もうひとつの出会い
蒸し暑い夜。ここ数年観測史上初という言葉を天気予報でよく聞くようになった。高温注意報が出たその夜に正人は新宿二丁目に出かけていた。正人が向かっているのはドラゴンサタンというゲイバーだ。そこで友達の洋平が既に飲んでいた。ドアを開けるとカランと音がして、ママがチラッと見た。
「いらっしゃませー」ちょっとぽっちゃりしてヒゲを生やしたママが言った。
「あ、正ちゃん来た来た。こっちこっち!」洋平はまだ誰もいないのに自分の席の隣に手招きした。
「こっちこっちって分かるよお客さん他にいないじゃん」正人は笑いながら言った。
「待ってたのよーちょっと聞いてよーー」洋平はこういうところではお姉さん丸出しだ。しかし当人はそう思っていない。
「私ねえ・・恋しちゃったのよ。もうーーー」洋平は言った。
「へえ。そうなんだ。相手はどんな人なの?」と正人。
「同じ教会の人なんだけどね。すんごいかっこいいの」と洋平。
「ん?ちょっと待ってよ。ノンケなんじゃ・・」と正人。
「んーー多分そう!」洋平は嬉しそうだ。
「あのさー片思いで不毛じゃん。それでそんなに浮かれてるの?んで、相手はようちゃんがゲイって知ってるの?って知らないよね?」怪訝な顔で正人は言った。
「知らないわよ。それはまだ。でも告っちゃおうかなあ・・・」正人は告白しようとしているのに驚いた。以前正人もノンケに告白して痛い目にあったのだ。そのことを話したはずなんだけど。