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幼馴染みたち

「まさかエリクがいるなんて思わなかったぞ」


 スープをじっと見ながらレックスはそう呟いた。


「うん、スタンピードが起きたって聞いたからさ。騎士団の人に頼んで連れてきて貰ったんだよ」


「お前……騎士団って。一体どんな生活してたら王国騎士団に伝手ができるんだよ?」


 信じられないものを見るような表情をレックスは僕へと向ける。


「聞いてよエリクっ! レックスったら酷いんだよっ!」


 僕とレックスが話しているとミランダがズボンをぐいぐいと引っ張る。

 久しぶりに見るミランダは身体こそ成長しているのだが、見せる表情は昔のままで落ち着く。


「はいはい、どうしたのさ?」


 ミランダは昔からこういう性格なので僕は彼女の話を聞くことにした。


「私たちのパーティーは前線にいたんだけどさ。そこで周囲をモンスターに囲まれたの」


「お前っ! それをエリクにいうなよっ!」


 レックスが慌て始めた。


「ミランダ続きを頼む」


 僕はその様子を聞いてミランダに続きを促す。


「私も魔力が尽きてたし他のメンバーも戦えなかったから全滅を覚悟したの。そしたらレックスが『お前たちだけでも逃げろっ!』って……そう言ったの」


 言いながら悲しくなってきたのかミランダは顔を伏せてしまった。


「……なるほど。それは……レックスが悪い」


「なっ! エリクは俺の味方じゃないのかよっ!」


「たとえ世界中が敵だとしても僕だけはレックスとミランダの味方だよ」


「エ、エリクぅ……」


 きっぱりと答えるとミランダが瞳を潤ませて僕を見上げていた。

 僕は彼女の頭を優しく撫でる。幼いころからこうすると落ち着いた。


「だけどね、君たちは僕にとってかけがえのない家族だからこそ命を落としてほしくないんだ。だから僕は君たちが自分の命を蔑ろにするなら賛同できないよ」


 僕は真剣な表情でレックスを見る。


「だったらどうすればよかったんだ? あのまま全員で戦って全滅するのが正解だったと?」


 その質問に僕は首を横に振る。


「その前に撤退できる場面があったんじゃないか? 出発前の下準備だって。もっとポーションを用意しておくこともできた。リーダーは皆の命を預かっているんだよ? 死んだら何もできなくなるんだ。なら安全を徹底するぐらいしなきゃ」


 ここであえて苦言をレックスにぶつける。

 彼ならば身になると思ったし、何より絶対に失いたくないからだ。


「うぐっ……確かにその通りだけどよ。仮にお前が同じ立場になったとしたらどうするんだよ?」


「僕? 僕がその立場になったら…………」


 そうなる前に対処するつもりだが、不測の事態はいつだって傍にある。僕がもしそうなったら……。


「……やっぱりレックスと同じようなこと言うんじゃないかな?」


 僕は悪戯な笑顔を2人に向けるとそう言った。







「リーダー。なんなんだそいつ。さっきから偉そうに」


 僕らの会話が落ち着くと、レックスのパーティーメンバーの1人が僕を睨みつけていた。


「こいつはエリク。俺達とは幼馴染みなんだよ」


 レックスが僕のことを説明すると……。


「そいつ、使えない特殊恩恵を得たやつでしょう? 恩恵の儀式で凄い光を発したけど使えない恩恵だったって聞いてますよ」


 他のメンバーも僕に険しい視線を向けている。

 どうやら僕の恩恵の真実については伝わっていないらしい。


「あ、あんたたちエリクを馬鹿にしてるんじゃないわよっ! エリクはねっ! ギルドから推薦状をもらって王都のアカデミーに合格したんだからっ!」


「はっ、こいつが? だったらなんで給仕なんてしてるんだよ! 俺達に飯を作ってる暇があるなら剣を持ってモンスターと戦うべきだろ! それができない時点でこいつは臆病者だっ!」


 何やら不愉快にさせてしまったらしい。

 レックスに向けての苦言だったが、彼らはレックスの力を認めているのだろう。ぽっとでの人間がレックスに駄目出しをしたのが気に入らなかったのだろう。


「僕も言い過ぎたようですね。申し訳ないです。だけど、僕だって街を守りたいという気持ちは本物です」


「ちっ……こんなことならあのすげえ力を持ったあいつを勧誘しておいた方がよかったんだよ」


 素直に謝ると思っていなかったのか、毒気を抜かれた彼は僕から目をそらすとそんなことを言った。


「そうだエリク。私たちがモンスターに囲まれた後なんだけどさ。レッドドラゴンが現れたんだよ」


「それは……なんでAランクモンスターがそんなところに?」


「わかんないよ。それでね、私たちに襲い掛かろうとしたの」


 背筋から汗が伝う。まさかそんな状況になっていたなんて聞いていないからだ。


「私たち完全に身体が動かなくて、このまま噛み殺されるんだって覚悟をしたらさ。空から大きな槍が降ってきてレッドドラゴンを突き破ったの」


「へ、へぇ……」


 それには心当たりがある。僕が現在SPを注ぎ込んで作っている神器クラスになる予定の武器【神槍グングニル】だろう。


 イブにはゴッド・ワールドにあるものはなんでも使ってよいと言ってあるので使ったのだろうが……。


「それで、そのレッドドラゴンはどうなったの?」


「それがさっ! その人あれだけ重そうな槍をブンブンと振り回してさっ! あっという間にレッドドラゴンを倒しちゃったんだよ!」


「なるほどね」


 どうやら武器の威力に問題は無かったようだ。Aランクモンスターを苦にしないというのなら威力は本物のようだ。


 僕は自分の武器の性能に満足していると。


「それで、レッドドラゴンの死体はどうしたの? その場に置き去りになってるのかな?」


「それがさ、なんか倒しちゃったと思ったらあっという間にレッドドラゴンの死体が消えちゃったの!」


 ミランダは大げさに手を広げるとそう主張して見せる。


「だから幻覚か何かだったんだって。俺たちの恐怖心がありもしない幻を見せていたんだよ」


「でも、だったら周囲の低級モンスターが逃げ出した理由は? あれが幻ならそんな行動取るわけないでしょ?」


 言い争いを始めるメンバーたち。


「それでその女の子は?」


「結局、私たちが混乱している間にどこかに行っちゃった。しかもポーションを大量に置いていってくれたの」


 そのポーションで回復してここまで戻ってきたという。


 イブにはできる限り苦戦しているパーティーに加勢するように言ってある。

 今回は何が何でも街までモンスターを届かせたくないので、支援を惜しむつもりはない。


「いずれにせよあんな可愛い子だったら俺たちのパーティーに是非入って欲しいところなんだけどな」


 レックスの冗談なのかわからない言葉に。


「そうだね。僕も見てみたかったよ」


 僕は場の空気を変えようと相槌を打つのだが……。


「も、もうっ! レックスもエリクも馬鹿っ!」


 そんな僕らを小突くとミランダは頬を膨らませるのだった。

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