二人旅、コマンド実行は九分くらい
「朝…良かった、起きてれた…」
スチュウはポツリと呟くと、崩れる様に座り込んだ。
「ごめんねスチュウ。僕なんかのために。」
「ルー、良いんだよ。こんなちっぽけな事だし。」
ちっぽけ、なんかじゃ無い。
度重なる時間圧縮で消耗した体力を回復できた。今なら昼と夜を入れ替えることも出来る。
「ルー、そろそろ行こ?」
「え…スチュウは、休まなくて良いの?」
「平気だよ。なんか慣れちゃった。」
スチュウがなんだか心配だけど、今はこの森を抜けることが最優先だ。
僕達は地面からゆっくりと立ち上がって、森の中の小道に沿って歩き始めた。
「スチュウは、ルーが信じてくれてとっても嬉しかったんだ。」
「別に、そんな大層なことじゃ…」
と、付近に数体の幻影がスチュウの前に現れ、霧となってスチュウの元に戻っていった。
「あれ、一匹やられちゃったのかな。まいっか。」
「えっと、今のは?」
「霧を再吸収したんだよ。魔力の温存になるからね。」
ふと、素朴な疑問が思い浮かぶ。
「そういえばスキルって遺伝する物なの?」
「ううん、勝手にはしないよ。」
「じゃあどうやって、ジャックの幻影術を…」
「……血。」
スチュウはボソリと呟く。
「え?」
「血。パパの血を舐めたの。装備に残ってたのだけど…」
「えっと…そんなんで能力って得られるの?」
「うん。能力を元々持ってる人の許可がないと重罪…?だけどね。」
スチュウは、元の好奇心溢れる目で僕を見る。
「ルーの力は生まれつき?それとも、誰かから貰ったの?」
「うーん…生まれつき…かな?」
まさか、スキルがそんな仕組みだとは思っても見なかった。
「血を舐める、それだけで力が得られるの?」
「能力をくれる人が、自分と血が近かったらそれで済むの。でも、そうやって手に入れた力はどう頑張っても後付け。絶対に本人ほど上手くは使えないんだ。それに、血が近かったから舐めるだけで済んだけど、他人から貰うにはその人の血を全部飲み干さないといけないから、あんまり知ってる人はいないんだ。」
なんだか、元の世界の吸血鬼伝説を思い出す話だ。
そうこうしているうちに、森の出口が見えてきた。
ゲームの記憶が正しければ、この先に綺麗な川があるはず。
「うわ!」
「ん?どしたの?ルー。」
広がっていたのはボソボソの荒地と、乾ききった小さい谷。
思っていた光景と全然違っていた。
「えっと、ここにあった川はどこに…」
「ルーは知らないんだ。そうだね、」
スチュウはぴょんぴょんと谷を降りて、突き出た岩の様な場所に乗る。
「モンスターじゃなくて、人のせい。ここの水ぜーんぶ使っちゃったんだ。」
「全部?どうして…」
「冒険者が減って、当然水の魔法を使える人も減っちゃったからね。」
よく見ると、スチュウの乗っていたのは岩ではなく劣化したパイプの様なものだった。
中には干からびた水草等があり、そこに水の痕跡が確かにあった。
なんだか、僕のいた元の世界と勝手が違う…訳でも無いんだなって。
「でも、なんだかヘンテコだよね。一日10ずつ使えば、ずっと続けられるのに。10年で一万使えばそれで終わりなのに。」
川の亡骸を前にして、スチュウがそんな事を言う。
「ねえスチュウ、ちょっと寄り道したいな。」
「へ?良いけど…どこ行くの?」
ここはまだ川の上流の方だ。
僕は、川底だった場所の岩の倒れ方を見て、川の上の方に進んでいった。
「ねえ、どこ行くの?」
「多分…ここかな?」
苔むした一組の石溜まり。
僕は両手を伸ばし、キーボードが現れる。
「今日はどっち?」
「ツァディですよ。ヅェイオは今コミケ…いや、なんでも有りません。」
久し振りにキーボードに手を触れる。
“coW.this object.initialize.“
”coW.execution.speed up.+1000%
コマンドが実行され、世界が元に戻る。
「ねえルー、何眺めてるの?」
「スチュウも見てみてよ。」
しばらくは何も起きなかった。
が、徐々に石が集まっていき天然の石組みを形成した。
『ポコ…ポコポコ…』
石の隙間からそんな音がして、徐々に湿っていく。
「え?」
「かなり早めたから、100年でここから新しい川が出来るよ。」
「ルーすごい!どうやったの?」
「コマンド。」
そろそろ、スチュウには打ち明けた方が良さそうだ。
一番長い付き合いになるだろうし。




