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精霊石の瞳  作者:
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秘された姪


 ディランに連れてこられたのは小さな小屋だった。小屋の入口には誰もいないけど、中に明かりが灯っていて誰かいるということが分かる。

 

 ガルドから下ろされ再び横抱きで運ばれる。古い扉を開けるとディランよりも顔が整っている男の人がいた。歳は多分あの人くらいの歳だと思う。あの人の年齢は知らないけれど。

 

 「おかえり、ディラン」

 「タダイマモドリマシター」

 「苦労をかけたようで悪かったね、でも君も収穫はあったようじゃないか」

 

 男の人がそういえば近くにある軽く返していたディランの表情が歪む。親しげな態度の人物に余計疑問が浮かんでくる。

 

 この綺麗な人は古びた服を着て煤けたマントを着ているけれど話し方とか仕草がただの村人ではないとありありと伝わってくるし、そもそも少し華やかな匂いがするからこの人が貴族だってことは確定だと思う。

 

 でも。

 

 「こんばんは、初めましてだね、ミルーシェ」

 

 この人の色は…母様の色とよく似ている。

 

 銀に近い綺麗な色素の薄い金髪に、夕陽を思わせる燃えるような瞳。

 

 ああ、きっとこの人は…。

 「…お初にお目にかかります、ミルーシェ・グレンダルと申します、この様に抱き上げられたままの挨拶申し訳ありません」

 「気にしなくていいよ、君は僕の唯一の姪だからね」

 

 唯一の姪。この人の中では死んでいった妹のことは姪ではないということだろう。むしろ罪人である私に姪と呼んでくれることの方が不思議だ。

 

 「姪と呼んでくださるのですね」

 「勿論だとも、愚かな妹夫婦に消されてしまった可哀想なミルーシェ」

 「私は罪人ですから」

 「君は罪を犯してないだろう?何せ生まれてから一切外の土を踏むことが出来なかったのだから」

 

 今も踏むことが出来ないだろうね、その足じゃ。

 

 そう告げられ私はつい自分の足を見てしまう。棒のように細い足はお世辞にも綺麗とは言えない。汚れきっており、私には普通だったが王であるこの人には耐え難いものなのだろう、少し眉間にシワがよっていた。

 

 「…お見苦しいものをおみせしてしまい申し訳ありません」

 「謝ることなんてないさ、それは君が無実である証拠でもある」

 

 そう言われても少しも晴れない気持ちから私は口を閉じてしまう。それにディランはため息をこぼして自分が着ていた軍服を脱いで私の膝にかけ再び横抱きに戻してくれる。おかげで私の足は隠れたわけだけどディランは寒くないのだろうか。

 

 「その様子じゃ…ディラン君は僕のところには来ないってことだね」

 「…元々約束してた訳じゃねぇだろう」

 「うーん、素直じゃない君の対応が面白かったんだけど、僕を守る者は他にもいるが小さなミルーシェを守る者は居ないからね、仕方ないか」

 

 仕方ないという割には晴れやかな顔で笑うこの人は何を考えているんだろう。もう母様は亡くなってだいぶ経つとはいえ幼い私の妹や義理の弟であるあの人と使用人達を殺すように指示を出して、唯一の生き残りである私を殺そうとはしない。

 

 

 「そんなに怖がらなくても取って食べたりしないよ?」

 「…怖がってはいないつもりです」

 

 そうかなとまた笑う。よく笑う人だ。母様とは全く違った朗らかな笑み。

 

 記憶に残る母様の笑みはいつも疲れていたから。私のせいであるとは分かっているけど、少し悲しくなる。

 

 「で、これからの事だけど、君はどうしたい?」

 「…グレンダル侯爵家の爵位を継がせていただきたいと思っております」

 「血縁者、使用人全てが殺されたあの屋敷で暮らすと?」

 「はい」

 

 迷いなく言えば驚いた様な表情を向けられた。どこかおかしいところがあっただろうかと思わずディランを見上げるけどディランの表情は変わってないので別段問題は無いんだと思う。

 

 「普通は嫌がるものだと思ったよ、人が死んだ場所に住むなんて」

 「元々ディランが殺さなくても私はいつかあの家に住む全ての者を殺していたと思います、仮令、この身を人ならざるものに変えても」

 

 ぴくりとディランの腕が動く。どこかおかしなところがあっただろうかと首を少し傾げてみる。王も唖然とした顔をしている。

 

 「禁忌をまさか僕の前で口にするとは…豪胆ごうたんだね」

 「冗談みたいなものです、私は殺したくてもこの足で殺せませんでしたがそうせねばと思っていました、そしてその術を毎晩考えていたのです、ディランの殺し方は分かりませんが殺した死体はみました……殺されたと思えないほど綺麗な死体でしたよ」

 

 いっそ安らかに眠る彼等に少し嫉妬する程に綺麗に殺されていた。

 

 「私の想像よりはよっぽど綺麗でしたし、毎晩殺すところを想像してきたんです、今更人が死んだ屋敷に住むことを躊躇(ちゅうちょ)することなんてありません」

 「そうか、うん、まぁ君がいいならいいよ、爵位も当主が死んだ後唯一残った血縁者が君だけだ。そうなったとしても自然だろう。ただ、グレンダル侯爵領は荒んでいるからね、大変だと思うよ、なんならもう少し小さめの気性が大人しい平和な領地を与えてもいいんだけど?」

 

 ありがたい申し出だけどゆっくりと横に首を振る。

 

 「私はグレンダル侯爵領へ償わないといけません、ここに来る途中に見た街はあまりに明かりが少ない…すべての家に明かりが灯るのを私は見たいのです」

 

 

 そう告げれば王はキョトンとしたあと声を上げて大きく笑った。目元に涙までうかべて笑っている様子はよくできた人形が命を吹き込まれたかのようにも見えるほど美しい。

 

 「うん、うん…面白いね君、あー可笑しいっいいよ、やってみなさい、何かあったら力になってあげるから好きな様に生きなさい…それと僕の事はおじさんでも伯父様とでも好きに呼んでね」

 

 

 君はちゃんとそれが許されるよと、王…いや、私の伯父様は笑った。

 

 

 

 

 

 

 

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