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一本の電話  作者: 小石沢英一
2/7

コンビニ

「つまんねーな」


 と、時田利久ときたりくは言った。


「同感」


 啓太もあいづちを打った。


 二人とも高校二年生だった。


 今年同じクラスになり、利久が積極的に話しかけてきて、いつの間にか二人は意気投合した。


 考えている事も似ていたので、すぐに打ち解けた。卒業後の事は何も考えていない。クラスメイトが進学に勤しんでいるが、二人は他愛ない話で盛り上がっていた。


 ますますクラスでは浮いた存在になっていた。


 利久は兄がいたが、もう成人して実家を離れていた。両親と三人暮らしは息苦しくて、家には帰りたがらなかった。


 啓太は一人っ子で、父親を小学生の頃に亡くし、母は働いているので、夜中に帰宅するので昼間は家にはいなかった。


 勉強も運動も好きにはなれず、時間を持て余していた。


「面白いことを思いついた」


 言い出したのは利久だった。


「何だよ、面白い事って?」


「お前、何かないか?」


「そんなこと急に言われても、何もないよ」


「だよな」


「もったいぶんなよ」


「鬼ごっこしようか」


「はぁ? 二人でやるのか?」


「まぁ、二人だが……」


「そんなのつまらないよ」


「まあ、だまされたと思ってちょっとやろうぜ」


「そう、じゃあ、ジャンケン」


「いいよ。お前が逃げるんだが、その前に腹すいてないか?」


「すいてるよ」


「コンビニに行くか」


「金を持ってないぞ」


「いいから」


 利久に言われるまま近くのコンビニに向かった。


「お前、先に入って、店内を一周して、俺が入って来たら、出入り口の前で待っていろ。そこから鬼ごっこをスタートするから、捕まらないように逃げろ」


「何でコンビニ?」


「いいか、絶対に店内に入ったら俺を見るな。もちろん話かけることもするな」


「どういうこと?」


「そしらぬ振りをしろ。いいな」


「うん……」


 と、啓太は返事をしたが、理解はしていない。鬼ごっこと言えば公園でやるのが定番だ。なのにコンビニからスタートとは疑問に思った。


 すぐにコンビニに着くと、利久は外から店内を見回した。レジには女性店員がいた。


「ここじゃ、駄目だ」


 と、利久は言って歩きだしていた。


「どうして?」


「まあ、後でな」


 利久はもったいぶるように言うので、啓太は気になった。


「何で!」


 利久は無視した。


「ここがいい」


 二件目にたどり着くと、利久は開口一番に言った。


 啓太は一件目と二件目の違いがわからなかった。


「何が違うの?」


「まぁ、いいからここでやろう。さっきの注意点を忘れるなよ」


「ああ、忘れないよ」


「俺が合図したら逃げろ」


「逃げろって、どこに?」


「そうだな、逃げ切ってお前の家に行け」


「とにかく捕まるな」


 啓太は一人でコンビニに入った。捕まるなって言われ、悪い事しか想像出来なくなっていた。断る勇気もなく、利久に言われるままだ。店内をウロウロした。


 自動ドアが開き、入店音が流れた。利久が店内に入って来た。


 啓太は利久を見ないように、出入り口まで行った。自動ドアは開いた。


 ゆっくりと自動ドアを出た。


「泥棒!」


 と、利久が叫んだ。


 啓太はわけがわからず、後ろを振り返ると、三十代の男性店員が眉間にしわを寄せて、睨んでいた。


 男性店員はゆっくりとした足取りで向かって来る。両手には防犯用のボールを持っていた。


 啓太は恐怖を感じて、走りだしていた。


「こら、待て!」


 男性店員の剣幕が脳裏にこびりついていたので、啓太は止まらなかった。


 背後から怒号が聞こえる。


 捕まったら何をされるかわからない。必死に走った。


 

 啓太は自宅に戻った。額から汗が止まらない。心臓の鼓動も早いままだ。


 逃げ切れた。


 啓太は安堵して、その場に座り込んだ。


「何だ!」


 ズボンに塗料がこびりついていた。防犯用のボールに当たった記憶はない。必死だったので気がつかなかったのだ。


 ドンドンと玄関を叩く音が聞こえた。


 啓太は男性店員が追って来たのかと思い、息をひそめた。


「おーい、俺だよ」


 利久だった。とても明るい声で、啓太の心配を吹っ飛ばすのであった。


 ドアは勝手に開いた。


 啓太の前にはニッコリと頬を緩めている利久がいた。


「やあ」


 と、啓太が言うと、利久はケラケラと笑った。


「顔、真っ青だぞ」


 利久は笑うのを耐えていた。


「何がおかしいんだよ!」


 啓太はイラッとした。


「中に入るよ」


「これを見ろよ」


 啓太はズボンに塗料が付着したことを見せた。


「ずいぶん、派手にやったな」


 と、利久は他人事のように言い放った。


「どうすんだよ」


「まあ、これでも食うか?」


 利久は手に持っていたおにぎりを見せた。


「何だそれ」


「まだ、あるんだ」


 利久はポケットからおにぎりを出し、両手には四個持っていた。


「いらないよ」


「何だよ、せっかくお前の分までかっぱらってきたのに」


「えっ? もしかして……」


「そうだよ。お前が店員に追われているすきにコンビニからかっぱらったよ」


「犯罪じゃないか!」


 啓太は背筋が寒くなった。


「バレなければ大丈夫だよ」


 利久は呑気なことを言っていたので、啓太は怒りが込み上げてきた。


「バレたらどうすんだよ」


「そんなことは心配しなくていいよ」


「それにこのズボンの塗料はどうすんだよ!」


「洗えばいいじゃん」


「はあ?」


「とにかく、スリルがあって楽しかっただろう?」


「スリルも何も……あの店員に捕まっていたらどうすんだよ」


「ちょうど男の店員だったからたぶん追いかけるだろうって思って」


「何だそれ」


「女の店員だと、恐怖で追ってくるとは思えないからさ」


「それで二件目にしたのか」


「そうだよ」


「店員が追ってこなかったらどうしてたんだよ」


「それまでさ。別のコンビニにするつもりだった」


「信じられない」


「万が一捕まっても、お前は何も盗んでないから逆に店員が謝ることになるだろう」


「ああ……」


 利久は楽観的に考えていたが、啓太は納得出来なかった。


「心配すんな」


 利久が平然としていたので、啓太も楽観的に心変わりしていった。


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