訪問者
朝ごはんを堪能しながらゆっくり食べているともう既にディランは食べ終え、頬杖をつきながらこっちを見ていた。
「…どうしたの?」
「今日、事件が広まる手筈になっている。」
「……」
そっとスプーンを下ろす。なんとも言えない表情のディランに首を傾げる。
「だからどうしたの?」
「…」
「ディラン、私は怒りの感情以外抱いていないのよ、あの人達に」
「怒り?」
「えぇ、民を食い殺したこと。私は忘れない。…閉じ込められてたことはどうでもいいのよ、そういう運命だったんだって受け入れてたから…でも民を食い物にする…その行いだけは絶対に許してはならない」
精霊達は私に彼らの悲しみを届けた。…馬車に轢かれた子がいたという。その子はとてもいい子で精霊たちもお気に入りだったのだという。そして家族から大切に育てられた子。
私とは異なり望まれ祝福された子。彼は簡単に命を奪われ絶望する家族をあの人は冤罪をきせ処刑台に立たせ、その命を絶った。それを手伝い他人を食い物にしていた使用人達も同じだ。彼らは自分があの人に虐げられる怒りを他人に向けた。反抗のできない者に。
「死ぬべくして死んだのに、悲しむ意味なんてないわ」
「妹は?」
「……名前しか知らないのよ、お母様とあの人は会わせることは、しなかった。でも彼女が良くない方向に行ってしまったことは分かってた」
まだ十二歳の子だった。
両親に愛され望まれたグレンダルの愛娘。
太陽のように明るく花のように美しい子だったと聞いた。中身は歪み切ってしまってはいたけれど。
「ディラン」
「……なんだ?」
「貴方は言ったじゃない私に、堂々と告よと。だから私は俯かないしこの感情を隠さないわ」
たとえ周りが家族や使用人を私が殺したと誤認しようとも。それが間違いではないかのように否定も肯定もせず微笑む。
「ディラン、私は言ったわよね? あなたが殺していなければ私が殺していたと。だから貴方が私に後ろめたく思う必要など無いのよどこにも」
だからそんな気遣いいらないわと告げればディランは目を細める。次いで「貴女がそういうんなら」と笑った。
私もそれに笑い返せば来客の知らせを精霊達が持ってくる。
「ディラン、誰か来たみたいよ」
「おう、んじゃあミルーシェ様も行くぞー」
「あぁ! パンが!」
抱き上げられまた横抱きにされる。慌てて掴んだパンを手に持つけどこのパンどうすればいいのかしら? ディランも止まるような様子は見せず軽い足取りで玄関へと足を進める。
「誰が来ているかわかるの?」
「おう、昨日のうちに呼んでおいたからな」
「……いつの間に」
「陛下が」
「伯父様が…」
何故それを当たり前に受け入れてるんだろう…。玄関の扉を私を片腕に座らせ直してから開ける。
「よぉ、よく来たな」
「…来たくなかったけどね!!」
不服そうに眉を吊り上げた綺麗な髪の短い男の様な服を着た女の人が目の前に立っていた。
思わず瞬きを数回してしまう私にその女の人は目を向け目を見開き、ぽつりと口にした。
「……パン?」
「……美味しいですよ?」
「会話になってねぇな」
吹き出すように笑うディランになにか怖いものを見たかのように顔を歪める女の人。
「こほん、改めてご挨拶が遅れました、私は王宮医師のマーリン・リベロと申します」
「丁寧にありがとうございます、私はミルーシェ・グレンダルです」
「本日は陛下からミルーシェ様の診察をとの事で伺いました」
王宮医師を派遣されるとは思ってなかったからびっくりしたけど、そっか、伯父様は私の足の状況が分かってるから心配してくださったのかな。
「来てくれてありがとうございます、お願いしますね」
「……おい、クソ男」
「なんだクソ女」
「何だこのめっちゃ可愛い人…!」
「俺のアルジサマだ、いいだろ? やらねぇけどな」
「二人とも仲良いですねぇ〜」