スタミナポーション
目の前では大きな鍋が沸騰している。
中にはパパールやその他のハーブをすりつぶして入れている。
煮立てたそれは室内に臭いを充満させている。
「そろそろ良いかな?」
僕はレードルを手に取ると中の液体を掬い小瓶へと移す。
『マスター、今日もやるんですか?』
そうするとイブが僕へと話し掛けてきた。
「熟練度を上げ過ぎて困ることはないからね。ギリギリまで粘っておきたいんだよ」
そう言うと小瓶に向けて手をかざす。そして、大量の魔力を注ぎ込み始めた。
『アンジェリカさんにも休んだ方が良いって言われたじゃないですか。マスターの身体が心配ですよ』
そうすると液体は輝きを帯び、やがて黄色がかった透明な色に落ち着く。
「ふぅ、とりあえずこのスタミナポーション作ったら終わりにするからさ」
イブの小言を封じる。
僕が現在……いや、最近ずっと作っているのはスタミナポーションだ。
ポーションの作成方法はそれ程難しくはない。
ポーション作成に適した水と各種材料を一緒に煮る。そして最後に1回分の液体を小瓶に移し、自身の魔力を注ぎ込む。
そうすると材料によってライフポーションやスタミナポーション、マナポーションなどが出来上がるのだ。
ポーションを作成するには錬金術師が適正な魔力を注ぎ込む必要がある。
例えば魔法使いなどの人間も魔力を持っているのだが、魔法使いはポーションに魔力を注ぎ込む能力がない。あくまで恩恵やスキルで【錬金術】を持つ者のみがポーションを作れるのだ。
『本当ですかぁ? 先日みたいに祝福が【マジック200%アップ】だったからって延々と作ったら止めますよ』
「分かってるって」
ポーションの回復量を決めるのは【錬金術】の恩恵やスキルの熟練度の他にもう1つ、注ぎ込む魔力の質がある。
マジック200%ともなればかなりの回復量の底上げが見込めるので、その日は夢中になって作ってしまい、翌日疲労が溜まってしまったのだ。
「それにもう水が無いだろ?」
トーマスさん達に同行して取ってきたランクⅤのダンジョンの水も底を尽きかけている。
『相当な量があったのに使いすぎですよぉ』
あの日、僕は魔道具で水を回収する傍らで右手を水面に付けていた。
そして右手で触れているものを移動させるという方法でザ・ワールド内に貯水槽を作って水を移動させていたのだ。
「まあ、無駄に余らせておくよりはいいわけだし」
熟練度を上げまくったので、今の僕の作るポーションはかなりの回復量になっているはず。これならば…………。
『それにしてもマスター。本気でアンジェリカさんのお母さんの病気を治すつもりなんですか?』
そう。僕が無理をしてでもこうしているのはアンジェリカの母親が病気に冒されているからだ。
今はスタミナポーションの回復で間に合っているらしいけど、対面した時も調子が悪そうだったのだ。
『…………もしかしてアンジェリカさんが好きだからですか?』
「どうしてそうすぐに色恋に結び付ける。相手は王女様だぞ?」
ロベルトが侯爵家の人間だということは知っている。そしてアンジェリカがそれ以上の身分となると公爵家か王族だ。
僕は周囲の会話から既に彼女が王族だということを知っているのだ。
「助けたいと思ったから助けるだけだよ」
アンジェリカがアカデミーに入学した理由は先日聞いている。ここで頑張ればいずれはお母さんを治せる薬を作ることができるかもしれない。だが、それには恐らく時間が必要になるだろう。
現在のアンジェリカのお母さんにはその時間を耐えるだけの体力はない。そう僕は思ったのだ。
イブの妙な勘繰りを否定すると次々にスタミナポーションを完成させていく。
いつしかイブの声は消え、僕は静寂が支配する研究棟で黙々と作業を進めているのだった。




