地獄の特訓③
「クリムゾンフレアッ!」
ルナの放つ劫火が空を赤く染める。
「クエエッーーー!」
それをカイザーは翼をはばたかせると押し返した。
「ライトニングバーストッ!」
地を這うように紫電が駆け抜ける。広範囲から包囲するように迫るその魔法を――
「キャーッル!」
キャロルはものすごい勢いで地面を掘り隠れることでやり過ごした。
「クエエエッ!」
「キャルキャルッ!」
2匹が同時に上と下から仕掛けてくる。その動きは速く、ルナに反撃の余裕はない。
「くっ! マジックバリアッ!」
魔力による障壁を作り上げたルナ。
「クエックエックエッ!」
「キャルッキャルッキャルッ!」
カイザーはクチバシで、キャロルは拳でルナの障壁を殴り続けている。2匹の攻撃は苛烈で、障壁にはヒビが入りあと数秒もすれば障壁が壊れてルナに攻撃が届くと予想をしていると。
「て、転移っ!」
ルナの姿が掻き消えた。
「クエッ?」
「キャルッ?」
突然姿が消えたことで動揺をする2匹に。
「はぁはぁ。これで終わり!」
空に浮かんでいるルナはシーソラスの杖を振るうと、障壁の中に2匹を閉じ込めた。
「キャルッ!?」
「クエッ!?」
「——森羅万象の終末 万物創世の理 全ての生物はユグドラシルより誕生し 全ての生命は大地へと還る 神魔消滅――【カタストロフ】」
「キャルキャルキャルゥーーーー!!!」
「クエクエクエエエェェェーーーー!!!」
障壁の中で慌てて動き回る2匹だが、ルナの障壁はすぐに破れるものではない。黒い波動が2匹に迫り、2匹は抱き合うと…………。
「はい。そこまで! ルナの勝ちだね」
2匹の前に立ち僕が腕を振ると波動は霧散するのだった。
「エリクきてたの?」
泣きながら僕に抱き着いてくるカイザーとキャロルをあやしながら僕らは地面に座り話をした。
「うん、マリナとタックの特訓も見たからね。ルナがどうしているのか気になって」
向かいにはルナが座っており、横にはシーソラスの杖が置かれている。
「それ、上手く使っているみたいだね」
正式にバチルスさんから譲り受けたそれを僕はルナに貸し与えた。
「うん、とても使い心地が良い」
どうやら気に入ってくれたようだ。
「それで私はどうだった?」
「最後の見たことがない魔法だけど中々の威力だったね」
「うん。この前のアークデーモンの攻撃。魔力の流れを感じ取れたからそれを参考に作ってみた」
なるほど、ルナは【大賢者】の恩恵のお蔭で魔力の流れが見えるのだ。それにしてもすぐに再現してみようとするとは器用だな。
「威力で言うならまだ全然だね。カイザーもキャロルもダメージは受けるけどあの程度じゃ戦闘不能にならないよ」
「むぅ……。辛辣」
アークデーモンの魔法に比べると威力が低いのだが、ルナは天才だ。このまま改良を続けていけば恐ろしい魔法に昇華されるだろう。
「そう言えばいつの間にか【転移】も【飛行】も覚えたんだね。2匹とも予想外だったみたいで完全に姿を見失っていたよ」
「まだまだ。転移できるのは10メートルぐらいの距離で精一杯だし、空に浮かぶのも維持するのでやっとだもん」
そう言いつつも頬は緩んでいる。
「ちょ、ちょっと! ルナっていつの間にこんな強くなってたんですか?」
それまで黙っていたマリナが口を開いた。
「うーん、いつからだっけ?」
「さあ? 気が付けばこうなってた」
「複数魔法同時展開。苛烈な攻撃を防御。ありえない破壊力の魔法。おかしいですよねぇ!」
取り乱すマリナにルナは首を傾げると言った。
「多分そのうちマリナもこうなるよ?」
「なるわけないでしょう!?」
ルナの言葉にマリナは突っ込むのだった。
「それにしても、ルナは酷いです。正体を知っていたなら私にぐらい教えてくれてもいいのに」
キャロルのアゴを撫でながらマリナは不満を口にする。
ルナが僕の正体を見破っていたことを知らせなかったのが不満だったようだ。
「まあまあ。僕はルナの約束を守るところが気に入っている。マリナもそうでしょ?」
向こうではルナがカイザーを膝に乗せて頭を撫でている。
「それはそうですけど……。それにしてもこの柔らかさと愛くるしさを独り占めしていたのはずるいです!」
「キャル~」
気持ちよさそうな鳴き声をあげるキャロルを撫でている。どうやら気に入ったようだ。
「私が強くなれば約束なんて守る必要がなくなるとおもったから」
唐突にルナが口を開いた。
「それは……強くなってエリクを超えたら約束を破って私に正体を教えるつもりがあったと?」
その言葉に首を横に振ると。
「エリクに逆らうなんて死んでも嫌」
「では約束とは?」
「私たちがアルカナダンジョンを攻略する約束。最悪駄目なら2人で逃げるつもりだった」
「そ、それは……」
真面目なマリナには思いもしなかった選択だ。
ルナからの提案に悩む様子をみせるマリナに……。
「まあでも大丈夫だと思うよ」
僕は気軽に声を掛ける。
「どうしてそう思うのですか?」
「カイザーもキャロルもSランク相当の強さを持っている。そんな2匹を同時に戦えている時点でルナの力はこの世界でも規格外だ。更に、タックもマリナもここで特訓をすればルナと同じぐらいには鍛えられるだろうしね。そうすればアルカナダンジョンを攻略することも不可能ではないよ」
事前準備をしっかりすれば良いのだ。
「どうしてエリクはそこまで私たちの面倒を見てくれるのですか?」
マリナは瞳を揺らしながら僕に問いかける。僕はそんなマリナに笑いかける。
「そんなの仲間だからに決まってる。仲間の幸せが僕の幸せになってるんだからさ」
「うん。エリクならそう言うよねきっと」
ルナは目を細めると嬉しそうに僕を見つめるのだった。