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ルナからのプロポーズ

「え……? 結婚?」


 あまりにも予想外なお願いに、僕は目を丸くする。

 彼女の言葉が何かの間違いではないのかと思い、もう一度聞きたくてルナを凝視してしまうのだが……。


「ううう……恥ずかしい、あまりこっち見ないで……」


 これまでの無表情ふりが何だったのかというくらい、ルナはもじもじと身体を動かすと、恥ずかしそうにしながらアルカナコアで顔を隠してしまった。


 今までのギャップと相まって、その仕草が可愛らしく、一瞬言葉に詰まってしまう。


「それで、エリク。返事は?」


「あっ、うん」


「やたっ!」


「いや、今のは相槌しただけで、そう言う意味じゃなくてだね……」


 まだ微妙に混乱している。


「嫌……なの?」


 ルナは笑みを浮かべたり、悲しそうな顔をしたり表情をころころと変化させる。彼女がこんなにバラエティ豊かな表情ができるとは驚きだ。


「勿論、嫌じゃないさ……でも、いきなりすぎるというか……」


 これまで、僕とルナは良い仲間関係もしくは師弟関係を築いてきた。それが、急にプロポーズを受けるなんて思いもよらなかった。


「確かに、唐突に感じるかもしれない。でも、私は昔から、エリクに一定以上の好意を持っていたよ?」


 ルナの口から改めて「好意」という言葉を出される。


「これまでは、エリクはイブとくっつくものだと思っていた。二人はお似合いだし、ずっと一緒にいることが出来るから、ルナはそれを見守るつもりだった」


 そこでルナは眼つきを鋭くすると、僕に言う。


「でも、エリクがイブと結ばれることはない。イブは確かにエリクを大切にしている。けど、そこに恋愛感情は……ううん、好意は存在していないから」


「そ……それって……どういう……」


 僕が薄々感じていたことをルナは告げてくる。

 これまで過ごしてきた中で、イブは常に僕に寄り添ってくれていた。だが、いつだって線を引いており、感情を出すことはあっても、コアへの執着や僕に害をなすものに対してがほとんどだった。


「イブは、エリクが他の女性と子を成すことを望んでいる」


 ルナの言葉は正しい。


 確かに、イブはこれまで何度も僕に他人と付き合うように言ってきている。


「それに加えて、セレーヌや私とマリナの先祖である、転移者の存在。エリクの能力が【ザ・ワールド】というタロットにたとえられている点。偶然にしては出来すぎだよ」


 セレーヌさんも指摘していたが、前世の魂が偶然僕に宿り融合し、その力がたまたまアルカナコアの力と酷似している。


「ルナはイブに『エリクのことを好きか?』とはっきり聞いた。結果はさっきも言った通り。エリクを愛さないイブには負けたくない。それがルナがエリクにプロポーズする理由」


 ここまではっきりと言われると思っていなかった、僕はルナをじっと見つめる。

 このような薄暗いアルカナダンジョンの中、ルナ自身も戦闘のせいで汚れている。プロポーズするようなムードなど一切ないこの場所で、直球に想いを告げてくるあたりが今まで知っているルナという女性なのだと考えると、妙に納得してしまいそうになった。


「もしかして、単独でボスを倒したいと言ったのは……」


 ここにきて、ルナが無茶をした理由に思い至った。


「ルナは、エリクに護られるだけの存在でいたくはなかったから。一人でアルカナダンジョンのボスを攻略し、エリクに並び立てると自信を持ってから想いを告げたかった」


「そんなことのために……、本気で血が凍るような思いをしたんだからな!」


 彼女を失うかもしれないと思った時、本気で恐怖を覚えた。


「それで、返事は?」


 案ずるより戦うが易しとでも言うべきか、喉元過ぎればなんとやらなのか、ルナは返事を促してきた。


「確かに、僕はルナに好意を抱いているのは間違いない。今回の件ではっきりそれを自覚した。でもやっぱり唐突すぎる、だから時間をくれないか?」


「ん、いいよ」


「えっ? いいの?」


 告白されたことで、彼女と過ごす時間はこれまでと違って見えるようになるだろう。

 その間に、自分の気持ちがどうなのか僕は確認するつもりだったのだが、ルナがそこまで返事を待てないと言い出すと考えていた。


「平気。別に今すぐエリクとエッチなことしたいわけでもないし、ルナは自分の気持ちを告げられて満足したから」


 すっきりした表情を浮かべていた。


「でも……」


 ルナはそう言うと、アルカナコアを【アイテムボックス】の魔法で開いた亜空間に収納してしまった。


「これは結納の品なのであげない。ルナと添い遂げる覚悟ができたら差し出すから」


 ちゃっかりしている。


「それだと、僕がアルカナコア目当てで君に言い寄るとか思わないの?」


「エリクは単純で馬鹿だからそこまで頭が回らない」


 酷い言われようだが、最近皆からよく、信じられない者を見るような目で見られるし、なんなら直接同じようなことを言われているので、納得している節もある。


 僕が複雑な気分でいると、ルナは近づき、唇を寄せてくる。

 次の瞬間、頬に柔らかく湿ったものが押し付けられると、


「それに、これからはルナのターンだから。エリクをメロメロにしてみせるから覚悟してね」


 耳元で艶かしく囁くのだった。

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