王国管理のアルカナダンジョン
「ルナ、もう一度言ってもらえるかな?」
聞き間違いかと思った僕は、再度ルナに質問した。
「この3つのアルカナダンジョンについてなら私はエリクより詳しい」
「僕はこれでも機密図書を漁ってこの情報を得ている。ルナはそれよりも詳しいと?」
僕は疑わしそうな視線をルナへと向ける。すると……。
「……だって、私とマリナの国だから」
「えっ?」
そう言われて見てみると、確かにそこには彼女たちの国名がしっかりと書かれていた。
「確かに……。ルナさんとマリナさんの母国ですね。マスター気付かなかったんですか?」
イブからやや冷めた視線が向けられる。
「エリクは肝心なところが抜けてるから仕方ない」
「くっ……否定できない」
調べるときはアルカナダンジョンの詳細にばかり注目しており、場所の情報については記載して後で検討するつもりだったのだ。
「それにしても、なぜこの3つのダンジョンは王家の管理なんですかね?」
イブは不思議そうにアゴに手を当てると首を傾げた。
「もしかして、アルカナダンジョンは王家と深い繋がりがあるのかも?」
僕はとっさに思いついたことを口にする。
アルカナダンジョンの言い伝えに『神が与えた試練』となっている。
もしかすると王族にはこの世界の神からなんらかの啓示があったのではないか?
僕はルナにそんな推論を述べて見せるのだが……。
「違う。国として自分たちの領土にあるから管理しているだけ」
確かにアルカナダンジョンは放っておけば大勢の犠牲者を出す。
国にしてみれば自分の領土で無駄に犠牲を出したくないのだろう。
実際、入り口は厳重に管理されているらしく、一般人の出入りはできないようになっているとルナは言葉を続けた。
「なるほど、どの国もしっかりとしてるんだな……」
僕は尊敬の眼差しでルナを見ると……。
「実際にはアルカナダンジョンで得られるレアアイテムを独占しているだけだけどね」
「……尊敬して損したよ」
僕は白い目でルナをみるのだった。
「ルナさん。どんなレアアイテムが採れるんですか?」
ところがイブは興味津々らしく目を輝かせるとルナに詰め寄っていた。
「シルバーロード王国が管理しているアルカナダンジョンからは【月の欠片】がマリナのところからは【太陽の欠片】が採れる」
「へぇ……それは、市場にも滅多に出回らないレアアイテムじゃないか」
話に聞いたことがある希少なアイテムだ。
僕が現在管理しているダンジョンの【星屑】と同様に光を浴びて輝く鉱石らしく、魔力を吸収しやすいことから触媒に使われたりする。
付与を施したアクセサリーは人気が高く、相当な利益が見込めるという。
「それって僕らが入るのは厳しいんじゃないかな?」
ふと思いついたので聞いてみると……。
「うん、王家が雇った人間しか入れない上に、ドロップ品は王国の物だよ?」
「……それじゃあ意味がないな。せっかく攻略してもコアが手に入らないんじゃな」
僕が欲しいのはあくまでアルカナダンジョンのコアだ。
それが手に入らないのなら攻略する意味がない。
「どうしたんだ。ルナ?」
よく見るとルナが口を大きく開いてこちらを見ていた。
「いや、攻略できるのが当然みたいに言うから」
「去年だって攻略して見せただろ?」
あれから1年間努力を重ねてきたのだ。今の僕ならばアルカナダンジョンを攻略できるのではないかと考えている。
「そ、そっか……やっぱりエリクは凄いね」
先程と違って、逆に尊敬の眼差しで見てくる。そんなルナに僕は何と返事するのが正解なのか考えていると……。
「結局、王家が独占しているんじゃ意味が無いですよ。どうするんですか? 強行突破しちゃいますか?」
「強行突破するのっ!?」
あまりに強引な話にルナは大きく目を見開く。信じられないものを見るようにイブを見ていた。
イブの非常識な態度が混乱させるのだろう。
いくら親しいとはいえ、ルナも自国の利益を損なわれる行為は避けて欲しいに違いない。
ここは僕がしっかり手綱を握っていることをアピールしておくか。
「イブ。その考えは間違っている」
「エリク」
信じていたとばかりに僕を見上げるルナに笑顔を向けると言った。
「強行突破をするのは最後の手段だろ? その前に試すべき方法があるじゃないか」
「流石です! マスター」
「………………この二人。駄目かも」
「さて、冗談は置いておいてだ。取り敢えず王国が独占しているダンジョンは後回しだな」
「……本当に冗談?」
疑わしそうな目を向けてくるルナから僕は視線を外す。
「まあ、時間が経てば状況も変わるかもしれないし、ルナが何とかしてくれることを期待して他のアルカナダンジョンの話をしよう」
「モカ王国のアルカナダンジョンはどうですか? 近いですし、アレスさんやエクレアさんはマスターのお願いを断らないのでは?」
イブは唇に手を当てるとそんな推測を述べた。
「いや、あの二人は絶対反対するに決まってる」
「どうしてですか?」
「んー、なんていうか妙に過保護なところがあるんだよね。遊びに行くたびに『元気にしているか?』『お小遣いは足りてる?』『勉強にはついていけてる?』って言われるし」
「それはもう身内では?」
ルナが首を傾げている。僕としてもこれは何かおかしいと思うのだが、実の娘のアンジェリカがそんなやり取りをにこにこしながら見ているのだから、異を挟めないのだ。
「まあ、確かにそんな感じでこられたらアルカナダンジョンに潜りたいと許可を貰いに行っても承諾されないかもしれませんね」
「そういえば、モカ王国のアルカナダンジョンからはどんなレアアイテムが出るんだ?」
長くこの国に住んでいるが、特産と言えるような物は見たことがない。
【月の欠片】や【太陽の欠片】みたいなものが存在しているのだろうか?
「ううん、この国のアルカナダンジョンは特殊だから。どちらかというとアスタナ島に近い」
「ほほう。というと?」
「入り口が一定時間ごとに開閉するタイプ。それで中は奥に進むと強力なモンスターが現れるらしい」
「へぇ。でも何かドロップとかメリットがないなら誰も入らないんじゃ?」
「これは父から聞いた話だけど」
「うん」
「モカ王国のアルカナダンジョンには洗礼を受けられる儀式場があるらしい。王家の人間は代々そこで洗礼を受けることで王位を継ぐ資格を得るとか」
「だから、実際にアルカナダンジョンが使われるのはその時ぐらいらしい」
「その洗礼ってどうして受けるんですかね? 後を継ぐための試練みたいな感じなんでしょうか?」
イブも気になったのか聞いてみるのだが……。
「なんでも、洗礼を受けた人物にはそれに見合った魔法具が神から与えられるらしい。王家の人間は代々手に入れた魔法具を片手に凱旋するらしい」
魔法具を生み出すダンジョンか。それはそれで王家の人間が利用したがるはずだ。
「ふーむ。それならまだやりようがあるな」
「どうするんですかマスター? やはり強行突破ですか?」
「なぜ、強行突破したがるんだ? 単純な話、アンジェリカが王位を継ぐときの儀式に護衛として雇ってもらえばいい。そうすればアルカナダンジョンに入ることができるだろ?」
「それで入ったからってどうにかなるわけじゃあ……ってそういうこと?」
ルナが何かに気づいた様子で驚いて見せる。
「どういうことでしょうか?」
イブが首を傾げるとルナは説明を始めた。
「エリクには転移魔法がある。だから一度入れさえすれば出た後でもこっそりと入り込むことができる」
その通り。だから強行突破は最後の手段にしても合法的に一度侵入させてもらえばことが足りる。
「そういうことだから。今は他のアルカナダンジョンのうち、何処から回るべきかの相談と、隠されたアルカナダンジョンを探す方法について考えるとしようか」
僕は話を締めくくると二人に続きを促すのだった。