Ⅰ
初投稿
「魔法」それは空想上の超常現象なのか。たしかにそういう扱いをされる世界もあるのかもしれない。しかしこの世界では違う。
魔法とはれっきとした才能溢れる者だけが使用することを許された能力。
術者の深層領域に術者の思いが共鳴、昇華することで具現化したものである。時を遡ること20世紀の終わり。突如としてその力は人間にやどった。
当初、人類は困惑し不気味な力だと忌み嫌った。しかし研究が進められていくうちに、それは超常現象などではなく、{能力}となり世界に浸透していく。
魔法と俗にささやかれていた不思議な現象は現実のものとなり、魔法能力は急速に世界各地に広まっていった。
魔法は世界では、その計り知れない力の強大さゆえ、一昔前では魔法能力に目覚めただけで、人生は勝ち組だったという。しかし今は断じて違う。魔導士と呼ばれる魔法能力者の数もそれなりに増えたことで、「能力の差」が浮かび上がってしまった。持つ者と持たざる者 そこには深く、そして確かな溝をうみだしてしまった。魔導の世界では実力がすべて。
しかしこれだけはいえた。「魔法」それの存在により人類の歴史は大きく変わることになってしまったということだけは………………
首都魔導大学附属総合魔導学院 東京の八王子にあり、今日から俺、如月颯人が通うこととなる高校の名前だ。
「やっぱり何度来てもデカいな」
首都魔導大というと京都魔導大と並び日本の魔導大学の名門大学。その唯一の附属校ともなれば、敷地面積はすさまじく、一般的にいう高校というレベルの比ではない。
文武両道を掲げる校訓のもと、本部である近代的設計の第一校舎を中心に広場が広がり、総合体育館などをはじめとする各主要競技場、生徒を一概に収容できる学生ホールと記念講堂、各研究所や別館となる大図書館、この学院は全寮制のため、いくつもの学生寮が立ち並んでいる。大学のキャンパスを彷彿とさせる立派なつくりである。
全校でも1500人ほどしかいない学校にしては大きすぎると思う。それだけ期待されているという見方もできなくはないが。
「えっと…学生ホールはここか」
今日は入学式ということで新入生は直接、学生ホールに集まることになっている。はじめて来ていたら今頃迷子になっていることだろう。ここにくるのは2回目である。
今の時代願書は普通高校でもインターネットだが、入学試験はさすがにそうはいかないのだ。
因みに俺たちはこの学院の第99期生ということになる。あと一年遅く生まれていれば節目だったのだが…
周りを見渡せば、各々タブレットやら紙の案内やらを見ながら同じ場所を目指している人たちばかり。今日は入学式ということでか上級生の姿はないように思える。
颯人は小中と諸事情あってあまり通えていないため、久々の学園生活に胸を少なからず踊らせていた。
この学院は魔導学院ということで、ここに集いし学生の大多数はプロの魔導士を志す魔法能力者が占める。
プロの魔導士というは、魔導士専用の国家資格である。1級から3級まで存在し、魔導高校を卒業すると3級の資格が得られるようになるのだ。3級ではそこまで就ける仕事も多いわけではないが、他の一般の会社のサラリーマンと比べると給料の差は大きい。
魔法が地球上で初めて観測されたのは東京だったそうで、今現在でも魔法理論学では日本の研究が頭一つ抜けているといわれる。そして魔法の研究が進むに連れて様々なことがわかっている。
その一つとして、魔法能力の資質をもって生まれる子供は全体でみると僅か5%ほどで、年々増加傾向にはあるものの、まだ全人類共通の能力にはなりえていなく、遺伝による子供が多いということ。つまりは魔導士の子供は魔導士ということだ。例外はもちろんあるし、非能力者の子供から生まれてくることもある。
魔導士一人の力は小さな軍隊なら壊滅できる力を持ち、トップレベルともなれば、小国ひとつは一分とかからず、吹き飛ばすほどの圧倒的な力を有しているとされる。
そのため国際情勢は混乱を極め、各地で魔法乱用の恐れによるものだろう市民のクーデターが多発、この1世紀ほどで大きく変わってしまった。
「魔法を制し国は地球をも」という言葉が生まれたほどで、世界の国力は魔法に頼るところが大きい。そのため各国政府は魔導士の育成と魔法の発達において競争を激化させている。日本もその例外ではない。
「あー理論科の連中どもとも同じ式なのか」
後ろを歩いていたと思われる数人のグループの話が聞こえてしまった。(おそらくわざとだが…)
「魔法ランクD以下の集まりだかんな~ほんとないわ」
続けておそらく俺に向かって言ってきた。周りを歩く生徒たちもちらちらと俺を見ている。
この学院には入試の段階で二つの学科に分かれている。魔法実践科と魔法理論科。
実践科は文字どうりで、実践的に魔法能力の技術向上を目指し、高等魔導士の育成を目的としている。
対する俺の入学する魔法理論科では、魔法の本質的解剖をめざし、研究者となるにふさわしい魔導士の育成を目的として設置されている。聞いただけではそこまでの差異は感じないかもしれないが、理論科には合格の絶対的基準となる魔法ランク(魔法適正レベル)設定はないのに対して、実践科では最低でもCランクは必要とされており、AからEランクまでの魔法ランクにおいてD以下の人間はどんなに熱意ややる気があろうが入ることを許されないのだ。つまり、二つの科には絶対的ではないにしろ差があるということ。
しかし学院内で顕著な成績を残せば転科できるらしいのだが、いまだその事例はないらしい。というのも魔法ランクとはその個人の体内に保持する魔力量のを評価したものであり、その総量、密度などを総合判断されて定められるものだ。
高校入学年齢の15歳にもなれば、これから上がるというのは滅多にないことなのだ。つまりは………もう遅い、ということ。 しかし諦められない人々は一度理論科に進学し、転科を目指す者も多いのだとか
なぜあの人たちが俺のことを理論科だとわかったのかといえば、それは制服が違うから、であるだろう。実践科と理論科では授業のスタイルに大きく違いがあるため、教師が見分けるのに都合がいいため便宜的に制服を少しかえている。制服のデザイン自体は同じだが基調となる色が違う。実践科の藍色に対して理論科は黒となっている。それにより一目瞭然である。しかしこれにより実践科のああいうタイプの人には絶好のカモのようにみえるのだろう。
「はぁ~ 」
よし、次のとるべき自分の対応を決めた。それは………無視一択 こういう人には言わせておけばいいというやつだ。颯人は歩くペースをあげて離脱を図ろうと決め込んだ、そのとき………
「あなたたち 邪魔なんだけど」
唐突に後ろから声をかけられた。あなたたち、とは俺たちのことだろう。確かに校舎に入るための入口のそばではあるものの、邪魔というほどではないと思うが…(まぁ迷惑なのは認めるが……)
真後ろからの声に驚きつつ、後ろを振り返るとそこには一人の………美少女が立っていた。
長く腰まで伸びた黒髪と青みがかった大きな瞳 スタイルは抜群に良く 可憐な雰囲気の美少女がそこに。
そして、その少女の一言で一瞬にして場の空気をのんだ。なぜならその少女が発した魔力オーラがすさまずかったからだろう。今何かをすれば何をされるかわからない、そんな鋭いオーラだ。
「………なっなんだよお前 !」
暫くの沈黙をやぶり、実践科の男子は詰まりながらも言い返した。さすがこの学院に来ることはある。並みの人間なら腰を抜かしてしまうほどのものだ。
「私は小波明日香 実践科に入ったあなたたちと同じ1年生だけど」
それなりにガタイのいい男子にもかかわらず ひるむこともなく真っ直ぐ相手を睨みつけていた。
「小波…ってどこかで…… あっ あの小波家か」
実践科の男子の一人がそう呟いた途端、小波明日香は顔をしかめた。何か訳ありのようだ。
「小波明日香…あの小波家の次女か…」
そう付け加えたところで俺も【小波】という苗字に覚えがあることを思い出した。
「それ…やめてほしいんだけど 私の家なんてどうでもいいでしょ今は」
小波は明らかに嫌そうな顔を一瞬したが、すぐに切り替えた。
あれ………小波明日香っていう名前…どこかで……
それに小波家か… 確か十哲に数えられる名家だったな
十哲とは古来中国で、ある門下における十人の優れた弟子のことだが、現代日本では魔道の世界で優れた名家を指す言葉だ。
「だから、あなたたちはそこで何をやっているのって聞いてるんだけど」
改めて少女は男子たちに聞き返す
「やっ… こいつが理論科のくせに生意気だから…」
「くせに? 私たちはまだ魔道士資格も持ってない所詮見習いの身分 それなのに実践科に入れただけでその態度 あなたの底は見えてるようね」
嘲笑しつつ言われた男子の一人の顔は真っ赤に染まっていた。が、それを見た連れの男子たちがあたりを見渡し、予想以上に注目されていることに気づいたのか、これ以上騒げば入学初日から悪目立ちすると思ったのか、ぐちぐち文句を垂れる一人を連れてどこかへ行ってしまった。
とんだ連中だった。俺も早々こんなことになるとは運がない。 だが、とりあえず一件落着か。でもまさかここまで魔道士は自信過剰なものなのか。だとすればこれからの3年間が思いやられる 颯人は内心ため息をついた。
「あなた 大丈夫?」
「……えっ」
「えっ ってなによ あなた今絡まれてたでしょ 」
少し考え事をしてしまったようだ。いきなりで変な声が出てしまった。
「あっあぁ、いやホント助かったよ ありがとう」
「あなた男子ならあれくらいガツンと言い返しなさいよ 情け無いのね」
助けてもらっていうのもなんだけど、この人ズバズバ言うなぁ 初対面の人に情け無いって言われる俺も俺かもしれないけど…
「ごめんごめん いやぁなんか呆気にとられちゃってさ」
「あっそう」
あと興味なくなるのも早っ!
まぁ俺もこんな入学早々絡まれるとは思ってなかったし、あまり目立ちたくもはない。この少女の近くにいるだけで軽く注目を浴びてしまう。ここは早く退散するとしよう。
「あっじゃあ俺はこれで 」
たしか登校時間まではまだ時間があったはず 少しぶらぶらしてから校舎に入………
「ちょっと待って 君」
「…えっなに?」
「君の…君の名前…」
そういえばこちらは自己紹介してなかったみたいだ
「あっ俺の名前は如月颯斗 魔法理論科の一年だ よろしく 」
「魔法理論科…」
彼女が鋭い眼光で小さくつぶやいた。魔法理論科がどうしたのだろうか
「どうかした?」
「あっいやなんでもない こっちの話」
「ところで えっ~と…」
「呼びやすい方でいいよ」
「そう じゃあ如月君 君はなんでこの学院に入学したの?
いきなりきたなぁ…この子はあのズバズバいう性格もそうだけど、若干の変わり者かもしれない。こんなにも美少女なのに少し残念ではないか。あぁ俗にいう「黙ってれば可愛い」というやつだろうか
「いや 答えたくなければ答えなくていいのだけど」
「うーん あまりそこまで大した理由もなかったけど 強いて言えば魔法が嫌いだから かな」
「魔法が嫌い?」
何をいってるんだ とでも言いたげな顔でこちらを覗き込んできた。そりゃそうか
「魔法って理不尽な力だと思うんだよ」
「理不尽……… まぁ確かに生まれてきた時点での魔法の才能があるかないかは自分ではどうすることもできないけど…」
「それに なんで魔法なんてものがこの世に生まれてきたんだと思う?」
「それは…」
すこし困った様子で考え込んでしまった。あまりこういうことは考えてこなかったのかもしれない。まぁ普通の人間なら考えないか………
「俺はそれを知るためにここにきたのかもしれない…」
言い終わって思う。 かなりくさいことを言ってしまった気がする。
「ふふっ」
彼女は笑った 先程の笑いとは違う純粋な顔で。 可愛い 素直にそう思ってしまった。
「ごめん なんかそんな考えの人出会ったことがなかったから 面白いのね君 」
「面白い?」
「ええ 面白い。時間とって悪かったね じゃあまた」
「ちょっ…まっ」
そう言い終わるとそそくさと校舎の中に消えていった。
なんだったんだろう。 彼女の後姿を呆然とみつつ、ふと颯人は思い出した。
一体どこで「小波明日香」の名前を聞いたのか、いや聞いたのではなかった。書いてあったのだ。入学式案内の新入生総代の欄に………
時計を確認するとまだ登校時間までは時間がある これからどうしようかと考え 、
少し歩いてから行くことにし 颯人は歩き出した。