赤信号
啓太はまだ母親に会っていなかった。
事故に巻き込まれ、会ってはいけないのではないかと、思い始めていた。母親の生活もある事だし、幸せならこのまま会わない方がいいのかもしれない。
心は揺れていた。忘れようと必死だった。
でも、会いに行く気はある。
今日も途中まで行って、止めた。
気がつけば終電だったので、繁華街で降りた。
夜中でも繁華街はまばらに人がいる。
啓太はどこかの店に入るわけでもなく、ただ徘徊して時間をすごしていた。
ふと考えると、行動が悪循環になるのはいつもの事だった。刑務所にまで行き、反省し真っ当な人生を歩む計画が初っぱなから挫かれた。
今までならここで挫けていた。しかし、今は違う。
母親に会って謝りたいのだ。それだけのことが出来なかった。
道路に目を向けると、夜なので交通量も少なく、スピードも速いのだ。
渡るつもりはなかったが信号が赤だったので止まった。
啓太の右横から人影が映った。
女性だった。二十代前半で、化粧も濃く、しかも千鳥足だ。
「お姉さん、危ないですよ」
女性は道路にはみ出していたので注意した。
「うるさい!」
と、女性は言って、啓太を睨んだ。
「赤だよ」
女性は啓太を無視して、車道に飛び出した。
啓太は余計とは思ったが、危ないので女性の腕を引っ張った。
「何するんだ!」
女性を歩道に戻した。安全な場所に二人はいる。女性は不満らしく、口を尖らしていた。
啓太は女性の腕を放し、歩道側の信号を確認するとまだ赤だった。
「わあ!」
啓太は女性に背中を押された。不意だったので、道路まで飛び出してしまった。
車は勢いよく走っていた。目の前に啓太が現れたので急ブレーキを踏んだ。
衝突音が響いた。
啓太の身体は宙に舞った。