19kmの道のりだった
「嘘…雲魚の皮ってこんなに高価なの?」
「そうだよ!今までどーやって暮らしてきたと思ってるの?ルー。それに、あの怖い山に登って釣りに行くなんて変な人、スチュウくらいだよ!」
何だか自慢げに話しているが、スチュウがお金持ちの原因が分かった。
ちなみに僕の全財産は、バレノの討伐報酬から借金とギロマさんが勝手につけた利子を差し引いて2ゴールド。所持金変更コマンドは何故か通じない。
今は、ギルドの食堂でスチュウからチキンをご馳走してもらってた。
「あれ…?僕がこんなカツカツなのって大体ギロマさんがわる…」
「ようルー。元気か?そのチビなんか羽振り良いだろ?」
「ギロマさん。いたんですか。」
ギロマさんが通りかかり、少しハラハラした。
「さてと、ご馳走さま!」
「あ、僕も。」
スチュウは席から立ち上がり、外套を着込む。
「ん?スチュウ、どこかに出かけるの?」
「うん。いつもの釣りに出かけるんだ。今日は大物釣っちゃうんだ!」
心配9割、下心1割で、僕はその言葉が出た。
「ぼ…僕も一緒に行きたいな。」
「ほんとに?やった!いっつも一人じゃ寂しいからね。」
僕も、スチュウと一緒に山に出かける事にした。
「ねえ、雲魚って、どうやって釣るの?」
「ん?ルーも釣りたいの?良いよ。じゃ、ちょっと寄り道しちゃお。」
スチュウが向かったのは、山の麓にある坑道だった。
「うーん…っと、これで良いかな?」
「これは?」
スチュウが拾い上げたのは、薄く光り輝く白い鉱石だった。
「スチュウはピカピカ石って呼んでる。ほんとの名前は知らないよ。」
そのあと、スチュウは木の枝を軽く削って竿に、自分の髪の毛一本切ってを釣り糸にして釣竿を作った。
「糸の先にピカピカ石を結んでね、これで釣るの。」
「へえ、なんでこの石に魚がかかるんだろう。」
「知らない。きっと雲魚はお空に住んでるから、地面の下から出てきたピカピカ石が珍しいからじゃないかな?」
やっぱり、スチュウはどこかあどけなかった。
「さてと、山に登ろ!」
「お…おー。」
そのあどけない少女が、ピクニック気分で最高難度ダンジョンに潜入する。
なんとも風情がある…
「ん?どしたの?ルー。」
「いや、なんでもない…」
スチュウは急な傾斜も難なく進んでいく。
僕は、自分のスタミナの値を999に変えて付いていった。
「ふーん、ふんふーん。」
「ぜえ…ぜえ…」
すると、脇の林から奇妙な音が聞こえてきた。
『カラカラ…』
枯れ木が風で打たれる音。
そのあと直ぐに、低木から巨大な影が立ち上がる。
「こんにちは!イービルトレントさん!」
『ォォォォオオオオオオオ!』
確か、あいつの攻撃には全て即倒属性が付いている。
一発でも食らったらおしまいだ。
「ねえスチュウ…大丈夫なの?」
「お友達になりましょ!トレントさん!」
スチュウはそのフィールドボスモンスターに手を差し伸べる。
『オオオオオオオ!』
トレントは、その鋭い爪を僕に向けた。
『バキ!』
トレントの足部の一本が砕ける。
スチュウが瞬時に身をかがめて、思いっきりトレントの足部に蹴りを入れたのだ。
「ダメ、お友達は増やすもの。殺すものじゃないよ。」
その白銀の光を帯びた眼光は、決して年端のいかない少女のものでは無かった。
確かに、歴戦の冒険者のものだった。
『タン、タン』
そのまま、トレントの枝の凸部をぴょんぴょんと飛びついてく。
トレントは胞子で応戦するが、スチュウはその前にトレントの頭を拳で砕いた。
『ガシャガシャガシャ!』
トレントはただの黒い木片とになって崩れ落ちていった。
いざとなったら僕がコマンドを使おうかと思ったが、その必要は無かったらしい。
「ふう…早く行こ、ルー。また悪いモンスターが来ちゃう。」
「ん?ねえスチュウ、幻影は使わないの?」
「あれは疲れちゃうからね、この後雲魚を釣るのに、そんな事は出来ないよ。」
そのあと、巨大な直角の石壁が現れるけれど、スチュウは慣れた身のこなしで軽々と登っていった。
流石に僕は面倒なので、
「よし、あそこまで何メートルくらいかな、ツァディ。」
「計測………30mですね。」
僕は、その情報を元にコマンドを打ち込む。
“coW.tp.me.z+30.y+0.5”
瞬時に石壁の上に移動して、その直ぐ後にスチュウも登ってくる。
「ふう。ルーは早いね。スチュウもテレポート、やってみたいな。」
「必要な時はしてあげるよ。」
ルーは少し進み、山の頂上の崖に腰掛ける。
眼下にはどこまでも広がる地平線と、僕たちの下を流れる雲が見えた。
「高いけど、危なくないの?」
「2回くらい落っこちちゃったけどね、意外と平気だったよ。…一回骨が折れちゃったけど…」
そう言って、スチュウは空に釣り糸を垂れる。
僕も見よう見まねでやってみる。
…静かだ。ここにはモンスターも上がってこない。
「ねえ…」
「しっ!」
この時間は、しばらく続きそうだ。




