王都を騒がせているらしい
「その野菜がどうかしたんですか?」
「うむ。実は少々問題になっていてだな…………」
僕は自分が販売した野菜についての話題が出てたのでつい口を挟んでしまった。
「どういう問題なんでしょうか?」
「今から数週間前に王都のとある青果市場でその野菜を販売する人物が現れたらしいのだ」
その言葉に頷くと先を促す。
「誰もが見惚れる美少女と男の組み合わせで次から次へと野菜や果物を売っていたらしいのだ」
『えへへへへ。美少女ですってマスター』
イブが嬉しそうだ。そしてその噂だと男の方が完全に印象から消えているようなのだが…………。
まあ、イブの容姿に目が行くのは仕方ないけどさ。
「その売り物に毒が入っていたとか販売禁止の農産物があったとかですか?」
「いやいや、そういうわけではない。ただ、その味があまりにも素晴らしくてその上周囲の店に比べて値段が安かったらしくてな。そのせいでそこの青果市場の利用者が爆発的に増えてしまったのだ」
王都は広いので様々な場所に市場ができている。それぞれの仕入れ業者は近い市場で仕入れるのが基本なのだが、評判を聞きつけて殺到してしまったらしい。
「そこで問題が上がってきたので俺はアンジェリカを呼び出したのだ」
なるほど。ロベルトやアンジェリカに野菜を渡した時はゆくゆくは貴族の家と専属取引をして収入源にしようと考えていたが、自分の【畑】でとれる野菜の価値を低く見積もっていたらしい。
「なるほど……、そのせいでそんなにお疲れなんですね?」
目の下に隈があるのはそういうことなのだろう。僕がそう尋ねると……。
「いや、これは騎士団でも問題が起きていてな…………」
その言葉に少しほっとする。どうやら僕の野菜とは無関係なところで心労を溜めていたようだ。
「それは大変でしたね。僕で良ければ話を聞かせてください」
こう見えても前世では様々な上役の愚痴を聞き続けたのだ。仕事を長くしているとだんだんとストレスが溜まってくる。人は愚痴をこぼすことでストレスを発散するのだ。
聞き上手な僕は相槌を打つことで相手のストレスを軽減させると職場の人間関係をコントロールしていたのだ。
「そ、そうか? では少しだけ……」
こういう話は赤の他人ぐらいの距離感の方が話しやすい。アレス国王は頬を緩めると僕に語り始めた。
「実は最近、騎士の連中が言い争いをはじめておってな……」
そう言うと溜息を吐く。どうやらこちらの方が難題らしい。
「それはやはり所属違いの騎士同士の争いとかでしょうか?」
部署が違えば立場が違う。所属意識の問題からか、人は自分と違うグループに対して壁を作る傾向が強いのだ。
「うむ。騎士団の団長同士が争っていてるのだ」
アレス国王は眉をしかめる。
「原因はなんなんですか?」
こういうのは上が抑えつけても解決しない。まずは原因を取り除くことからはじめなければ。
僕は相手が気持ちよく話をできるように質問をするとアレス国王は話しを続けた。
「実はだな……最近王都の武器屋にかなりの品質の武器が卸されておったのだ」
「………………ほ、ほう?」
「その武器はゴブリンやコボルトなどを退治するための消耗品のつもりで購入した武器なのだが、いざ使ってみるとかなり使い勝手が良い」
「それで何故争いが起きるのですか?」
武器の効果がそこそこ使える程度なら良いのでは?
「消耗品程度の材料をそこまで鍛え上げる鍛冶士がいるという噂が広がってだな、これまで騎士団はそれぞれお抱えの鍛冶士を自分で鍛え上げるなりして取引をしていたのだが、1人の団長がその鍛冶士を探し始めてからは険悪な状況になっている」
なんでも、それぞれの騎士団はお抱えの鍛冶士を雇っているらしく、団の武器のメンテナンスはそのお抱えの鍛冶士が行っている。
手作業になるので1人の鍛冶士がメンテナンスできる武器の数は決まっている。
それに対して国が抱える騎士団の人数は多い。
武器の質の高さはイコールでその騎士団の強さへと直結しているのだ。
今はバランスよく配置されているのだが、もしその鍛冶士を勧誘できたとするとそれだけで他の騎士団から一歩抜けだすことができてしまうとか。
そのことを全ての団長が危惧しているらしい。
「今いる鍛冶士の武器で満足するように言い含めたのだが『街にあれ程の腕前の鍛冶士がいるのです。確保しないことには国の損失ですぞ』と言い出してな。確かに素晴らしい腕前の鍛冶士を雇えるのならそれに越したことはないのだが、このままではその鍛冶士が可哀想でならぬよ……」
屈強な男達に囲まれながら熱い工房で延々と武器のメンテナンスをやらされる……。労働基準なんてあってないようなこの世界でそんなことになったら過労で倒れるまで仕事をさせられる羽目になりそうだ。
『マスター武器作るの好きだからやってあげたらどうですかー?』
(この前のこと根に持ってるのか?)
すこし武器作りに集中しすぎてイブの声を無視しただけなのに……。
『別にー。そんなことないですよー?』
どこ吹く風という様子のイブを無視すると僕は考えた。
どうやら、現在アレス国王が抱えている問題は概ね僕へと直結しているようだ。
多少狙っていた部分はあったのだが、市場の反響の大きさまでは読めていなかった。
「なるほど、心労は察します」
「いや、すまないな。娘の学友にこんな愚痴を……。エリク君はなんというか話やすくてついつい言葉が止まらなくなってしまう」
そんなアレス国王に僕は……。
「お疲れのようなのでこちらをどうぞ」
僕はルームから取り出したスタミナポーションをテーブルに置くのだった。




