二人居れば幸せも二通り
「この金髪、やっぱり地毛かな。」
森の中の湖を覗き込みながら、そんなことを呟いた。
森の中を散歩だなんて生まれてから…いや、死んでから始めてだ。生き返る心地だ…
深く考えない事にする。
ん?湖面に浮かぶのは…子蜘蛛かな。
「ツァディ!」
「もう、たまには自分で打ち込めばどうですか?」
「は、そうか!」
そう言えば知らないうちにパソコンのモニターまで揃ってたんだ。
“coW.bf.me.water walking”
“coW.give.me.weapon”
僕に水上歩行のバフと、水晶の短剣が与えられる。
キルコマンドよりもずっと楽だ。
『ピチャ…』
そう言えば水の上を歩くのは初めてだ。
気持ちとしては、浅い水たまりの上を歩く様なものだ。
子供の頃に読んだ絵本の中の様な、神秘的な感覚がした。
『カサカサ!』
「あ、待てー!」
水の上で蜘蛛と追いかけっこだ。
蜘蛛はアメンボよろしく滑る様に移動する。当然、僕の走りよりもずっと早い。
『カサ!』
蜘蛛は先に地面に上がり、猛スピードで逃げていく。
「はあ…はあ…」
僕の足を速くしようかと思ったけれど、あの不規則な動きには余計ついて行けそうになかった。
『ブチ!』
ふと、木の裏からそんな鈍い音がした。
誰かが蜘蛛を踏み潰したらしい。
「大丈夫?変な病気もらちゃったりしない?」
てっきりファコラさんかと思って、そんな声をかける。
「………」
あ、知らない女の子だ。
子供…スチュウくらいかな。
「えっと、君、迷子かな?」
「………」
無口な子なのかな。
観ると、その子の履いているブーツが蜘蛛の体液でベタベタになっていた。
「おえ…」
少女は一言、そう呟いた。
「っと、すぐに綺麗にしてあげる。」
少女のブーツを脱がせ、湖の水で優しく洗う。
幸い、付いたばかりなので水で体液はすぐに落ちていった。
「よしっと。これで大丈夫。」
「あ…りがと…」
少女は、その真っ白い素足にブーツを履いて、僕にぺこりと頭を下げる。
皮のブーツと、安っぽい麻布のワンピース一枚、あと手作りらしい首飾りをしていた。
少女の綺麗に解かされた白髪が、湖面に反射した光でキラキラと輝いている。
『キュ…』
少女は僕のパーカーの裾を、そっと引っ張った。
「遊び…に来…てよ…お…礼がしたいな…」
「えっと、うん。」
小さな声で紡がれる少女の言葉はどこか辿々しく、よく見るとその体には古傷らしきものも刻まれていた。
「君、名前は?僕はルーイン。」
「…おぼ…えて…ない…」
少女はモジモジしているが、どこか嬉しそうだ。
少しすると、小さな小屋が見えた。木造で古びているが、かなり立派な作りだった。
『キイイ…』
ドアがゆっくりと開き、少女は慣れた手つきで蝋燭に光を灯していく。
西洋風の大きな屋敷だった。
「君は、ここに一人で住んでるの?」
「いや…家族…居るよ…。」
その割には人気の無い家だ。
『ガタン…』
奥の部屋から物音とともに、大きな影が現れる。
「グリムリーパー!?」
「…私の…家族…」
そのグリムリーパーは、お碗一杯のシチューを持っていた。
瞬間的に身構えるが、グリムリーパーは客人に気づくと、別な空のお椀を持って奥の部屋に戻っていった。
「人じゃ…なくっ…たって…大…切だもん…」
よく見ると、屋敷のあちこちにグリムリーパーの姿があり、此処に好きに出入りしている様だ。
「蜘蛛…おっぱらって…くれ…てありがと…み…んな…よ…ろ…こんでる…」
するとさっき奥の部屋にいたグリムリーパーが、もう一つのシチューを持って現れた。
少女が首飾りに付いていた小さな木製の筒に向かって息を吹きかけると、洞窟の反響音の様な音がした。
「家族と…こうや…って…はな…すんだ。」
「へえ。不思議な言葉だね。」
「だか…ら…ひとと…はなす…の…苦手…ごめん…」
気がつくと、外は夕焼け色に染まっていた。
僕は出されたシチューを平らげる。
「ありがとね。シチュー美味しかったよ。」
「もう…いっちゃう…の…?」
「ごめんね、夜更けまでには戻ってないと。」
「…………」
少女は、ゆっくり手を差し伸べる。
「ともだち…になって…」
「うん、勿論だよ。」
帰り際に、埃を被った一枚の写真を見つけた。
幼い少女と、両親らしきものが写った写真だ。
境遇はスチュウと似てるけど、幸せの見つけ方は違うんだなって。




