右斜め上の廊下の16番目の部屋だったかな
起きてから地上に上がるまで30分もかかってしまった。
やっぱり、この世界からしたら僕は新参者だ。
「で、君も冒険者になりたいの?」
「うん!パパ…よりルーみたいになりたい!お願いギルドマスターさん!」
「いい心意気だね。それに、能力についてはもうファコラから聞いてるから、能力検査はパスだね。」
「やったぁ!」
ギルドマスターは嬉しそうに、真新しい羊皮紙契約書をスチュウに渡す。
スチュウはそれに、子供特有の字で[スチュウ]と書いていた。
「君には、訓練も必要ないだろう。」
「どして?」
「君は既に大量の経験値を貯めこんでいるみたいだからね。」
ギルドマスターとスチュウが、そんな会話をしていた時に、僕の後ろからギロマさんが現れる。
「ちょっといいか?」
「あ…はい。特に用事はありませんよ。」
ギロマさんは、僕を地下の回廊に連れて行く。
指でドアを数えながら、とあるドアにたどり着く。
「ちと、こいつを見てくれないか?」
「はい。」
鍵がかかっていたが腐食していて、ドアノブを回すと勝手に崩れ落ちた。
『ガチャ』
「ゲホ…ゲホ…」
もうずっと誰も入っていないらしい。
部屋にはとてつもない量の埃と、蜘蛛の集合住宅が出来ていた。
と、蜘蛛の巣を払った先に何かがあった。
「これって…」
「何か分かるか?」
ただの長方形の水晶…かと思えば、それは僕にとってとても馴染み深い形をしていた。
「サーバーだ。間違い無いよ。」
「やっぱり知ってたか。いや、お前の使うキーボードとやらと似てたからよ。」
「でも、どうしてここに?そもそも、この空間は何なんです?」
ギロマさんは、部屋にかかる蜘蛛の巣を焼きながら答える。
「ここは、もともと冒険者たちの貸し倉庫だったんだよ。まあ、アイテム保管庫だな。」
「へえ。預けたアイテムがここに…」
「ああ。冒険者が増えれば、それだけスペースも必要になってな、増築を繰り返していって、いつのまにかこんな迷路になっちまったんだ。このドアの数だけ冒険者もいたってわけだ。」
「つまり…」
「こんなに寂れちまった理由は…お前にも分かるな。」
…神妙な心持ちになにながら、僕はその水晶製のサーバーに触れる。
「あれ?」
なんだか自動的に、僕の時間が始まった。
目の前にはキーボード。そこから伸びる銀糸の様なコードが、サーバーに接続される。
『ウィーン…チチチチチ』
起動音と共に、水晶のサーバーに色が戻っていく。
「あ。戻った。」
スローが解除され、時間が普通に動き出した。
ただ一つ、さっきまであったサーバーは消えていた。
「ここは、なんて名前の人の倉庫だったんですか?」
「ああ…それが、倉庫の持ち主の殆どの奴の記録が消えててな、俺にも検討もつかない。ま、どうせそこらの遺跡で拾ったやつだろうけどな。」
僕は手を伸ばし、キーボードを出現させる。
やっぱり、さっきのサーバーも一緒に現れた。一体なんの種類のサーバーだろうか…
ここまで揃うと、モニターも欲しくなってくるけれど…
「バーチャルアシスタントシステム“化仏”起動します。」
「へ?」
サーバーが光を放ち、その後ろに人影が現れる。
「こんにちは。これよりユーザー様をサポートさせていただきます。アシスタントのツァディです。」
「えっと…君は…」
女の子だ。青い瞳に白い肌で、髪は背中のあたりまで下ろした薄い青で、毛先がわずかにピンク色をしている。服装はここの世界観とは合わない近未来的で、なぜか僕を安心させた。
「すごい…3Dキャラゲーに出てきそう…可愛い…」
「ユーザー様のお名前を自動登録します。………川瀬 瑠衣様。これからよろしくお願いします。」
笑顔が可愛いアシスタントが出来た。
「えっと、結婚してくれない?」
「私は雌型ですし、どちらかと言えばボクっ娘よりもあちらの叔父様に惹かれます。」
ギロマさんは壁にもたれかかって、ずっと僕たちの様子を見ていた。
「悪いねお嬢さん。俺は妻帯者だ。」
そう言えば、ギロマさんには時間停止体制が付いている。
「残念です…では瑠衣様、この事象発生型アビリティ“コマンドハッカー”を、いつでもご利用下さいね。」
僕の時間が終わる間際に、ツァディは耳元で囁く。
「出来れば叔父様の前で…なんてですね。ふふ。」
時間が動く。と同時に、ギロマさんが口を開いた。
「俺は、一つの答えが出たんだ。ルー、お前の能力については考えない方が良いってな。なんでかって、俺たちには絶対に理解出来ない自信があるからよ。」
「はあ…」
「それに、ルー自身を知る方がラクだしよ。」
ギロマさんが部屋を出てくのを、僕は慌ててついていった。
迷子になっちゃう。




