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試験中に【畑】を育てる

 がやがやと受験生達が行き交う様子を僕はじっと見ている。


 その場は騒然としていて、怒鳴り声からパーティー申請の呼びかけまで混乱した様子が目立つ。


 彼らは周囲と協力して試験を乗り切るために仲間を募集している最中だった。


『マスターは申請しないんですか?』


 そんな中、唯一話しかけてきたのはイブ。


「そもそも、僕に声を掛けるやつがいると思う?」


 先程から目の前を避けて行くのだ。


『うーん。中身を知れば引っ張りだこなんですけどねー』


 何故なら、他の受験生に比べて装備が貧弱だから。

 荷物はザ・ワールドにしまっているので短剣と皮鎧にローブ。


 明らかにやる気の欠片も見当たらないように見えるのだろう。

 恐らくこの場の全員の認識で僕は脱落者1号に見えているはずだ。


 そんな人間をパーティーに誘う酔狂なお人好しが居るわけもない。


「とにかく、この場から離れようか」


 僕はそう言うとその場をあとにした。







『それで、こんな森の中で何をするんですか?』


 他の受験生達がのんびりと仲間を集めている間に僕は人気のない森を進んだ。


「ここらへんで良いかな」


 足元には枯れ落ちた葉が積もっている。僕はそれに手で触れると、


「イブ。ここの腐葉土をそっちに収容してくれ」


『分かりました』


 目の前からみるみる腐葉土が消えていき、湿った土が見えるようになる。

 何故僕がそんな行動を取っているのか勿論意味がある。


「そしたらその腐葉土を【畑】に撒いてくれ」


『わわっ。凄いですよマスター。畑がみるみる成長していきます』


 イブの報告を聞く。どうやら今のところ上手くいっているようだ。

 先日、大きなコアから覚えたスキルの【畑】これは拡張型スキルだった。

 そして、拡張させるための条件というのが肥料を補充することだった。


 王都では森などが存在しないので無理だったが、試験会場の無人島は違う。

 人の手が入っていないから資源は取りたい放題なのだ。


 そんなわけで【畑】を拡張すべくこうして汚れるのをいとわず作業にいそしんでいる。


「あとは何か育てる植物か種を用意できれば良かったんだけどな」


 このスキルは大きなコアに入っていただけあってかなり優秀だ。

 肥料を使って拡張しておけばその【畑】で植物を育てる事ができるのだ。


『畑の中でなら《どんな植物でも》すくすく育つって説明ですから。野菜とか育てれば食料に困りませんもんね』


 無条件で失敗無く育てられるのなら珍しい種でも手に入れて育ててみるとかありかもしれないな。


『それにしても、他の受験生が必死に生き残りをかけて頑張ってるのにマスターは農作業してるなんて余裕ですよね』


 そんな直接的な感想を僕は肯定する。


「まあね。だって、この試験内容って僕に有利過ぎるし」


 受けた時点でほぼ合格確定なのだ。

 数週間分の食糧は既にザ・ワールドの中に用意しているし、恩恵との相性が抜群ときたものだ。


最悪、1週間ずっとザ・ワールドの中に引き籠っておいて、試験終了後に何食わぬ顔で合流すれば良いのだ。


『でも、マスターはそんな事しないですよね?』


 「私わかってますから」とでも言いたそうな態度をイブはする。まだ短い付き合いでしかないのだが、イブは僕の性格を良く分かっているようだ。


 長い社畜生活が染みついている為、急に休めと言われても困るのだ。


「まあ、せっかくの機会だし。試験が終わるまで暇なんだからイブが言うようにダンジョンを巡ったり、売れそうな物を集めたりかな?」


 【神殿】の底上げもしたいし、他の属性のダンジョンコアも入手したい。

 せっかく面白い能力を入手したのだからどれだけ使えるかを検証してみたいのだ。

 試験の事はおいておいてもひとまず自分の能力の地盤を固めておきたいところ。


『取り敢えず【畑】を完全にするにはまだまだ肥料が足りませんよ』


 イブの状況報告に僕は腐葉土を集める作業を再開する。

 それからしばらくするとぽつぽつと小雨が降り始めたので、僕は作業を止めるのだった。

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[一言] お荷物状態の主人公を誘ってくれた幼なじみたちを速攻で切り捨てて一人で強くなっていく主人公がドライ
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