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一本の電話  作者: 小石沢英一
3/7

利久の所在

啓太の心配は的中した。


 利久が警察に捕まった。何気にあのコンビニに行って、店員が気がついたのだ。


 防犯カメラに利久が万引きする瞬間の映像が残っていた。証拠があるので、言い逃れは出来ない状態だった。


 啓太も共犯ということになって警察署に呼ばれた。


 狭い空間に机と椅子がある。殺風景だ。ここにいるだけで、背筋が寒くなる。


 ノーネクタイの男性刑事が啓太の向かいに座った。頭髪に白いものが目立っている。四十代後半といったところか。一重にノッペリとした顔立ちが、冷徹さが伝わる。


「今回のことは時田君から聞いたよ」


 刑事は物腰を柔らかいが、視線は鋭くそれだけで威圧される。


「……」


「時田君が主導で、君はそれに従っただけって言ってたよ。まあ、コンビニから盗んだ物もおにぎりぐらいだし、深く反省しているようだし、君の行動も褒められたものじゃないが……」


「逮捕とかされるんですか?」


 刑事は笑った。


「初犯だし、まだ未成年といこともあるし、逮捕はないよ」


「良かった……」


「だけど、今回は大目に見るけど、二度目はこんなんじゃ済まされないからね」


「はい……」


 刑事は始末書を出した。


 啓太は署名して、親指で押印した。


 啓太は共犯ではないと主張出来なかった。空気を読んだと、言えば格好いいが、罪が軽いと言う事なので、揉める時間を費やすほどの事でもないからだ。

 

 母親が迎えに来ていた。


 啓太は本意でない結果に満足はしていなかったが、警察署から解放されて安堵した。


 母親は悲しそうにうつむいているだけだった。


 啓太がスタスタと歩く後ろを母親は忍ぶようについて来た。もちろん無言だった。


 自宅に戻っても会話もなかった。森閑として何か話せる状態でもなかった。


 夜は眠れず、朝になった。朝食を抜いて早めに学校に行った。


 利久は欠席だった。


 啓太は一人で過ごした。クラスメイトとは関わらなかった。利久からは連絡もなかった。


 翌日になって、利久が高校を辞めた事を知った。


 啓太は急に気が重くなった。


「利久ってムショか?」


 クラスメイトが啓太にたずねた。


「違うよ」


「聞いた話だと重罪を犯して、もう一生刑務所暮らしらしいな」


「違うよ」


「じゃあ、今、どこにいるの?」


「知らないよ」


「本当は知ってんだろう。口止めされたか?」


「そんなことはないよ」


「お前ら仲が良かったからな」


 と、クラスメイトたちは冗談ぽかったので、啓太はうやむやにしてごまかした。


 だが、昼食後に異変が起こった。


 一人のクラスメイトが啓太をチラチラと見ながら朝、からんできたクラスメイトと会話している。


 何かあると、思った。


「聞いたぞ」


 と、吹聴していたクラスメイトが啓太のそばに寄って来た。


「何?」


 と、啓太は嫌な予感がしながらもとぼけた。


「利久が学校を辞めた理由を知ってんだ!」


「へぇ」


 と、啓太は平然としていたが、内心は心をかき乱すほど煮えくり返っていた。


「万引きしたらしいな」


「そうなの……」


 啓太は焦った。利久の情報がもう知れ渡っているからだ。


「コンビニで強盗をやったんだってな」


「……」


「一万円くらいらしいな」


「知らないよ……」


 啓太の声は小さくなっていた。


「防犯カメラにバッチリ写っていたらしいな」


「……」


「それですぐ逮捕されて、今頃、刑務所か?」


「そんなのデタラメだよ」


「啓太、知ってんだろう?」


「強盗なんて……」


「刑務所じゃ、学校に来られないな」


「刑務所じゃない!」


「やっぱり知ってんじゃないか」


「知らないよ。そんなのガセネタだよ」


「ガセネタじゃないよ。ちゃんとしたところから聞いた話だよ」


「間違っている」


「俺の母親はコンビニで働いているんだよ。知ってたか?」


「知らん……」


「そこで聞いたんだから、間違いないよ。お前、さっきからとぼけているけど、知ってんだろう?」


「今、初めて聞いたよ」


「またまた、隠すなよ!」


「隠してないよ」


「お前も利久と一緒に強盗したんだろ」


「それは……」


「ほら、反論出来ないな」


「強盗なんてしてないよ」


 気がつけば啓太の周囲にクラスメイトたちがいた。三百六十度、どこを見てもすげさんだ表情しか見当たらない。


 強盗ではない。


 逮捕もない。


 間違った情報だけが一人歩きし、啓太を圧迫した。


 もう、教室にいられなかった。

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