九皐に鳴かなくても天にも地にも色々聞こえるからね
『ゴゴゴゴゴ…』
内臓にまで響く様な轟音が、僕を無理矢理叩き起こした。
「……?」
地下の筈なのに、人々の騒ぐ声が聞こえる。
これは只事じゃ無いと思って、急いで着替えてキーボードを出現させる。
“coW.tp.me.z+1000m“
コマンドが実行され、状況を把握するのに一番の場所に飛ぶ。
「1000m上空…」
地下で1000m上と入力したため、予定よりも少し下方に飛んだがあまり問題なかった。
僕は重力に従って急降下する。雲を突っ切り、次第に町の様子があらわになっていった。
「!?」
壊れかけの結界と、燃え盛る町。
無数のワニの様な怪物が、町を襲っているのが見えた。
町にかかっているのはスキル 聖堂の結界と同じ物なのに、突破できるなんて…ん?ワニ…?
「まずい!」
キーボードを出現させ、焦る気持ちを抑えてコマンドを刻む。
“coW.ss.optimum object“
世界が動く、変化が見られず一瞬タイプミスを疑ったが、すぐにそんな心配は吹き飛んだ。
茶色い石の装甲のついた、4本の水晶柱だ。
『ドン!』
その内の一本が怪物を潰し、僕はその柱の上に立った。
間違い無く、こいつらはアムムトだ。
ヴァイオレントナイトよりは1レベル分弱いが、ガード貫通属性が付いている。何より一番恐ろしいのは…
「ぎゃああああ!」
ここの冒険者の積んでいる鍛錬は、人型のモンスターに有効な戦術だ。赤茶色をしたワニの姿のアムムトには全く効果がない。
「くそ…アムムトの大移動にここが引っかかったか…」
「喋ってないで手動かせ!この数だ。小規模移動だろう。」
ただ、経験ではなくある程度の経験値を持っていれば別だ。前線で戦っている冒険者達がそうだろう。
「ルー!大丈夫!?」
「ファコラさん!」
ファコラさんは、突進してくるアムムトを鎖で投げ飛ばしてた。ファコラさんもこの状況で戦える数少ない冒険者の一人らしい。
…地鳴りがまた起こる。
僕は水晶柱の上にいたので、町の外側の様子が目に入った。
「ファコラさん!このままじゃこの町堕とされちゃいます!」
「え?どういう事? 」
ファコラさんは鎖を使って、僕のいる水晶中にまで登ってくる。
「あ…」
ファコラさんも、僕の見ているものが理解できたらしい。
これと同じ規模のアムムトの群れが四隊ほど続き、その向こうには地平線を埋め尽くすほどの大規模な本隊が見えた。
戦える冒険者どころか、この町の人口なんかよりアムムトの方が遥かに多かった。
ファコラさんはただ呆然と見ていただけだった。
と、散歩の様な徒歩でこちらに向かい、迫り来るアムムトを一撃で倒し続ける人影があった。
「ギロマさん!」
「よう。ガキが夜更かしとは生意気じゃねえか。」
高い柱の筈なのに、ギロマさんは悠々と飛び乗る。
「…東のキャラバンか。」
「東?」
「ああ。あいつらに混じって、富餌地にありつこうとする奴らが一定数いる。そいつらの種類で分かるもんだ。」
僕も目を凝らして見てみると、所々に別なモンスターも確認できた。
「…もう理解できるだろ。」
「………」
「この状況を打開できるのはお前だけだ。ルー。」
ギロマさんさんは立ち上がり、ぎっと杖を構える。
「ま、ガキ一人考える時間くらいなら作ってやるよ。行くぞファコラ!」
「は…はい叔父貴!」
二人は水晶柱から降りる。僕は刻一刻と迫ってくる本隊を見ながら、必死に思考を巡らせていた。
ゲームのハッキングっていうのは、本来こういう時の為のもの。必ず手はある筈だ。
…ふと、能力検査の時の記憶が蘇る。
「………あ!」
僕はその思いつきを実行するために、キーボードで模擬演算を始めた。




