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一本の電話  作者: 小石沢英一
7/7

絶望

 母親はすぐに着替えた。主人には息子がいる事は告げていたが、病院に行くかは逡巡していた。高校生の頃から警察に世話になり始め、二十歳になると手をつけられなくなり、刑務所行きになった。


 その頃に主人と出会ったので、息子に面会にも行かず、疎遠になっていた。


 今さら行く理由もない。と、思っていた。


「行ってきなさい」


 と、主人は背中を押してくれた。


 駅に向かったが、電車でどう行ったらいいかわからない事を途中で気がついた。


 タクシーに乗ろうと、道路に出た。


 焦っていた。


 車が通るたびに無駄に手を上げるが、乗車中ばかりだった。


 タクシーでない車にまで手を上げ停めようとした。


 ようやくタクシーが停まった。

 

 正常な意識ならすぐに停められたと、思うだろうが、今は違った。長い時間を費やしたように感じるのだ。


 タクシーに乗って病院名を言うと、運転手はすぐに理解し、アクセルを踏んだ。


 正面の入り口は閉まっていた。当然である。夜間口から入ると、受付に人がいた。


「久留田啓太の母です」


 受付の人はすぐに理解して、病室を案内した。


 どこをどう行ったか記憶にないが、気がつくと、宿直の医師が目の前にいた。


「お母さんですね?」


 医師は何度も問いかけたようだ。


「はい、それで、息子は……」


「とても危険な状態です。頭を強く打っていて昏睡状態です」


「そんなに深刻ですか」


「朝まで持つか」


 母親は涙があふれた。


 すぐに病室に行くと、啓太はいた。顔面は包帯を巻かれ、口には管が通っていた。


 母親が呼びかけるが、反応は全くなかった。手も握ったが希望さえ持てなかった。


 絶望が頭をよぎった。


 記憶は途切れた。カーテンからの日差しで目を覚ました。


 母親は啓太の顔を見るが相変わらず眠っていた。いや、生きているのかさえ疑わしく思えた。


「啓太……」


 母親が呼び起こせるのではないかと思ったが、やはり無反応だった。


 医師が朝まで持つかと言われたことが脳裏をよぎった。


 母親は啓太の手を握った。


「えっ?」


 微かに啓太の指が動いたように感じた。


「啓太」


 母親が声をかけると、間違いなく、わずかであるが指が動いた。曙光しょこうが見えはじめ、涙が止まらなくなった。


了 

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