しながら、大きな声を上げるアルビノの少女の姿は、周りからの目を自然と引き付ける。

 そのためなのか、彼女の姿を見つけた人の良さそうなおばさんが、ニコニコとした笑顔を浮かべながら声を掛けてくる。

 しかしそんなおばさんの表情も、隣に佇む見知らぬ少年の姿が目に映れば怪訝なものへと変わる。

 それも当然だろう、このような人里離れた集落で見知らぬ人の姿など見かけることなど、ほとんどない筈なのだから。

 そんなおばさんの様子に、クルスは慌てて自らの立場を明かそうとする。


「ちんちん!!」


 しかしそんな気遣いのスピードも、無邪気の速さには敵わない。

 アナが無邪気な笑顔で叫んだ言葉に、その場の空気は急速に凍りついてしまっていた。


「ちんちん・・・?」

「いや、あのですね!!これは違いまして!!あの、僕クルス・ジュウジーと申します!!この子に助けられてこの村にやって来ましてでして!そう、今はこの子の両親に面倒を見てくれとお願いされてですね、こうして一緒に過ごしている訳で!!何にもやましいことは、ありませんとも!!えぇ、それはもう絶対に!」


 アナの無邪気な言葉を耳にすれば、それが指し示した方向にいる男に疑いの目を向けたくもなる。

 あからさまなほどに怪訝な表情をこちらへと向けるおばさんに、クルスは慌ててそれを誤魔化すような大声を張り上げていた。


「はぁ、そうですか。ガンディさんが・・・アナちゃん、この人が言ってる事は本当?」


 クルスが声高に主張した言葉は筋が通ったものであったが、閉鎖的な村では見知らぬ人間の主張などに説得力が帯びる事はない。

 その人の良さそうなおばさんも、彼の主張にある程度の納得する仕草を見せていたが、その最後の部分はアナ自身へと確かめようとしていた。


「ん!ちんち―――」

「クルスね!クルス・ジュウジー!!」


 それに対するアナの答えは、単純明快だ。

 しかし嬉しそうな笑顔で彼女が告げようとした言葉を、クルスは慌てて遮っていた。

 それもその筈だろう。

 それをそのまま言わせてしまえば、元の木阿弥になってしまうのだから。


「むぅ・・・クルス、アナと遊ぶ」

「そう・・・良かったわね、アナちゃん。でも気をつけるのよ、大事な身体なんだから」


 それを遮られてしまったアナは、心底不満そうにその赤みがかった頬を膨らませていた。

 それでも必死に叫んだクルスの意図はちゃんと伝わったのか、彼女はその呼び名を改めている。

 そんな彼女に優しく微笑んだおばさんは、彼女の頭をそっと撫でると、言い聞かせるように囁く。

 大事な身体なんだから、と。


(・・・大事な身体だって?一体、何の話だ?)


 それは子供の安全を心配する大人の態度としては、それほど不自然なものではないかもしれない。

 しかしその言い回しは、流石に過剰すぎるように感じてしまう。

 それを疑問に感じたクルスがそれを尋ねる間もなく、人の良さそうなおばさんは用事は済んだとこの場を離れていってしまう。

 その後には、何だか得もいわれぬ不安を抱えたクルスと、元気よくその手を振り回しているアナだけが残されていた。

 ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

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