10 遭
ケイと再会したのは、二月近く経ってからだ。
それは、女性のわたしと男性のケイとの再会ではなく、男性のわたしと女性のケイとの再会だ。そのとき、わたしはメグではなく朝比奈恵で、ケイもケイではなく天沢圭加……。
ケイの勤める会社でケイと出遭い、
「うそ、この会社の人だったわけ……」
わたしが驚き、
「こっちこそ、吃驚ですよ」
同様にケイも驚く。
「何だ、きみたち知り合いだったの」
一緒に営業にまわっていた、わたしの上司が問い、
「偶々ですけど……」
と、わたしが答える。すると、
「若い人はいいよね」
と、わたしの上司がボケるので、
「仰っている意味が分かりませんよ」
と、わたしが笑顔で窘める。
社会人としてのわたしは3D‐CAD(3次元コンピュータ支援設計)などを扱う企業の営業マンで、ケイはそれを実際に使う設計者だったのだ。
ケイと再会した場所はケイの会社の会議室。わたしの会社が開発した新型ソフトの販路を拡大するため、ケイの会社にも連絡を入れ、受け入れられたので、説明に訪れたわけだ。ケイの会社の参加者は三人。わたしたちの方は二人。ケイの側の人間はいずれも機械設計が仕事の人たちで、女性はケイ一人。しかも、ケイが一番若い。
「知り合いなら、話は早いな。では朝比奈くん、説明を始めて……」
名刺を交換すると早速、わたしの上司がわたしに命じる。それで、わたしが新型3D‐CADの説明を始める。
3D‐CADとは設計に伴う手作業での作図を自動化するソフトのことだ。これを利用すれば、エンジニアは設計対象を立体化できる。また設計したものが視覚化されるので、他の専門家と視点を共有できる。
仕事モードに入れば、ケイと再会した驚きは薄れる。が、なくなることはない。
しかし、予想外の展開だ。まさか、平日にケイと再会するとは、わたしはまったく思っていない。
「それで、こちらの機能は……」
ケイたち社員への説明は、わたしたちが持ち込んだPCで行う。そうしないと、わかり難い……というより、わからないからだ。また3D‐CADの説明は設計の知識がないとできない。わたしは大学のとき、趣味で設計ソフトを少し齧る。それが就職の際に役立ったのだから不思議なものだ。今は会社でソフトの営業をしているが、いずれ転職するときには設計者を狙ってみたい、とも考えている。
凡そ三十分かけ、大まかなソフトの説明を終え、ついでケイたち三人の社員に、実際にソフトを扱ってもらう。ケイの番がまわって来たときは妙な気分だ。
「このキーで対象を分離または統合できます」
「この例だとパーツが少ないですけど、多くなってきたらPCが重そうですね」
「はい、確かに……。弊社で扱っているハイスペックPCでないと固まります」
「2次元CADの情報は変換できますか」
「互換性があればできますが、数は限られます」
「やっぱり書き直しになるんでしょうか」
「今までは2次元CADをお使いで……」
「いや、両方ですよ。ソフトが更新されても、PCがそのままなので重くって……」
「ああ、わかります。それで弊社の製品を……」
「御社からご連絡があり、それで調べたところ、評判が良かったので……」
「ありがとうございます」
結局、二時間くらいで製品の説明会(デモ=デモンストレーション)を切り上げる。
「それでは、宜しく、ご検討をお願いいたします」
最後に、わたしの上司がケイたち社員に挨拶し、わたしは台車でPCを運び、ケイの会社を去る準備を始める。その際、
「手伝いますよ」
とケイが、わたしに歩み寄り、延長コードなどを纏めてくれる。
「ありがとうございます。あとは、こちらで遣りますから……」
「エレベーターまで、ご案内します」
わたしの上司は設計課の部長のところへ挨拶に行っている。ケイの二人の同僚も仕事場に戻ったので、エレベーターの中はケイと二人だ。
「案外会ったじゃない」
笑顔を浮かべ、ケイが言い、
「マジ、驚いた」
と、わたしが答える。ついで、
「わたしを見てガッカリした」
と、ケイが問い、
「いや、魅力的……」
わたしが答える。
「でも、わたしのことは気持ち悪いでしょ」
「そう思ったら、あのとき、助けてない」
「……なら、良かったけど」
すぐに、エレベーターが一階に着く。
「じゃ、わたしは仕事に戻りますので……」
素っ気なくケイが言うので、
「次もまた偶然にする気……」
と、わたしが空かさず謎をかける。すると、
「時間があるなら、土曜日にアパートに来ればいい」
周りに誰もいないことを確認し、ケイがわたしに小声で言う。




