7 朝
結局、明け方近くまで二人で飲み続ける。何の話をしていたわけではないが、愉しい時間を過ごしたわけだ。
「わたしので良かったら、パジャマを使う……」
「ありがとう」
「襲わないでよ」
「いや、それはない」
「さっき思ったけど、似たような体形だよね」
「いや、そっちはマッチョでしょ」
「服を着たら同じだよ」
「でも脱いだら違う」
それで服の脱ぎっこを始める。
わたしもケイも互いに気づいたことを明かさない。が、既に相手が気付いていることを知っている。
「わっ、ケイの筋肉、凄い……」
「メグは色が白いな」
「触ってもいい」
「どうぞ」
「じゃ、ちょっとだけ……。で、わたしの肌も触る」
「そうだな。せっかくの機会だから……」
それでケイがわたしの腹に手を伸ばす。
「どう……」
「それなりに筋肉あるじゃん」
「EMS(電気筋肉刺激機器)を使ってるから……。身体を動かすのは苦手……」
「でも、動かすんでしょ」
「一度崩れた体形は簡単には戻らない」
「若いから平気でしょ」
「油断大敵……」
「で、これから、どうする……。一緒に寝る。おれ、狭いのが嫌いだから、ベッドはダブルなんだ」
「寝るだけなら、全然オッケーですよ」
それで、ケイとわたしが同じ布団に入る。状態だけなら同衾だ。当然かどうかは知らないが、わたしはケイに欲望を感じない。それはケイも同じだから、わたしたち二人、異性同士は同じ布団で寝られたのだ。
それでも緊張がないわけではない。が、それは子供の頃の初めてのお泊りで味わった感覚に近いかもしれない。
改めて眺めれば、ケイの顔は綺麗だ。けれども、ケイは自分の綺麗な顔を気に入っていないような気がする。もっと武骨になりたかった、と思っているような気がする。
わたしはケイより綺麗でも可愛くもない。残念ながら、それは客観的な事実だ。ただし、その判断基準はわたしにある。
あのナイトクラブの怖い男は、わたしのことを、可愛い、と言った。だから、ある種の人間にはそう見えるのだろうが、わたし自身は自分のことを可愛いとは思えない。
心から思いたい、というのに……。
が、果たして、それは万人に望むことなのだろうか。わたしは自分の心に訊ねてみる。例えばケイは無理だが、ケイのような一人の人間に想って貰えば十分なのではなかろうか、と……。
いや、いや、いや……。
判断基準はわたし自身なのだ。わたし自身が自分を可愛いと思いたいのだ。だから、その感覚を得るためには多くの人間が必要だ。
何時まで、わたしはそんなことを考えていたのだろう。いつの間にか寝入ったようだ。
起きたのは翌日、日曜日の十時近い。
「よく眠ってたね」
パンクロッカーのメイクを落とした顔でケイが言い、
「お恥ずかしい」
と、わたしが答える。
「何か、食べる」
「お腹、ペコペコ」
「じゃ、顔を洗って……。シンクは、そこ……」
「わかった」
「ホテルの歯磨きをくすねてきたのがあるから歯も磨けるよ」
「用意が良いね」
「単なる偶然……」
「そんなことないでしょ」
ケイが作ったブランチは定番の卵焼きではなく法蓮草の炒め物だ。それ以外は玄米ご飯とお味噌汁と漬物……。
「パン食じゃないんだ」
「自分で作るならパンでもいいけど、日本のパンは砂糖の塊だから……」
「なるほどね。で、わたしは肉を食べない。……って、牛と豚と鳥を食べないって意味だけど。魚は食べるから……」
「何で……」
「ケイならわかるかもしれないけど、肉を食べると汗が臭くなるから……」
「あれ、不思議だよね。魚だって、大豆だって、同じ蛋白質で同じアミノ酸なのに……」
「肉そのものじゃなくて、脂がダメなんじゃない」
「脂身を好んで食べる人は珍しいでしょ。メグだって、肉を食べていたとき、好んで脂身を食べなかったんじゃない。それでも汗は臭った」
「確かにね。でも、魚や大豆だと臭わない。それでも夏は、暫くお風呂に入らないと臭ってくる」
「いや、それは別の話だから……」
ケイと話すのは愉しい。似た者同士は互いに嫌うタイプもいるが、わたしたちは違うようだ。