【増幅】の恩恵がやばい
「あ、ありがとうございました……」
店員さんの引きつるような声を聞きながら僕はコアショップを出る。
『マスターはやくはやく。私我慢できませんよぉ』
先日の冒険者ギルドで受けた【家の解体及び資材の破棄】の依頼を数時間で片付けたおかげでボーナスまでつけて貰えた。
そのおかげで僕は見事こうしてダンジョンコアⅥを手に入れることができたのだ。
(まあ少しは落ち着けって。まずは人気の無い場所に移動するから。そしたらルーム内で確認だ)
『マスターの歩く速度が普段の3割ぐらい早いです。楽しみなんですね?』
イブが何かを言っているがスルーしておく。
僕は人気の無い裏路地を目指して歩くのだった。
「それじゃあ、受け取りますね」
今日も完全無欠の美少女姿を投影したイブは僕から受け取ったダンジョンコアを愛おしいそうな目でみる。
「頼んだぞ」
僕は早く結果を知りたくて仕方ないのでそわそわして待っている。
隣ではカイザーも「クエクエ」言いながらご機嫌な様子を見せている。
「とりあえず1つ目のコアの効果が解りました」
しばらくするとイブがコアの解析を終えた。
「どんな効果なんだ?」
イブは口元に手を当てると僕の反応を見るように微笑む。
「1つ目は恩恵の【飛行】ですね」
「ひ、飛行だって!?」
イブから飛び出た言葉に僕は立ち上がる。
「ふふふ、良い反応しますねマスター」
イブが余裕の表情を浮かべているが、僕にとっては――いや、人類にとってはとんでもない。
一応【フライ】という数メートルの高さを飛ぶ魔法は存在する。
だが、どちらかといえばジャンプに近いもので、完全に重力に逆らうような効果は無いので使った後は徐々に地面へと降りてしまうのだ。
だが【飛行】ともなれば別だろう。文字通り空を行くのだ。
これまでのダンジョンコアから得た能力は全てが高性能だった。飛行も例に漏れず相応の能力に違いない。
「そりゃそうだろ。空を飛ぶというのは人類の願いでもある」
この世界でも空を飛ぶ手段は存在している。
魔導飛空艇という乗り物だ。
だが、これは数が少ないので、乗れる人間は限られている。
「さ、早速町の外にでて試してみよう」
居ても立っても居られない。僕はイブにそう促すのだが…………。
「マスター落ち着いてください」
「ククククエー!」
イブとカイザーになだめられる。
「まだもう1つのコアを調べ終わってませんから。もう少し待ちましょうよ」
その言葉に冷静さを取り戻すと椅子に座るのだった。
「さて、もう1つのコアについてなんですけど。少しがっかりかもしれないですね」
「ん。どういうこと?」
あれから、イブにもう1つの紫色のコアの鑑定をさせたところ歯切れの悪い答えが返ってきた。
「取り敢えず説明を投影しますね」
そういって幻惑魔法を利用して僕に説明を見せてくる。
【増幅】……使用することで他の能力の効果を一時的に引き上げることができる。1度の有効時間は1時間。1日に3度まで使用可能。
「これって【神殿】で得られる【祝福】とあまり変わらないんじゃないかと思ったんですよね。パワーとかスタミナを増幅させるにしても特殊のコア(小)で事足りますし」
確かにイブの言う通りかもしれない。1日3度までの限度付きで消費なしでそれらを上げられるのならそれなりにお得な気もするが、わざわざランクⅥを買ってまでこれというのはいささか肩透かしを食らった気分だ。
「取り敢えず外でて【飛行】でも試してみます?」
既に興味をなくした様子で外出を促すイブ。僕はそんなイブの言葉を聞きながら別なことを考えていた。
「いや、ちょっとまってくれ。その【増幅】ってもしかすると使えるかも」
「それで、どうやって使うつもりなんですか?」
「まあ見てなって」
あれから【畑】へと移動した僕はイブの疑わし気な視線を受けながら考察を口にした。
「今回の【増幅】の恩恵は他の能力を1時間引き上げられるんだろ?」
「そう説明にありますからね」
「だとするとだ、引き上げられるのは別に魔法だけじゃなくて、例えば【恩恵】や【スキル】でも良いんじゃないのかな?」
「はっ? そんなこと無いんじゃ……?」
僕の言葉にイブは困惑の表情を浮かべる。
「恩恵で恩恵を強化するなんて話聞いたことないですよ!」
それを言うのならイブみたくしゃべる恩恵も世間に存在していないのだ。
どんな事柄にも初めては存在する。
「ダメで元々当たれば儲けもの。試してみればいいんだよ」
僕はイブとカイザーが見守る中【増幅】の恩恵を【畑】へと掛けてみた。
「マ、マママママスター!? 【畑】に変化がありました」
はたして結果は僕の予想通りになったようだ。イブは大慌てで僕へと報告をする。
「【増幅】の効果を受けた【畑】が進化して【神畑】になってます」
なんだそのネーミングは。ふざけているのだろうか?
僕が眉をひそめると目の前の畑に変化が起きた。
「うわっ、これはすごいかも…………」
基本的に【畑】に実っている野菜や果物は収穫しなければ最上の状態を保っている。そして収穫すると次々に新しい農産物が生えてくるのだが……。
「黄金に輝く果物に野菜ですか……」
イブが惚けた様子でそれを眺めている。
「ふーん。収穫してもすぐに次が生えてこないんだな」
試しに黄金のリンゴを収穫した僕は生え際を凝視するのだが、普段と違って次が実らない。少しずつ成長しているようだが、時間がかかりそうだ。
「試しに食べてみよう」
「クククエッ!」
カイザーも食べたそうにしていたので半分に割って分けてやる。
そして僕が黄金のリンゴに噛り付くと……。
「……………………」
「……………………」
「マ、マスターもカイザーもどうしちゃったんですか?」
人は本当に美味しい物を食べたときに言葉を失うらしい。
僕とカイザーはイブがどれだけ話しかけても反応をしなかった。
「いや、このリンゴ……禁断の果実かもしれない。こんなの食べた日には二度と普通の食生活に戻れなくなるぞ」
この食事だけで人殺しや戦争が引き起こされるのは間違いないレベルだ。
普段の野菜も十分に美味しいのだが、頑張れば人の手でぎりぎり再現できるレベルだろう。
だが、これに関してはどれだけ頑張ったところでレベルが違う。言うなれば…………。
「神々の食材」
「あうううう。いいないいなー、イブも食べたいですよぉ」
イブの恨めしそうな声を聞きながら、僕はまた一歩能力がやばい方向に進んでしまったのを自覚するのだった。




