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カメラガールとカメラ小僧  作者: ひでじぃ
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1.BKKS(ぼっち回避強化週間)

心地よい暖かな日差しとどこもかしこで咲いている桜が春の訪れを告げる。


基本テンションが低い俺ですら僅かばかりではあるが

どこかウキウキとした気持ちになる時期だ。

慣れないブレザーの着用に四苦八苦し少し遅れ気味で家を出た。

学校指定の自転車を気持ち早めに漕ぎ、高校の入学式へと向かう。


「あーズボンの裾なげーって、もう」


俺は身長が155センチしかなく、小中でかれこれ9年も “列の先頭で腰に手を当てるアレ” を務めてきたどチビだ。

そして体重も38キロのヒョロガリ、学年の男子で一番体積が少ないであろうチビモヤシ。

『どうせまだ背が伸びるから』と母が大きめの制服を注文したがどうにも丈が長いので早速自転車のペダルでズボンの裾をおもいっきり踏んでしまった。

入学する前からなんとも幸先が悪い。


地元でトップの進学校・七海東高校(通称:ナナヒ)は有名大学合格率も高く、俺もいい大学に行くことを両親から期待されているが正直勉学に対して高いモチベーションはない。

部活は運動音痴なので一般的に見て冴えない部への入部を考えている。

無駄に字音での権威を高めたいナナヒは文武両道をモットーとしており

帰宅部は存在しないと聞いた。

非リア充の安住の地を奪う、なんという過酷な環境だ。


彼女作り? 青春?

それは己のスペックからして夢見てはいけないと中2の頃には意識していた。

そんなことよりまずはぼっちにならない為の入学初日から数日間での友人作りだ。




ぼっち回避強化週間、略して“BKKS”の俺内造語の存在は合格が決まってから今日までの

約2か月常に頭の片隅にあった。


ここをミスったら3年間が終わる、ハズしてはいけない最重要ポイントだ。

コミュ力が低い俺はひたすら不安でしかないが踏ん張りどころだ、

腹を括って勇気を出さないといけない。

そしてBKKSの中で最も大事なのが初日の今日だ。

ぼっち化は心肺停止時の生存率と同じで時間が経てば経つほど

各グループが出来ていきその輪に入りづらくなりやがて死を迎える。


今日初対面の男子に声をかけるチャンスがどれくらいあるかは不明だが

好機と見たらすべて食らいつくくらいの勇気が必要だ。

信号待ちの間に15年の人生で数少ない気合を自分に注入していると

可愛らしい女性の声が背後から聞こえた。


「あの、すみません。七海東高ってどの道を行ったらいいですか…?」


声の主は自転車を押している、ナナヒの制服姿の清楚系美少女。

サラサラの黒髪ストレートにぱっちり二重の大きな目。

スレンダーなスタイルも相まって男なら誰しもハッと目を奪われるような容姿だ。

スカートの長さが標準的なのは初日ゆえお行儀良くしてすぐに短くなるのか

はたまた純粋にまじめな性格なのか。


なんにせよこんな可愛い子に偶然声をかけられるとは

先刻ズボンの裾を踏んだことなど無かったに等しいロケットスタートの高校生活だ。


「この信号を渡ったらあそこに見える脇道入ってそのまま真っ直ぐですよ。」


「本当ですか?ありがとうございます!」


中学時代、女の子とはたまの業務的な会話しかしてこなかった俺にとってこれはウルトララッキーな業務的な会話だ。

貴重な女の子との会話に心がざわめく。


「はぁーよかったー 、私さっきからずっとこの辺りをぐるぐるしてて高校全然見つからなくて、もう遅刻するんじゃないかと思って焦って焦って」


「それは大変でしたね、これからナナヒの入学式ですよね? 」


入学式は一部の上級生を除いて新入生しか来ないはずだ。


「そうですそうです、助かりました。ホントありがとうございます、あー神様だ」


「全然そんなことないですよ、それじゃ…」


信号が青に変わった刹那、突然神になった俺は神のごとくその場からスッと消える。

コミュ障の陰キャではこれ以上女の子との会話に耐えきれない。

ところが清楚系美少女は神が天界という名の還ることを許さない。


「あの、学校まで着いて行っていいですか、ホント申し訳ないんですけど」


「え、全然大丈夫ですよ、ていうかすぐそこですけどね」


「あの、大丈夫ってどっちの意味ですか…?」


あぁ、、

ゴメンよ美少女、非リア充は『大丈夫です』と『すみません』が反射的に出てしまう生き物なんだ


「あ、OKっていう意味です。僕の後ろ着いてきてくれれば問題ないです」


「ありがとうございます!また迷っちゃったらどうしようって不安で不安で」


「あの脇道さえ入っちゃえば絶対大丈夫ですから、もう心配しなくていいですよ」


まだ会話が続く幸せよ・・・

しかし今度こそ終わりだ。清楚系美少女が置いて行かれない程度に自転車をこぐスピードを上げる。

下心を勇気に変えられる男ならここで並走でもして束の間の擬似登校を味わうところかもしれないが

残念なことにその勇気はない。

さようなら幸せ。


校門を潜り抜け自転車置き場でカゴから通学カバンを取り出していると

なんと清楚系美少女は隣に自転車を置いていた。


「あーよかったー。ちゃんと学校着けたー」



「あのぼっち辛いから入学式始まるまで一緒にいてもいいですか?」


一部のリア充は逆に中学の同級生と待ち合わせしてぼっちに保険をかけたり

予備校での友人、部活での対戦


ぼっちの方が勇者なのではないだろうか


それ以上に人の良さが滲み出た優しい表情


ところが俺はまさしく神になっている

隣に美少女を連れて通学している。


「どこ中だったんですか?」


「シラジョです、わかるかな…」


「え?シラジョ?」


“シラジョ” とは白石女子中学、中高一貫の女子校の上にここからも遠い。

俺にしては思わず大きめな声が出た。


「あー珍しいですよね、ていうかシラジョから入学したの私しかいないっぽいし」


ていうかタメなのにおかしいよね、タメ口でいこうよ


それね、ずっとなんか気持ち悪かった


あと名前もまだ聞いてなかったね、恩人なのに


「当たり前のことをしたまでなので名を名乗るほどの者ではないです」


「何でよ笑 しかもまた敬語だし笑 」


よし、ウケた。

俺は初対面の人の前では割とレベルに属するコミュ障なのだ。

あと本当に仲のいい友達の前ではしょっちゅうボケをかましている

これが美少女の前で披露出来るとは

大体「からの〜?」とか「」で笑い取ってるリア充どもより俺の方が面白いっつの


「流川裕太です、ああゴメンまた敬語だ」


「また敬語だ。超珍しい名字じゃない?」


「うん、同じ名字の人親戚以外に知らない。漫画には出てくるんだけどね、スラムダンクってバスケの漫画知ってる?」


流れる川って書いて流川。

そりゃ川は流れてるだろっていつも思ってるんだけど


そうだよね、ていうかいつも思ってるんだ


「んーわかんないや。どういうキャラなの?」


流川くんホント面白いね、こんな人だと思わなかった何か意外。


初対面でオーラ無し、陰気くさいチビという印象を抱いたであろう言葉に少しだけ傷つきながらも

「カッコいい」が期待できない以上「面白い」で勝負するしかない、イケてないメンズの定めだ。


深瀬さん知り合い誰かいるの?


誰もいないの、だから友達できるか心配で


深瀬さんの感じならすぐできるでしょ

まぁ俺も頑張らないといけないんだけどね


ね、最初の何日か超大事だよね


よしよし入学式あるあるで盛り上がっている


藁にもすがる思いでぼっちを回避したい深瀬さんが初めて出会った同級生が俺という奇跡よ。


うん、可愛すぎる。

ラノベだったら(回目)美少女なのに興味がないを疑う 俺は普通に可愛い女の子に 勘違いして恋に落ちる。


入学式はクラス分けの掲示板が貼ってある

まいまいと同じクラスだといいなぁ


ルカワは渡辺やら渡部がいない限りビリだからすぐ見つかる


俺7組だ


「私はー、あっ6組だルカワくん違うクラスだね」

ハァアアアアアア?

ラノベだったら(1回目)同じクラス

ご都合主義のラノベだったら(2回目)奇跡に隣の席にでもなるところだろおお?


現実はそんなに甘くないっていうか

そんなに都合よくないよね、うん。


いや待てよ、

同じクラスになるとスクールカーストで下層であることがバレる。

明らかにスクールカースト上位層確定のまいまいに

「イケてないんだなぁ」と今の「割りと話せて女子と話せて面白い人」の

評価がっダダ下がりするそれは辛すぎる。


むしろこっれでよかったのだ俺とは別の神よありがとう。

無駄にポジティブな俺は気持ちを切り替えた。


いや、今気づいたがまいまいと校内で会ったら

何となくの会釈はできんじゃん。

少なくとも卒業式の日に「この高校で最初に会ったよね」

ってお話しできんじゃん。

業務連絡以外で女子との接触無しの暗黒スクールライフ回避じゃん。

超ツイてんじゃん俺。


身の程をわきまえたキョロ充以下の微小な幸せを喜ぶ俺。

哀れだがカワイイ。


BKS ボッチ回避成功


「流川君、ちょっと話があるんだけど」


いつのまにか背後にいたまいまいが入学式以来に声をかけてきた。

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