一を知れば流れには乗れる
これが異世界転生という奴か…
岩山から景気良く飛び降りると、見事に足から着地した。かなりの高さがあったにもかかわらず、捻挫もしなかった。
アイコンなどはなかったけれど、此処は確実にチュートリアルの舞台、スライム平野だ。向こうには最初の街も見える。
「…寒い…」
ゲームでは本来、初期装備は初期職業に対応したものになる。剣士系なら甲冑、魔導師系ならローブといった具合だ。
…でも僕のは、チャックの空いた黄色っぽいパーカー。中は、胴に青い布が巻いてあるだけだ。あとはスカートにブーツ。
ファンタジー調の世界観の筈が、こんなオシャレなVtuberみたいな格好だ。
おまけに武器らしい武器も持っていないため、戦闘手段も当然無い。
ゲームではこの道を辿って街に行く道中、岩陰から魔物が現れてバトルチュートリアルが始まる。
『ゴソゴソ…シャキン!』
「きゃ!?」
現れたのは黒光りする鎧、ヴァイオレントナイト。戦闘力的にも世界観的にも、此処にいるのは絶対に有り得ない相手だった。
不意打ちの一太刀はかわしたものの、無防備なお腹に蹴りが入ってしまった。
「ゲホ…ゲホ…」
上級プレイヤーでも苦戦する相手、自分の職業も分からないのが相手になる訳が無い。
『ガチャ…ガチャ…ガチャ…』
お腹を抱えて苦しんでる間に、ヴァイオレントナイトはゆっくりと、金属の擦れる音を立てながら迫ってくる。
このままでは転生早々殺される…なんとかしなきゃ…
『シャキン!』
「うわあ!」
不意に手をかざすと、ヴァイオレントナイトの動きは止まった。いや、このゲームの世界そのものが色褪せ、止まった様に見えた。
「?」
手元には水晶版が浮いていた。よく見るとそれは…水晶のキーボードだった。
まさか…これが僕の武器…
反射的に、そのキーボード手を伸ばし、二本のコマンドを打ち込む。
“coW.tp.me.x-3m”
”coW.dbf.this violent knight.pn.LV5”
静止した世界が再び動き出し、僕のコマンドも瞬時に実行された。
僕は左に3m移動して、ヴァイオレントナイトは次第に動きが鈍り出した。完全に立ち止まったのを見計らって、僕はヴァイオレントナイトを鎧越しに思いっきり叩いた。
『ガシャガシャン!』
騒々しい音を立てながら、ヴァイオレントナイトは後ろに倒れる。こいつには毒のデバフを掛けたため、効き目が切れる頃には、あいつの体力は1。ゲームと同じ仕様。
まさか、オンラインゲームのハックとコード殆どが同じだなんて。
「coW(この世界への命令)…か。」
チュートリアルは終わり…の筈。
『ガシャガシャ!ガシャガシャ!』
気づけば、僕は無数のヴァイオレントナイトに囲まれていた。本来生息しているはずのスライムやウルフはどこにも見当たらない。
『バンバン!』
銃声…?
目の前のヴァイオレントナイトの鎧に、数個の風穴があき、甲冑は崩れていった。
「おいそこのお嬢ちゃん!早くこっち来い!」
「は…はい!」
その後ろには長杖をライフルの様に構える魔法使いの男。マジックガンナーだ。
僕は言われるがままに、その男の方に着いた。
「取り敢えずデウの街にまで行くぞ!あそこには結界が掛かってる!」
「はい!…結界?」
男は箒を召喚すると、僕を乗せて道なりに走行を始めた。箒のスピードはゲームと同じだが、こんなに揺れるとは思わなかった。
『ガチャ!』
目の前に二体のヴァイオレントナイトが現れる。待ち伏せしていたみたいだ。
なんと男は箒の上に立ち上がり、長杖をへし折って二本の短杖に変える。
「邪魔だぜ…クロスシュート!」
『ババババシュン!』
かなり戦い慣れているらしい。
男はヴァイオレントナイトの膨大な体力を考慮したのか、倒さずに怯ませるだけで突破した。
最後は地面を蹴って箒を加速させ、追いかけるヴァイオレントナイトを間一髪で振り切り街に入ることが出来た。
「ふう…そういや嬢ちゃん見ない顔だな。新米か?」
その声に、どこか落ち着きがあった。




