新機能【ダンジョン作成】の解放①
「いよいよマスターにはゴッド・ワールドの真の機能について説明しようと思います」
あれから食事を終えた僕は、イブによってとある部屋へと案内された。その部屋の壁には窪みがあり何かが嵌っていたようだ。
「ゴッド・ワールドの真の機能?」
「イエス! マスター。その通りですよ」
イブは伊達メガネをかけると女教師のように言って見せる。
「ゴッド・ワールド内に複数存在するこの部屋は、ある目的の為に在るのです」
「その目的というのは?」
僕が質問するとイブは真剣な瞳を僕に向けた。
「【ダンジョン作成】ですよ。マスター」
「ダンジョン……作成?」
おうむ返しに問うとイブは説明を続ける。
「アルカナコアを取り込むことでザ・ワールドの機能の一部が解放されました。今回解放されたのは【ダンジョン作成】という能力です。これはゴッド・ワールド内に自由にダンジョンを作る機能です」
「ダンジョンって作れるのか?」
あまりにも予想外の説明に僕は驚きを浮かべる。
「普通の人間には無理ですけど、マスターには可能です。イブがついてますからね」
「ダンジョンを作るのってどうやるんだ?」
これまでの恩恵とは一線を隔する能力だ。僕は喉をならす。
「ダンジョン作成に必要なものは二つあります。一つはダンジョンを形作るコア。もう一つは【ソウルパワー】です」
「ソウルパワー?」
聞き覚えのない単語に首を傾げる。
「まずマスターにダンジョンの基礎知識を説明しますけど、なぜ人はダンジョンに挑むのだと思いますか?」
「それは、モンスターを倒した後のドロップやお宝が目当てだろう」
「その通りですね。人間はダンジョンに一獲千金を夢見て挑むのです。ではなぜダンジョンはお宝を用意してまで人間を引き付けるか、わかりますか?」
「たしか……人間が入ることでダンジョンは成長する事が出来るからだっけ?」
アカデミーの授業で習った。
この世界でダンジョンが生まれる理由としての定説だ。
「正解です。ダンジョンはそこで過ごす生き物からソウルパワーというエネルギーを吸収して育つのです。そして育ったダンジョンは強力なモンスターを召喚したり、構造を作り変えて層を深くしたり。危険なトラップを用意したりして侵入者から身を守るのです」
「……なるほど」
「とはいっても吸い取るソウルパワーはそれほど多くありませんよ。入って体調不良になる程に吸ってしまうと誰もダンジョンに入ってくれなくなりますからね。ダンジョン側にしてみればよりたくさんの生物にダンジョンに滞在してもらうのが目的ですから」
「そのソウルパワーって単に人数を集めれば簡単に得られるのか?」
もしそうならば駆け出し探索者が大挙で押し寄せる事でダンジョンが成長してしまうだろう。
「ソウルパワーは強い人からの方が多く集められます。なので強い人が大勢で挑むようなダンジョンはそれだけ速く成長する事ができるんですよ」
なるほど、そう言う事だったのか。そうなるとアルカナダンジョンとかは相当なソウルパワーをため込んでいたという事だろう。
なにせ、挑んでくる人間をすべて返り討ちにしていたのだから。
「とりあえずマスター。使ってないダンジョンコアをここの窪みに嵌めて下さいな」
「じゃあ……水のランクⅡのダンジョンコアでも」
僕は手持ちの中で重複しているダンジョンコアを取り出すと窪みに嵌めてみた。
「ではあとはイブがソウルパワーを注入しますね」
イブがコアに手をかざすと、何やらイブの身体が光り始めた。そんなイブを暫く見つめていると……。
「うわっ!」
ダンジョンコアがはめ込まれた壁が動いたのだ。
壁は何かから逃げるように奥へと吸い込まれていき、振動が部屋全体に伝わる。
やがて振動が収まると、目の前にはいつも見ているかのようなダンジョンの入り口らしきものが出来上がっていた。
「それじゃあマスター入りましょうか」
僕が興味深く見ているとイブが奥へと誘ってくるのだった。
「これは……水のダンジョンだな?」
中に入ると涼しさを肌で感じる。
洞窟の両側には水が流れており、以前探索して攻略した水のランクⅡダンジョンが再現されていた。
「ええ、今回はひとまずコアの記憶を読み取ってダンジョンを再現してみました。ですが、マスターにはダンジョンをカスタマイズする権限がありますので自由に弄ることができますよ」
「どのぐらい弄れるんだ?」
僕の質問にイブは答えた。
「部屋の配置や壁や床の材質。拡張できる広さは現在のコアのレベルによって変わってしまいますが、基本的にマスターが保有するコアから構造の記憶を引っ張り出せるので、今まで攻略したダンジョンにあったものは全て配置できますね」
つまり、ダンジョンを攻略してコアを手に入れるたびに壁やら床やらの材質を増やすことができるらしい。
「ダンジョンを作るのにソウルパワーが必要っていっただろ? 今回どうやってダンジョンを作ったんだ?」
「それに関しては元々保有していたソウルパワーがありますので」
イブはそう呟くと間髪入れずに指を立てると言ってきた。