国王アレス
「それではこちらにご案内しますわ」
翌日。僕がアンジェリカと一緒にアカデミーの門へと向かうと、そこには高級な魔導車が横付けされていた。
魔導車の中は冷暖房完備なうえ、空間を広げる魔導具が使われていたので広く快適な道中を過ごした。
そうして連れてこられたのがこの国の城である。
王女が乗っているということで城門をフリーパスで潜り抜ける。
そして魔導車から降りて城に入ると皆がアンジェリカに道を譲り頭を下げる。
そんな様子を見ながら警備の兵士の前を通り、たどり着いたのは豪華な扉だった。
「エリク様、用意は宜しいでしょうか?」
アンジェリカは緊張した表情でそう言うと扉をノックする。
「はいりなさい」
中から声がすると、アンジェリカは僕に向かって頷くと部屋の中へと入っていった。
「おかえりなさいアン」
中に入ってまず話し掛けてきたのはアンジェリカの母だった。
「お母様、ただいま戻りましたわ」
入学式であっているのでそれ程経ってはいないのだが、2人とも嬉しそうに抱き合っている。
そんな様子を横目に僕は部屋を見渡した。
それなりに広い部屋だ。壁には高そうな絵が飾られておりテーブルにソファーといった家具も一級品のものが使われている。
そんな中、1人の視線がこちらを向いていた。
年の頃は三十代程度だろうか、豪華なマントに身を包んだ髭を生やした男性だ。
僕はその人から視線を逸らさずにイブと会話をする。
(ここにいるってことはこの人がアンジェリカのお父さん……つまり国王ってことだよね?)
『そうだと思いますよ』
(確か王族相手に勝手に名乗るのって無礼になるんだっけ?)
『さあ、どうなんでしょう? イブはマスターが一番偉いと思っていますから礼儀なんて知りませんけど』
イブの言葉から意識を外す。何故なら向こうが動いたからだ。
「俺はこの国を治めているアレス13世だ」
「お初にお目にかかりますエリクです。この度は家族団欒にお邪魔して申し訳ありません」
予想通りアレス国王が名乗ったので僕はよどみなく自己紹介をすると頭を下げて見せる。
「よい。娘の学友と見受ける。面をあげよ」
許可を得て頭を上げる。よく観察してみると目の下には隈があった。
国王という仕事柄心労が溜まっているのだと察する。
「あらあら、エリクさんも良くいらしてくださいました」
「エクレア知っているのか?」
エクレア王妃と僕が顔見知りということでアレス国王は質問をする。
「ええ、以前お話したでしょう。受験の際にアンを救ってくださった勇気ある若者がいると。それがエリクさんですよ」
どうにも誇張されて伝わっている気がするのだが……。
「なんと、君が娘を救ってくれたのか。国王としてではなく1人の父親として感謝する」
そう言うとアレス国王は僕の手をしっかりと握ってきた。
「いえ、別に。たまたま通りかかっただけなので」
その場の全員から感謝の視線を投げかけられた僕は気まずい思いをする。
助けたのは事実だが、僕の中では昔の話と認識しているのだ。
恩に着せるようなことでもないのでこうも畏まられると困ってしまう。
「そうだ! 私としたことがお茶も用意しないで……少々お待ちくださいね」
そう言っていそいそとお茶の準備を始めようとするエクレア王妃に。
「エクレア、お前は休んでいろ」
「そうですわ、お茶ならばわたくしが淹れますから」
2人に心配されるとアンジェリカがお茶を淹れはじめるのだった。
「お前が茶を淹れるようになるとはな……この前まではメイドがいなければ身支度すらできなかったというのに」
「本当ですね。娘の成長を見られるのは嬉しいものです」
「も、もうっ! お父様もお母様も、エリク様の前なんだから変なこと言わないでっ!」
アンジェリカが顔を赤くしてむくれているのをアレス国王とエクレア王妃は優しい目で見守っている。
「うむ、中々に美味いじゃないか」
アレス国王が美味しそうに茶を口に含む。
「時々お茶会を開いては淹れ方を教えてもらいましたから。お父様もお疲れの様子だったのでパパールのハーブティーにしました」
その言葉にアレス国王は目元を抑えて見せる。
「まさか娘に気遣われるとはな……」
ほのぼのした家庭の一幕を見せられている僕は発言のタイミングを掴めないでいる。元々お願いがあってきたのだが、この家族団欒を壊したくない気がするのだ……。
「どうしてそんなに疲れているのですか? 最近は隣国との関係も良好のはずですよね?」
「まあ……色々とあってだな」
含みを持たせるようなアレス国王の言葉。恐らくは身内といえども話せないこともあるのだろう。
アンジェリカもそこを感じ取ったのか話題を変えることにしたようだ。
「そういえば本日はどうして私を呼び出されたのですか?」
道中で、両親に合わせて欲しいというお願いを受け入れてくれたことに対しお礼を言ったところ「丁度呼び出しを受けてましたから」と返事をした。
恐らくは娘の生活に対する心配事だと思う。この年ぐらいの親となると娘がしっかり学校生活をやれているのかが気になるらしい。前世でもそういう人間はいたから良く分かる。
「うむ、実は少しお前に聞きたいことがあってだな……」
「なんなりとお答えしますわ」
やはりそのようだ。アレス国王はエクレア王妃と顔を合わせて頷くとアンジェリカに問いただした。
「この前『友人からもらった』と言って持ってきた野菜だが誰からもらったのか教えてくれ」
「「えっ?」」
僕とアンジェリカの声が重なりお互いに目を合せるのだった。




