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わたしの場合は単に自分が可愛く見られたい、あるいは自分が可愛いと信じたい、と思っている人間なだけだ。そうなってしまった詳しい要因を探ったことはないが、子供の頃、お婆ちゃん子だったことが関連するかもしれない。わたしには六歳年の離れた妹がいるが、それまでは一人っ子だ。その期間、わたしは祖母の玩具として暮らす。具体的には、踊りを習わせられる。何故か、女の子として……。
口では言わなかったが、わたしの祖母は女の孫が欲しかったのかもしれない。
踊りを習っている時間、わたしは女の子として時を過ごす。特に厭だった記憶はない。学校の知り合いがその場にいたら、話は違ったかもしれないが……。
子供の帰属意識ははっきりしている。だから、女の格好をしている自分を見られたら、わたしは虐められたかもしれない。いや、意外と虐められなかったかもしれないが、自分の中で凄く厭な想いをしたはずだ。
事実、成長するに従い、わたしは女の子として過ごす時間を厭だ、と感じ始める。そのうち祖母の関心が、わたしの妹に移り、わたしは毎日を男として過ごすようになる。それ以来、わたしは女性になろうと思ったことは一度もない。
それは事実だが、自分でも気づかず、封印してしまったこともあったようだ。つまり、可愛いモノが好きな自分を……。
自分は男なんだから、可愛いものが好きなのは間違っている……と、そこまで思い詰めた記憶はないが、わたしは可愛いモノを無意識のうちに避け始める。以来、それがずっと続く。
大学に入り、他校の学生だったが自由過ぎる人間を何人も見かけ、わたしの中で何かが変わる。つまり、可愛いモノが好きでもいい、と自分の認識が変わり始めたのだ。その先にあるのが、自分が可愛く想われたい、という一般的男性としては錯綜した想いだとは、当時、わたしは気づきもしない。自分が可愛くないから、代償として可愛いモノに入れ込むのだ、と気づくのはずっと後だ。
もちろん可愛いモノを好む気持ちは人それぞれだろう。が、わたしの場合は、そんな認識だったようだ。
男性の姿をしたわたしに興味を抱く、況してや可愛いと思う人間はいない。が、女性の姿をしたわたしはSNSで数千人の男性(と少数の女性)を惹きつける。その中には、あらゆる国の男(と女)たちがいる。外国の人たちには日本人が珍しいから、わたしが男性だと見破ることができなくても不思議はない。が、日本人の場合でもそうなのが、わたしを戸惑わせる。
もちろん、ある種の人たちは一瞬で、わたしの正体を見破る。日本人でも、外国人でも、それは同じだ。SNSで最初に誘われたグループが、その人たちのファッションショー……というか、写真及び動画自慢だったのが、今では笑える。そこには綺麗な人たちが大勢おり、わたしは特に羨ましくは想わなかったが、そういう世界もあったのか、と認識を改める。が、そこは、わたしがいる世界ではない……という認識は動かない。
わたしは普通に男で、好きになる対象は女性なのだ。稀に男を見て、格好いいな、と思うことはあるが、それくらいだ。一言で説明すれば、自分を可愛いと想いたい、頭の可笑しなマイノリティーというわけ。
一方、ケイはそうではない。ケイの身体は女性だが、男性として女性を好きになる。頭の可笑しなわたしとは本質的に異なっている。だからケイは、そちらの世界の人間だ。が、まだ完全に想い切れてはいないようだ。
もちろん、ケイはそんなことを口にしない。が、わたしにはそれがわかる。いや、本当は、わかっていないのかもしれないが、わたしは、そう感じる。
ケイと再会した週末、わたしは質素な服を着、ケイの部屋を訪れる。電話番号を知らないから事前の連絡ができず、どの時間帯に訪れればいいのか、あの朝、わたしは真剣に悩む。が、遅い時間帯に行けば、ケイを待たせることになる、と気づき、慌てて服を着替え始める。それで朝の九時にケイの部屋のドアの前まで来てしまう。寝ていたら起こすことになるな、と暫し躊躇うが、女性の姿をしているわたしには何故か躊躇いが少ない。それで、ケイの部屋のチャイムを押す。中で人の動く気配がする。
「メグ、早いね。まあ、上がって……」
ドアの隙間から顔を出し、ケイがまるで昔からの友だちのように、わたしに言う。
「お邪魔します」
「お邪魔されます」
「やっぱり早かったかな」
「メグのことだから、早い時間に来ると思ってたよ」
「そう」
「で、お土産とかはないの……」
「えっ、頭に思い浮かびもしなかった」
「それも、メグらしいな」
「絶対、馬鹿にしてるでしょ」
「いや、事実を述べただけ……」
「酷っーい……」
「まあ、座って……。何か、飲む……」
「何があるの……」
「水、野菜ジュース、ウーロン茶……。淹れるならコーヒー、紅茶。お望みならウィスキー、バーボン、焼酎……」
「さすがに、お酒はいらない」
「じゃ、何を……」
「紅茶かな」
「それなら、お湯を沸かすよ」




