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アスタナ島

「えー、アスタナ島を代表して多くの国から集まった将来有望な学生である諸君の滞在を歓迎します」


 広い敷地に僕らは整列しながら話を聞いている。

 壇上で挨拶をしている老人はこの島のトップらしい。この島はどの国にも属さず独自の運営方法をとっている。

 選挙によって選ばれた人間で協議をして島を取り仕切っているのだ。

 国家に属さずにそれでもやっていけているその根拠はダンジョンの生成数が圧倒的で、どこかの国が所有しようものならその国の経済が一気に上昇し各国のバランスが崩れてしまう。


 そうなると、他国はその国に対して連合を組んで対抗することになる。

 自分の国土に出来ないのならまだ自由に出入りできる自治島の方がまし。

 そんなわけで、近隣の国全てがアスタナ島を真ん中においてにらみ合いをしている状態だ。


 アスタナ島を運営している人間達もそのことを良く知っているので、毎年各国から優秀な生徒を旅行に招待するなどして友好関係を築いているのだ。


「過去数百年の各国の争いの後に始まったこの交流会ですが――」


「ふぁ~~ぁ」


『マスター偉い人が話しているのに行儀が悪いですよ』


 壇上では相変わらず老人が島の歴史について話をしているのだが、そんなことはスルーだ。


(仕方ないだろ、楽しみであまり寝ていなかったんだから)


 なんせ『南の島』で『バカンス』。

 更には『学生時代』に『青春』だ。


 前世で僕は夏休みに皆と海に行って騒いだ記憶がない。

 色々な事情があっていけなかったのだが、決して興味が無かったわけではない。

 そういったイベントを楽しそうに話しているのを羨ましそうに見ていたきがする。


『それにしたって、ちゃんと話を聞かないと後で困りますよ?』


 イブの窘めるような言葉を聞きながらも僕はビーチでの光景を想像するのだった…………。





「えっ? もう一度言ってもらえませんか?」


 僕は同室になったアーク先輩に聞き返す。

 あれから長い挨拶が終わり僕らは島が用意する宿泊施設へと案内された。


 各国から人が集まるだけあってそれなりに豪華な造りとなっているホテルだが、全員に個室をあてがう余裕は無いらしくアカデミーは2人1部屋だ。


 部屋についた僕は早速でかけるつもりで動きやすい格好に着替えようとしたのだが…………。


「だから、今日はこれからオープニングパーティーで明日からは熟練の冒険者や探索者、その他招待されてる各分野のプロに技術を学ぶ授業の予定だろ?」


 なんでも、今回の招待旅行は各国から集まった優秀な生徒達に各国から集まった一流の指導者が授業を行ってくれるものらしく、滞在期間の数週間はどの分野の授業でも受けることができるらしい。


「ちなみに俺らはアカデミーの代表できてるんだからそれなりの結果が求められるからな?」


 アーク先輩曰く、この招待旅行の倍率は高いらしい。

 アスタナ島は冒険者や探索者の最終目標らしく、学生の内にその場の雰囲気を体験できるのと出来ないのでは卒業後の進路に大きな影響を及ぼす。


「それにここで目立てばアスタナ島から『D級ライセンス』を貰うこともできるみたいだしな」


「なんですかそれって?」


 聞きなれない言葉に僕はアーク先輩に質問をする。


「このアスタナ島はダンジョン生成の6割を誇る、いわば湧き出る物資の宝庫みたいな場所だろ?」


「……ええ、まあ」


 まるで僕のことを言われているようなたとえに微妙に頷いておく。


「だから島への入島制限があるんだよ。基本的に各国の探索者ギルドで実績を積んだ人間しか入島を認められていない」


 昔は誰でも無条件で受け入れていたらしいのだが、そのせいで初心者やらが入島しては無謀にもダンジョンに挑んではその地で散って行ったらしい。


 島に渡るにしても船を動かすのも無料ではない。行きは乗り切れない程の探索者が戻る頃にはガラガラ。

 更にダンジョンから産出されるレアアイテムのドロップアイテムやダンジョンコアの収穫もない。

 これを問題と思った運営側は実力のある人間以外をシャットアウトすることにしたのだ。


「そんな訳で、この島で正式に行動をするにはライセンスが必要になる。これは各国の探索者ギルドのギルドランクとは別枠でな。この島での貢献度に応じてランクが上がって行く仕組みなんだ」


 なので、この島に滞在している探索者達は必死にダンジョンに潜ってはライセンスのランクをあげようとしているらしい。

 だからこそダンジョンコアやレアアイテムを誤魔かすことなく収めているのだとか……。


「なるほど……。今頑張れば運営からライセンスがもらえるから皆真面目に授業に出るってことなんですね」


 そうなると僕としても手は抜きづらい。

 アカデミーの他の生徒を蹴落としてここにいる以上、戻った時に日焼けしていて「ずっと遊んでました」というのは流石に気まずい。


「ちなみに授業ってどんな感じなんでしょうかね?」


「んー。基本的には実戦形式らしいぞ、1日1分野を選べるらしくて午前で座学をして午後の実技で一定の実力を示せば単位が貰える」


「単位ですか?」


「さっき受け取っただろ。このカード」


 そう言ってアーク先輩が見せてきたのは1枚のカードだった。

 探索者ギルドや冒険者ギルドでも見たようなカードだが表面のデザインが違う。


「実技で文句なしの成績を収めた人間には講師から単位が貰える。全部で20はあるらしいが、俺達学生だと得意分野をせいぜい3つクリアできれば上出来だろうよ」


 なるほど。剣技や格闘技などの授業もあるようでアーク先輩はそちらの授業を受けるつもりらしい。


「いくつクリアすればそのライセンスって手に入るんですかね?」


 僕はそんなアーク先輩に最短ルートに関して質問をするのだが……。


「6つだな。武芸、魔法、生産、補助の中から6つをクリアすればいい。ただし全部が武芸とかじゃダメだな。剣技・槍技・格闘術と取れたとして4つ目は補助の罠感知とか」


 なるほど、1つの分野でなら身体能力や魔力に物を言わせて突破できなくはないが、それだと実戦で探索者をやる時に汎用性がないということか。

 他のダンジョンならばいざしらず、ここアスタナ島のダンジョンは難易度が全体的に高めらしい。なのでお互いを補助できるスキルも求められているとか。


 そこまで聞いたうえで僕は結論を出す。


(つまり、ライセンスを6日で取得すればあとは遊んでも良いってことだ)

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