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水脈を求めて 10



「おじいちゃん!?」


 その日もルルが水脈の候補地探索のためヴィリーを連れて、集合場所に行くとそこには村の長の姿があった。

 今回の計画にあたって、これまで村の長はあえて調査自体には関わらず、ジョージ不在時に何かあっても対処出来るように村の様子に注意を払っていた。


 しかし、先日カールが食堂で一喝した件で、余計な波風を立てたのではないかと本人は気に病んでいたが、あれから噂をしていた村人達はずいぶん大人しくなり、酒を煽る回数も減ったとの事だ。


 きっと、彼等も本気でルルが悪いと思っていた訳ではなく、カールの言葉に耳を傾けてくれはじめたのかもしれない。うまくいけば、このままルルへの噂がおさまる方向に進むのではないか。

 そう考えると、夜更けの水脈調査を頑張ってくれているルルに、少しでも元気を出してもらおうと、それとなくその事を伝えるために、今夜は村の留守をカールに任せてここまでやってきたのである。


 久しぶりの姿に、ルルは駆け寄った。


「おおっ、ルルいつもご苦労じゃな。今夜は儂もついてゆくぞ!」


 ルルにそう言いながら、先程からエッホ、エッホと腰を伸ばしたり、腕を伸ばしたり、足踏みをしたりして、何やらとてつもなくやる気をみなぎらせていた。

 ルルばかりに大変な役目を負わせる事になってしまい、せめて今夜くらいはほんの少しでも苦労を分かち合いたいとも考えた村の長だったが……。


「え? で、でも」


「歳だから、無理するな。と言ったのだが、ルルだけに苦労をさせて申し訳ないと、ごねられてな……」


 はりきる村の長を見て驚きながらも心配そうなルルに、アランがこっそり耳打ちしてくれた。


「心配されるな。まだ足腰はしゃんとしとるわい」


「……。耳はまだ衰えてないみたいだな」


 アランはそう言いながら、この調子だとルルが諭したところで、容易には諦めないだろう。どうしたものかと考えあぐねていた。

 同じくルルも村の長の気持ちはとても嬉しく思ったものの、やはり歳を考えると心配が先に来てしまった。するとそんな少女の様子に、ルーカスが「大丈夫、いざとなったら俺が面倒みるから」と助け舟を出してくれた。


「儂は、誰の世話にもならんぞ」


 これまた村の長に聞こえていたのか、そんな言葉が返ってきた。


 それでもしばらくは、アランが「歳だから」とか「無理すんな」とか最後まで説得を試みていたが、村の長も一歩も引く様子はなく、言い合いにまで発展しそうになったが、そこで間に入ったジョージのとりなしで、やっと候補地へと出発する事になった。


 頼りない月灯りのもと、夜道を黙々と歩いていく。

 さらに、ルルとヴィリーはフードを目深に被っているのにも関わらずしっかりとした足取りに、村の長は驚いていた。しかも、再々こちらを気遣ってまでくれる。


「おじいちゃん、大丈夫? 少し休んだ方が……」


「なんの、これしき……」


 かろうじて息切れはしていないが、やはり己の歳を感じずにはいられなかった。

 しかし、足手まといにだけはなるまいと、そう答えた時だった。


「な、何を、しているんだ!?」


 少し離れた茂みからガサリと物音がしたかと思えば、突然誰かが声を上げ、ルル達の前に立ちはだかった。

 すると、それをきっかけに松明に灯りともした人々が、ルル達を待ち伏せしていたのか、次から次へと茂みの影から姿を現した。


「長殿! これは……、これは一体どういう事ですか!?」


「ルル、お前ここで何しているんだ? 隣村にいるんじゃ、なかったのか?」


 ルーカスとアランがすぐさまルルの前に立ちはだかり、視線を遮ろうとしたものの、いくつもの松明に照らされては、フードを被っていても隠しきれるものではなかった。

 ルルの姿をはっきりと認識すると、村人達は矢継ぎ早に非難の言葉を浴びせた。


「何でルルが、王都の奴等と一緒に……」


「ルル、頼む。これ以上村には関わらんでくれ!」


「また、儀式の時のように台無しにされたら、たまったもんじゃない」


「お、俺達を恨んでるのか……?」


「ち、違うよ。そんな、恨むだなんて……」


 突然の事で、驚きながらもルルは震える声で否定したが、村人達の一度口から出た不安や不満は止まる事はなかった。村人達全員で畳み掛けるようにルルを追い詰め始めた。


「おい、話を聞け」


「そうだ。少し落ち着いてまず話を聞いてくれ……」


 アランとルーカスがルルを背に庇いながら、ひとまず落ち着くようにいさめたが、村人たちの矛先は二人にも向けられてしまった。


「あんた達が、何でこんな時間にルルといるんだ?」


「俺達に大人しく言うことを聞かせるために、前からルルと繋がってたんじゃねぇのか?」


「そもそも水脈なんて……。いくら掘ってみても、ちっとも水脈は見つからないじゃないか」


「っ……」


 村人達の勢いは、徐々に増すばかりだった。


 ルルはとてつもなく嫌な予感がしていた。

 この状況はまるで、あの儀式の時みたいではないだろうか。みんなの負の感情が渦巻いて、どんどん狂気に飲み込まれそうになっている。


 すると、村人の一人がおもむろに一歩前に踏み出すと、ルーカスやアランも、むやみに刺激してはいけないと分かっていたので、あからさまな態度には出なかったが静かに警戒を強める。


 しかし、ヴィリーはそんな悠長にはしていられなかった。

 今までルルの影に大人しく隠れていたが、その村人の様子に危機を感じ取ると、主を守るかのように、さっと飛び出しルルに近づくなと言わんばかりに、立ちはだかった。


 ――いけない! 今、ヴィリーの姿を見られたら……。


 ルルの背筋が一瞬にして凍った。


 しかし、時はすでに遅かったのである。




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