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精霊石の瞳  作者:
10/25

深い絶望


 

 ぼんやりと月明かりの中記憶が微睡む。精霊達が楽しそうに踊って私もそれに習って静かにゆっくりと歩く様に踊る。

 

 楽しいねと告げてくる精霊達が愛しくて、月明かりの優しさに心が安らいで。

 

 ───でも次いでくる絶望に悲鳴が耳を潰す。

 

 精霊達が警告する。逃げようと。ここにいてはダメだと。

 

 精霊達が警告する。

 それでも私はあの屋根裏部屋から出ることはしなかった。上がってくるあの人(絶望)に私の喉から首が締められた鳥のような悲鳴が漏れる。

 

 むしゃくしゃしていたんだろう。

 

 きっと何かが上手くいかなかった。たまたま私の存在を思い出し、小さな物音にその苛立ちが大きくなり容赦のない暴力へと変わった。

 

 精霊達が泣いている。

 私のことを思って泣いている。優しい子達。

 

 足が動かない事に気付いたのはもうあの人が満足して部屋を出ていき母様が私を抱き締めて泣いていた時だった。

 

 変に曲がった私の足は医者を呼んでもきっと治りはしないほどだろう。治癒魔法でも無い限り。

 でも神殿にあの人が私を差し出す訳はなくて。

 

 「ごめんなさい、ごめんなさい、ミルーシェ」

 「かあ、さま」

 「ごめんなさい、ゆるして」

 

 許せるはずも無いでしょう、母様。口から出そうになる言葉を飲み込んで私はただ呆然としていた。

 

 …次に目が覚めた時にもう母様は居なかった。申し訳程度に掛けられた毛布がきっと母様の出来る最低限の事だったんだろう。

 

 痛む体に涙が勝手に零れる。精霊石を通して私の感情が精霊達に伝わっていく。優しい子達が泣いてしまっていた。

 

 「ごめん、ね…この足、治せる?」

 

 完全に治す方法は知らないと返され仕方ないかと思う。そもそも治癒魔法は人によって行われる。

 

 「出来るだけ、治して…今、死ねないの」

 

 今死ぬ訳にはいかない。まだ生きなくてはならない。この忌まわしき家を絶えさせるまで。

 

 「ありが、とう」

 

 精霊達によって私の足が形を取り戻していく。でも先程と違い足に力が入らない。

 

 「ありがとう、みんなが居てくれて

よかった」

 

 

 

 ─────そこですすり泣く声が聞こえて目が覚める。

 そうか、確かマーリンさんに足の具合を見てもらってお話しして……それからすぐに疲れたからか寝ちゃったんだ。

 

 今が何時頃なのかは分からないけれど隣で静かにディランが眠っている。

 

 じゃあすすり泣く声は…と周りへ視線を向けると私の足付近に小さな光が幾つか柔らかく明滅していた。

 「気にしているの?」

 

 私が起きたことに今更気づいたのか私の顔の周りに光達…精霊達がやってくる。

 

 「気にしなくていいのに…」

 もう治らないとは言ってもこれで死ぬという訳でもない。そもそも私はディランに出会った日に死を受け入れていたのをこの子達も知っている。

 

 「ありがとう…私がこうして温かな夜をすごせるのはあなた達のおかげよ」

 『君が僕らの声が聞こえる為には精霊石それが必要だった…でも、精霊石それが無ければ君が両親から愛されず足もこうなることは無かった』

 

 はっきり聞こえてきた言葉に驚き数回瞬きを繰り返す。少し大きめの光が私の前で明滅を繰りかえしている。

 

 「えぇ、でもそうなった場合待っていたのはきっと妹と同じ未来だわ」

 

 両親からの愛を信じて。周りの行動を信じて。それが正しいと疑わず間違いを犯し穢れていく。

 

 「私はあの人達の家族であった未来よりあなた達の友となれた方がずっと幸せだと思うし、今だって私は幸せよ」

 『…でも、やっぱり足、治せなくてごめん』

 「私もどこかで分かってたもの、それにあの日死ぬわけにはいかないと言ったことを叶えてくれたじゃない」

 

 だからありがとうみんな…と、そういえば精霊達が私の顔の近くに張り付いてきた。ちょっと眩しいけど不思議と心地良い。

 

 「そういえば今まではっきりと言葉がわかったことは無いのだけど、どうしてあなたの声ははっきり聞こえるの?」

 『精霊石の力が増してきているんだよ、だから力の強い精霊の声ならはっきり拾えるようになった』

 「精霊石の力が…? どうして?」

 『教えることは出来ないけど…君が君のままこの先を生きていくんであればその石はどんどん成長していくよ』

 偶然得た情報に包帯の上から目に触れる。

 

 『この先僕以外の声も聞こえてくることがあると思う、周りに露見したくないのなら反応しないように気をつけて』

 「…気遣いをありがとう」

 『僕こそ、その石を持って産まれたのが君でよかった…もう夜も遅いからゆっくりと眠りな』

 

 眠る気がなかったのにも関わらず体から力が抜けゆっくりと横になり意識が再び夢へと旅立つ。

 

 もうあの夢は見ることは無いのだとどこか確信しながら。

 

 

 

 

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