オーアイーター
「キュルキュル?」
幸せそうな顔で果物に噛り付き食べ終えるとつぶらな瞳を僕へと向ける。
どうやら桃が好物らしく、先程から延々と桃ばかりを食べ続けている。
1つ食べ終えるたび、手に付いた果汁をぺろぺろと舐めとる仕草がどうにも可愛いらしくて保護欲をそそられる。
そんなキャロルをみて頬を緩めていると……………………。
「絶対キャロルが何か知ってるはずです!」
フリルのエプロン姿に髪を後ろで縛りポニーテールにしたイブが、トレイで(実際はザ・ワールドで作った人形に幻惑魔法を重ねて)朝食を運んできた。
本日の朝食はカイザーの卵を使った目玉焼きに温野菜サラダ、ミルクを使ったキャベツのポタージュスープだ。
街に立ち寄った際に調味料などは仕入れたのだが、基本的には【畑】から採れたての野菜を使っている。そのおかげでダンジョンの中だというのに新鮮な材料が手に入り、こうして豪勢な食事にありつけるのだ。
このようなダンジョン生活を覚えてしまったら絶対に元の生活に戻ることはできないだろう、もしかすると僕にとって今後最大の難関は敵が強大ということより、パーティーを組むことによる不便さかもしれない。
イブの声をスルーしてそんなことを考えていると……。
「そう思いませんか! マスター!」
眼前にイブの顔が現れる。
テーブルから生えるように現れた姿に驚くが「そういえば幻惑魔法なんだった」と納得する。
「確かにあやしいけどさ、あれだけの量のオリハルコンをどうやって運び込んだんだ?」
ベッドから零れ落ちたオリハルコンを測量した結果インゴット半分程度の量だった。
カイザーと喧嘩したキャロルの力を見る限り運べる重量だが、一体どこから運んできたというのか?
僕は朝食を摂りながらも次々に桃を消化していくキャロルを見続ける。
ゆうに100個は積み上げていたはずの桃も今では数個を残すだけ……いったいどこに入ってるんだ?
「わわっ! 足りなさそうなんでちょっと【畑】に行ってきます」
その食べっぷりに驚いたイブが出ていく。
その様を大変そうだなと見送りキャロルを見ていると変化が起こった……。
「お、おい……大丈夫か?」
体を丸めるとプルプルと震えるキャロル。何やら力を込めているようで見ていると不安になる。
「キューッ……キューッ」
がんばって力を入れている様子。何をしているのかと思いしばらく見守っているとようやくその理由がわかった。
——ポン! ポン! ポン!——
連続で何かがキャロルの尻から飛び出した。僕はそれを見ると…………。
「うそ……?」
「ふぅ……採ってきましたよ桃200個。これで足りますよね?」
【畑】まで行ってきたのだろう。イブが大量の桃を運んで戻ってくると。
「あ~~っ! オリハルコンっ! 謎が解けたんですかっ!?」
詰め寄ってくるイブに僕は何と説明するか悩むのだった。
「多分【オーアイーター】ですね。この子」
相変わらず無限に桃を食べ続けるキャロルを見下ろしながらイブはキャロルの正体を看破してみせる。
「オーアイーター?」
僕は聞いたことのない名前に首をかしげると……。
「童話に出てくる幻獣です。炭鉱などに生息して遭遇した炭鉱夫に富をもたらしてくれるとか……」
なるほど、実際に僕も様々な金属を手に入れることができた。
恐らくはキャロルのようなオーアイーターによりレアメタルを入手した人物が存在したのだろう。
「この子の特徴は食べた物を排泄の際に金属の塊にするみたいですね。おそらく、今までは鉱石を食べて排泄していたのでミスリルやヴァライトがそこらに落ちていたのかと」
「つまり、僕が喜んで拾っていたのはキャロルの排泄物ってことなのか?」
「おそらくそうですね」
イブの肯定に何気にショックを受ける僕。
「鉱山でミスリルやヴァライトが排出されるのは解らなくはないけど、果物からオリハルコンっていうのは説明がつかないのでは?」
僕の疑問にイブは「推測ですが」と前置きをつけて答える。
「食べた鉱石が問題というよりも、食べた物に含まれた力が重要なのだと思います。マスターの野菜や果物は多大な力が籠められていますから。普通に食べる分には排出されますが、キャロルは体内でその力を固めることができるのだと思います」
力というのは初耳だ。だが、素晴らしい味をしていたり腐らなかったりするのはその力のおかげと考えれば納得できなくはない。
「キャロルは幻獣ですからね。身体を構成している半分は魔力なんかでできているはずですから。この考えは恐らくあっているかと思います」
イブのその言葉を裏付けるように、キャロルは桃を200個食べ終えるとプルプルと震えだす。
そして6つのオリハルコンを排出すると…………。
「キュルルン」
と鳴くのだった。
「えーと、つまり。キャロルを飼っていればオリハルコンが大量に手に入るってことなのか?」
「普通ならオリハルコンの1粒を排出させるにはかなりの量の食糧を食べさせる必要がありますが、マスターに限っては【畑】からいくらでも用意できます。なので大量どころか無限に手に入れることも可能ですよ」
確かに今も物欲しそうな顔をして僕らを見上げる食欲モンスターのキャロル。
こいつなら餌場に放り込めば1日中でも食事をしていそうな気がする。
「いずれにせよあれだな……」
「ええ。あれです」
僕とイブは顔を見合わせると同じ結論を出す。
「「これでまた他人に見せられない秘密が増えた」」
もはや国家間の争いが起こるレベルの能力だ。たとえ王族が相手でもおいそれと漏らせるものではない。
こうして僕は新たなペットと共に、無限に供給される金属を手に入れたのだった。




