恩恵【転移魔法】
「……だめだ。わからない」
「クェ~」
あれから色々試してみたが、カイザーの行動を予測しようにもどうにも要領を得ない。
「そろそろ王都に戻らないとまずいんだよな……」
明後日にはアスタナに出発しなければならないのだ。
途中、煮詰まった僕は1日温泉にはいりながら青く輝くコアについて考えていた。
もちろんただ温泉に入っていただけではない。
【リペア】を使い、折れた杖の修復をしながらだ。
何せこの杖、家を修復した時以上に魔力を吸ってくる。
今でこそくっついているのだが、こうなるまでに結構な時間が必要だった。
そのほかにも温泉を別で利用している。
使用済みコアは温泉に浸けておけば輝きが増すのがわかったからだ。
僕は手持ちの使用済みコアの半分を温泉に沈めてはその経過を観察していた。
最初は徐々に輝きが増すのだが、半日ほどすると徐々に輝きが収まってくる。そして最終的に中心に白い光を残して固定される。
恐らくはこれが整った状態だと思うのだが、全てのコアの元の状態がこの色だったとは考えづらいので恐らくだが【温泉】を利用した場合は全てこの状態のコアになってしまうのだと考えられる。
イブに聞かないと詳細がわからないので見切り発車しているのは否めないが、多分悪い結果にはならないだろう。
他からもコアを回収することができれば色々試すこともできるだろうし……。
王都に戻ったら早速アレスさんに手配をお願いしよう。
産業廃棄事業として受け入れてもらえればその収入も得られるかもしれないし、ただでコアが手に入るかもしれない。
そんなことを考えていると…………。
「マスター。おはようございます」
どこかほっとするような声が耳をうった。
「おはようイブ……ってなんだその目の隈は」
よれよれの白衣に跳ねている金髪。メガネがずり落ち疲労が色濃く見える。
こんな姿でも本来の美しさは失っていないというのだから、どれだけ幻惑姿のバリエーションを用意しているのか呆れそうになる。
僕がその指摘をしてみせるとイブは…………。
「どんな時でもマスターに癒しを届ける義務があります。醜いイブを見せてマスターが幻滅するのは嫌ですから」
女の化粧は旦那のためと聞いたことがあるが、イブに限っては本心なんだろうな……。
「無理せずにゆっくり休んでくれていいんだぞ」
コアのことも知りたいが、イブの体調も大事。僕はイブに休息を進めるのだが……。
「いえ、お言葉に甘えるのは後にします。それよりもコアの解析が終わったんですよ!」
そう言ったイブの表情に明るさが戻った。
「おおっ! お疲れ様」
僕が労うとイブは口元に手をあててはにかむと「コホン」と息を吐くと言った。
「今回の子は流石はランクⅦの難易度だけありました、なかなか調べさせてくれずに根気がいりましたが、イブはとうとうその能力を調べ上げたのです」
解析を終えられたのが余程嬉しかったのか、イブは元気な声をだすと僕に向かい自信満々に言った。
「今回このコアから得られた恩恵は【転移魔法】です」
「………………えっ?」
僕の頭が一瞬真っ白になる。
「いやぁ……流石のイブも大変でした。この子は性格に難があるのか一切言うこときかなかったので、なだめすかして、時には人質をちらつかせてまでしましたからねー」
浮かれているようで解析を終えるまでの過程を嬉々として語るのだが、僕は頭が真っ白になっているので突っ込む余裕がない。
「イブ……もう一度言ってくれないか?」
「何ですかマスターこそお疲れですか? ちゃんと聞いてくださいよね。今回の恩恵は【転移魔法】だって」
イブの言葉に息をのむ。
この世界での移動手段は一部の例外を除いて魔道列車などの乗り物が基本となっている。
そして一部の例外というのがあり、金持ちや王族などしか利用が許されていない国家間を移動するために結ばれた【転移魔法陣】だ。
一説によると転移魔法陣は国家が用意したとも、転移魔法陣があるからそこに国家ができたともされている。
起動するのには相当数の魔道士が必要なので、有事の際にしか利用されないとか。
これまで【転移魔法】を扱うことができた人物は過去に1人だけいるのだが、その人物は転移魔法を駆使することで1代で成り上がり国王に上り詰めたと言われている。
つまり、今回手に入れた【転移魔法】というのは掛け値なしに世界に認められた恩恵ということになるのだ。
「一応説明をしておくとですね、過去に行ったことがある場所を思い浮かべてください。そうすると瞬時にそこに移動することができるはずです」
イブの説明を聞きながらも僕は既に冷静さを取り戻していた。
この力さえあればこれまで以上に活動の幅を広げることができる。
「イブ。早速使ってみたいけどいいかな?」
「はい。マスターならそういうと思ってました」
僕は意識を集中する。頭の中に自分が普段暮らしているアカデミーの……寮の部屋を思い浮かべる。
すると、身体を何か青白い膜が覆い始めた。
「それが転移を使うときの光ですね。今のマスターは自由自在に世界を移動することができますよ」
イブの説明に納得すると僕は感覚に従うことにする……。
「転移魔法を使用する。行先は寮の僕の部屋!」
次の瞬間視界が一瞬で変化する。そして目にしたのは――
「なるほど、これは本気でやばい能力だな」
新幹線やリニア……光ですらも到達しえない速度。
——目の前には住んでから数度しか使われていない安いベッドが置かれていた。
まぎれもない、僕が住んでいる寮の部屋だった。
『流石マスター。魔力の動きにも淀みがありませんでした。1回で完全に使いこなしてますね』
イブの世辞を聞きながら僕は新たな能力を得たことに拳を握って興奮を抑えると……。
「また秘密が増えてしまった……」
そろそろ話すことのできない秘密が多すぎて整理しきれなくなってくるのだった。




