こっそり支援
「それじゃあ、気を付けて行ってきてね」
「おう、任せとけ。一晩寝たおかげか昨日より調子がいいからな」
僕が心配して声を掛けるとレックスは笑って答えて見せた。
まあ、彼に関しては問題ないだろう。体力も完全に回復しているし、昨日よりも戦力が底上げされているのだから。
「それにしてもエリクいいの? こんな凄い装備」
ミランダが誰にも聞こえないように僕の耳に口を寄せる。
「勿論。でも装備の出所は内緒にしておいてよ?」
ミランダの耳を見ると【星屑のイヤリング】が。胸元を見ると【星屑の首飾り】がそれぞれ装備されている。
この2つの装備はアスタナ島でとれる星屑を僕が加工したアイテムだ。
もともと特殊な鉱石である星屑は魔力をため込む性質がある。
そういう鉱石と付与は相性がよく、僕はあまりある自分の魔力とSPをそこに注ぎ込んだ。その結果出来上がったのがこの装備なのだ。
【星屑のイヤリング】は魔法の詠唱を半減させてくれる効果があるし、【星屑の首飾り】はこの2つをセットで装備すると消費する魔力を9割カットしてくれる上、魔力の回復速度も上がる。
これは誰でもできる付与ではなく、僕が最大限の付与を発揮したからこそできる効果だった。
「こんな凄い装備を用意できるなんて……エリクってもしかして王都でも凄い人物なんじゃ?」
「うーん、どうかな? でも今ここにいるのはミランダの幼馴染みの僕だよ」
僕は咄嗟に誤魔化してしまう。
実際、王都では名が売れている方だとは思うが、幼馴染み相手に距離を取られるのは寂しい。特にミランダやレックスに避けられると考えると打ち明けるのにためらってしまった。
「これなら負ける気がしない。さっさとモンスターを討伐してエリクの作る飯を食いに戻ってくるからなっ!」
「うんうん、その意気だけど。無理はしないでね」
レックスには【セーフティーリング】というダンジョンコアに各属性のダメージを半減させる効果を付与した指輪を渡してある。
剣に関してはいきなり装備が変わるとまずいと思ったのでそのままなのだが、夜中にこっそり拝借して鍛え直しておいたので威力が格段に上がっている。
きっと、モンスター討伐の助けとなることだろう。
「そうだこれ、昼食に作っておいたんだ。ミランダに渡しておくから休憩の時にでも食べてよね」
そういって軽食が入った包みを渡しておく。中身はスタミナパウダーとマナパウダーをまぶしたサンドイッチである。
「リーダーそろそろ行こうぜ」
遠くから他のメンバーが呼んでいる。彼らは相変わらず僕を疎ましそうに見ているが、特に絡んでくる様子はない。
「おうっ! そんじゃエリク行ってくるわ」
こうして僕は彼らを見送ると他の人間たちにドーピングをすべく仕込みを続けるのだった。
『うううう、マスター。疲れましたよぉ』
それからしばらく、戻ってくる兵士たちを送り出し終えて手が空いたころイブが話しかけてきた。
(お疲れ様。よく頑張ってくれたね)
イブは僕の命令で前線が落ち着くまでの間ずっと、いろんな場所を転戦していたのだ。
空飛ぶマントで飛び回り、苦戦しているところを見つけては加勢する。
幻惑魔法で透明化しているので同時にいくつもの魔法を使っているせいで疲労もたまるのだ。
『今は何よりマスターのお世話をしたいです。1日に1度はマスターのお世話をしないとイブは死にますよぅ』
何やら本気で弱っているようだ。僕はイブにも休みが必要か考えると……。
(せっかくゴッド・ワールドに戻ったんだ。少しの間なら休憩していいよ)
休憩をとるように促した。
『その前に情報を共有したいです。イブがゴッド・ワールドにいる間じゃないとマスターの動向がわかりませんから』
(そうだね、僕も今なら手が空いてるしざっくり話しておくか)
イブはゴッド・ワールドにいないときは僕の行動を把握することができない。
お互いが認識できる距離なら頭の中で会話はできるのだが、離れているとどのような行動をしているのかわからないのだ。
僕はイブとお互いに見た情報を交換していく。
前線でのモンスター遭遇頻度、敵の強さ。味方の練度。
こちらは送り出す味方の士気や配置についてなど。しばらく情報の交換が終わり、ガイルさんに効率的な配置について改めて話をしようと考えるのだが……。
(そういえば、レッドドラゴン仕留めたんだっけ?)
『はい、マスター。今回の狩りの中でも一番大きな獲物ですよ』
(そのレッドドラゴンは当然回収してるんだよね?)
『うふふふふ、今からマスターの料理が楽しみですよぅ』
嬉しそうに笑っている。無理もない。ドラゴン種の肉は王侯貴族でも滅多に食べられない高級食材らしいのだ。
イブはわりと食いしん坊なところがあるので、料理を味わうのを楽しみにしていた。
(まあその件に関しては落ち着いたら料理するとして、休憩が終わったらまた見回り頼むよ)
『わかりましたマスター。このイブにお任せください』
げんきんなもので、イブは目の前に人参を吊り下げられた馬のように元気を出すとそう答えるのだった。
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