ミミック
・ミミックとは?
皆さんはミミックと呼ばれる箱型の生き物をご存知だろうか?
迷宮、ダンジョン、洞窟などに生息し、自らに近寄った者に襲い掛かる恐るべき魔物。
外見は宝箱や木箱に酷似しており、中身に興味を持たせることで対象を引き寄せる。
しかし実際の中身は・・・。
そんな凶暴極まりない彼らのことを、我々はどれほど理解しているだろうか?
なぜ彼らは宝箱に擬態するようになったのか?
どのように繁殖しているのか?
その大半は謎に包まれており、生物としての理解を逸脱した存在の様に見える。
人を襲うことのみに特化したその生態はいったいどのようなものなのか?
・ミミックの定義
宝箱、壺、タンス、机、タル等、中に何かを入れることが出来る容器、家具に擬態または潜んで、近づいた者、開けた者に襲い掛かるモンスターの総称。
一見リビングアーマーなどの動く無機物の様に見えるが、中身があることが大きな違い。
ミミックには大きく分けて2種類おり、一つは自身の外殻が入れ物のようになっている擬態型。
もう一つは自身の体を入れ物に収め、近づいた敵に襲い掛かるいわばヤドカリ型。
ヤドカリ型は近年見つかったばかりのタイプであり、現在情報がとても少ない。
・ミミックの身体について
自身を隠す殻、または入れ物と、その中身の二つに分けられる。
擬態型は魔法生物、呪いとしての側面が強い非生物型の場合と、開けると生々しい口内の様になっていて牙と舌が見える生物型の場合がある。
非生物型のミミックは倒した場合はそのまま中身が消えてしまうこともある。その場合のミミックは中身がどうなっているのかまったくの不明であるが、多くは消える前の中身に顔のようなものが見える。
生物型にはカニの様な足がある種、人が箱を被っているような異頭種、箱の中から女の子のような形の誘引突起を出して誘い込む偽人種なども最近になって発見されている。
共通として外殻は主に箱に擬態していることが多く、周囲にある箱に精巧に模した外見をしており、本来の箱と違いその強度はとても高く、縁に強靭な牙を持ち咬む力がとても強い。
内部には自身のサイズ以上の巨大な空間が存在しているため、明らかに自身の体積を超える獲物も丸呑みすることが出来る。
一方のヤドカリ型はしっかり中身が存在する。
箱から箱、隙間から隙間へと体の成長に合わせて潜む場所を変えるため、手ごろなサイズの入れ物が無い場合はとてもレアな剥き出しのミミックが見られる。
場合によってはリビングアーマーなどの中身の無い存在と共生する、なんてこともあるかもしれない。
本体としての外殻は柔らかくて柔軟。暗色で暗がりでは発見しづらい色をしていると思われる。
・ミミックの擬態
ミミック最大の特徴といえば、その特殊な擬態、隠密能力である。
箱、壺、タンスなど、明らかに人が触る、開ける、近づく物へ擬態しているのがわかる。
そして、遠くからはおろか至近距離でも気づかれないほどの擬態っぷりは職人泣かせの名人芸といったところだろうか。
事実、ミミックの最大の価値は体内に溜め込んだ貴金属類ではなくその外殻であると言っても過言ではない。
しかし、豪華な外殻を持つミミックというのはとても強く、外殻を無傷で手に入れる事がどれほど難しいかは語るまでも無いことだが。
・ミミックの食事と狩り
彼らはその擬態能力によって近づいてきた獲物を一瞬で丸呑み、もしくは即死魔法、強靭な牙によって一撃で仕留めるのを基本的な狩猟スタイルとしている。
そのため、多くは人の活動拠点の近くであったり、擬態している物がそこにあっておかしくない場所で待ち構える。
主食は擬態能力からわかるように人、または知的生命体。
衣服や武器、肉や骨などの一切を考慮せずに獲物を丸呑みにし、飲み込んだ金属や骨は外殻と牙の強化に、肉や消化できるものは栄養にまわされる。
そのため長い年月を生きたミミックほど硬く、そして豪華な見た目になる。同時に、口を開けた姿が凶悪なものにもなる。
・ミミックの繁殖
非生物型のミミックは呪い等によって自然発生するトラップの様なもの、と捉えることが出来る。そのため、自我を持ったミミックならば自身の呪いを移して差し木の様に増えることが出来ると思われる。
生物型のミミックの場合は雄の生き物を丸呑みして、体内で精を取り出してそれを用いて繁殖しているのではないかと思われる。
特に偽人型のミミックにその傾向が強く見られているためそうだと思われているが、実際のところ各型それぞれ個体による差が激しすぎるためどれも決定打となる繁殖方法は見つかっていない。
ヤドカリ型はカニと同じ。
・ミミックの進化
我々の知る限り、ミミックは進化しても見た目が変化しない。
進化によって得るのはより強力な一撃を、より相手に気づかれないように、よりすばやく叩き込むという暗殺力と、自身の外殻の硬さのみである。
これは、あえて外見から自身の強さを測れないようにするため・・・ではなく、純粋に大きくなるメリットが無いからである。むしろ宝石箱のような小さな個体まで存在するのだから、彼らの擬態にかける熱意の高さは押して知るべし。
~~以下考察と蛇足~~
・ミミックの箱に対する執着
彼らの大半は宝箱の様に「中身に興味を惹かれる見た目」であることが多い。
しかし、これは一般的な生き物としてみると不可思議である。
そもそも、擬態するなら襲われない様に周囲に溶け込むべきだし、捕食対象を引き寄せるなら美味しそうな見た目になればいいだけである。
だが彼らは徹底的に、宝箱等の「価値のある物を格納する物」に擬態している。
中身の財宝へ擬態するのではなく、外側の箱への執着。
なぜ箱にそんなにこだわるのだろうか。
それは彼らの食事について考えればわかることだろう。
彼らは迷宮やダンジョンに潜み、近寄ってくる「人」を襲う。つまり、彼らにとっての食料は人なのである。
木の実を好む動物や、獣を狩る肉食性の魔物等が見向きもしない外見であり、知的生命体のみピンポイントに関心を惹くことができる見た目。
それを追い求めていった結果が「宝箱」という姿なのかも知れない。
そういう意味で見るのであれば、金貨に擬態した魔物や、美しい剣や鎧、金銀財宝に劣るとも勝らない見た目に擬態する魔物達の存在も、同様に納得できるというものである。
しかしここでもう一つ謎がある。
なぜ、人を襲うようになったのか?である。
・人を主な食料としている異常性
原則、生き物は自分が狩れる中で一番栄養価の高いものを好む。
中には何にでも襲い掛かる生き物も存在するが、基本的に狩りやすく、栄養価の高いものが捕食対象だ。
ではなぜ、人より明らかに弱いゴブリンや魚などではなく、ピンポイントで人を食べるようになったのだろうか?
人が多くいる地域で生き残り、逆にいない地域では淘汰された結果、人を食べるようになったか?
いいや、そんなことがまかり通るならもっと人食いに特化した種族がいてもいいはずだ。
ならば逆に、人くらいしか食べるものがなかったのか?
なるほど、確かに環境次第ではありえるかもしれない。
遺跡やダンジョンといった限定的な彼らの生存区域とも合致する。
つまり、ミミックが発生した地域の生態系において人が圧倒的に弱者であり、なおかつ狩りやすく、栄養価の高い存在だった、ということだ。
確かに今日我々は数多くの脅威にさらされている。魔物=人を襲う、という構図が成り立つほどに。
それから考えれば、確かに人は「魔物より弱い存在」である。
逆に考えてみれば、ミミックが魔物ではなく人を襲うのは、魔物を狩れるほど強くなかったから、ということでもある。
しかも攻め込んで人を狩れるほどの強さも無く、かといって奇襲できるほどすばやくもなかった。
あるのは擬態能力と、高い攻撃力のみ。若い固体は外殻も柔らかいのだから、発見されてしまえばゴブリンですら脅威だったのだろう。
外殻としての強度の確保でき、擬態して騙せる相手を騙すことができ、一撃で即死させられる距離まで寄って来る獲物。
なるほど、彼らからすれば確かに人間こそ理想の獲物に違いない。
以上でミミックについての考察を終えようと思う。
かの生き物は謎が多く、そしてその見た目ゆえか興味の尽きない存在であるが、逆に言えばいくら考えても尽きることが無いということでもある。
これ以上は今後新たなミミックが現れるか、新しい見方が出来るまで待とうと思う。
これを読んで少しでもミミックの面白さに気づいていただければ幸いである。